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百七話 番犬、おかしな永炎を訪れる

グレン「あちち……あっ、今回は俺っすね! ちょっとそれところじゃないんで最後までよろしくっす!」

 魔王城の魔方陣を経由して、俺は永炎に降り立つ。訪れるのは二度目だが、明らかに以前と違う点がちらほらと見受けられ、俺は早速ルーケル達を探した。


 嬉しいことに、ルーケル達をすぐに見つけることができた。


『よう。待たせたな』

「そんな待ってないわ……あら、イメージチェンジ?」

「大分さっぱりいったな」

『そうか?』


 俺は自分の手足を眺める。


 零雪原では巨大化を使って防寒対策をしていたのでかなりもっさりとしていたが、今回は対象的に肌のすぐそばまで毛がカットされている。


 それを見てダイアが微笑む。


「そうね……柴犬よりちょっと毛が短いくらいね」

『その例えは俺には通じないな……』


 シバケン……。でもなんだか語感は格好良いな。少し気に入った。上機嫌になって尻尾を振っていると、それを見てかルーケルが息を吐く。


「まあ、お前の変化はいいとして……どうだ? 何か異変があるか?」

『ああ、あるぞ』


 俺は辺りを見回しながら考える。


『まず、そこら中でマグマが噴き出している。前はそんなことはなかったはずだ。その影響かは知らないが、気温もかなり高い。毛を切ってきて良かった』


 ふと俺は思った。こいつらはずっとローブを羽織っている。


『……暑くないのか?』

「暑いに決まってるじゃない」

「暑いな。だが正体を露見させるわけにもいかない」

『そうか』


 やっぱり暑いのな。まあそりゃあそうだろうな。暑くないわけがない。暑いだろうな。うん。


 自分の中で一通り結論づけたところで、俺は改めて言う。


『あとは、雲だ』

「雲?」

『そうだ。あまりにも黒いし暗い。……禍々しい何かを感じる』


 空を見上げれば、漆黒が渦を巻いたりうねりをあげ雷は音を轟かせている。


 嫌な予感と悪寒とを同時に味わうような、そんな気分だ。あの雲がイカ墨パスタのイカ墨ならどれほど安心することか。たとえが脱線した。


 俺はルーケルたちに呼びかける。


『ひとまず、幹部のグレンのところに行く。そこにファイアもいるはずだ』

「……正気だったらいいわね」

「確率は五分だろう」


 そうルーケルは言うが、それは単なる気休めでしかない。


 五分どころではないのは、野生の勘でしっかりと伝わってくるのだから。


 俺たちはマグマの噴き荒れる岩道を進む。真っ黒な溶岩の隙間からマグマが噴き出せば、ダイアが能力で当たっても害のない液体に変化をさせる。


 ダイアのおかげで無事に例の洞穴に到着した。そういえばアイスも洞窟に家を持っていたが、こいつらは穴の中に住む習性でもあるのか。


 なんて冗談を言える状態じゃなかった。


『……これは無理だろう』


 洞穴は、岩石が真っ赤になるほどの強烈な熱量を持っていた。穴の前で立っているだけで皮膚が焼けそうなほどの熱気が伝わってくるし、今に洞穴の岩も溶け始める。


 俺はダイアに言う。


『これも行けるのか?』

「行けるけれど、どれだけ保てるかわかんないわ。それに、この熱、魔力を帯びてる」


 言われて俺も感じた。それは少し感じたことのある魔力。


 そう、ファイア自身の炎の魔力だ。


『くそっ。グレン! 聞こえるか!』


 ダメ元で俺は洞穴の中にいるであろうグレンに呼びかけるが、当然返事はない。


 手詰まりだ。どうすることもできない。


「……いっそのこと、この洞穴をぶち壊すか」

『正気か?』

「崩した方が早いだろう。熱もこもってるわけだし、中のファイアも確認できる。グレンは幹部だ。どうにかなるさ」


 確かに、それが一番手っ取り早く効果が出やすいとは思う。


 俺もグレンの心配はしていたが……まあ、あいつは大丈夫か。なんか不思議とそんな感じがするが、そんな感じがするだけだからやはり心配ではある。


 ただ、今はその案に乗っかるしかない。


「ケルベロス。お前も頼むぞ」

『わかった』


 俺は後ろ脚に強化と巨大化をかけて高く跳躍する。


 洞穴は、小高い丘の中にできている。俺はその丘の天頂へ狙いを定めて、両前足に強化と巨大化をかけて回転する。その時、ちらりとルーケルが俺の狙いの隣でこぶしを構えた。


『行くぞ!』

「おう!」


 回転力が加わった俺の前足が、丘へとたたきつけられると同時、ルーケルの拳が地面に突き刺さった。


 丘がミシミシと音を立てて割れ目を刻む。ダメ押しとばかりに俺はもう一撃をたたきつけた。瞬間、砂煙を上げて丘が崩壊する。


 俺たちは丘の上から脱出すると、丘があったところからマグマが噴き出した。それと同時に、影がひとつ、瓦礫の下から飛び出してきた。


 それは、全身に擦り傷を作ったグレンだった。――全裸の。


『グレン!』

「助かったっす!あのまま蒸し焼きになって溶けるところだったっす!」

「ふ、服はどうしたのよおおお!」


 ダイアがばっと顔を両手で覆って見ないように地面へと顔を向ける。


 女性に見られたというのに、グレンは何も恥ずかしがらずにあっけらかんと笑って答えた。


「溶けるに決まってるじゃ無いっすか! でもまさか超耐熱の下着が溶けるとは思わなかったっす!」

「……まあ、当然だな」

『それで、あれはなんだ』


 俺はマグマが噴き出してきた方を顎で指す。しかしそれはマグマではなかった。よく見ると、頭があり、四肢があり、それをつなげる胴体のようなものがある。


 嫌な予感は的中した。


「ああ、あれはファイアっすよ」

「……五大凶王に何が?」

「わかんないっす。頑張ってファイアも抵抗してたんっすけど、皆さんが来るちょっと前にあんな感じになっちゃったっす」

「間が悪かったわね」

『だな』


 もう少し早く来ていればよかったか……。なんて後悔しても仕方がない。


『どうする』

「一回大人しくしてもらうしかないだろう」

「あっ、俺弱点の位置わかるっすよ」

「なら、グレンに頼むわよ。……まだ顔上げられないわね」

「まあ伏せとけ。とりあえず、俺とケルベロスはダイアの魔法で耐性を付けてから気を引く」

『わかった。そうしよう』

「俺もそれなら行けそうっす!」

「話はまとまったわね」


 ダイアが目をつむったまま俺とルーケルに手を触れる。そこからひんやりとした魔力の感じが伝わってきた。すると、みるみる辺りの気温が気にならなくなってくる。


『最初からこれを使って移動すればよかったんじゃないか?』

「耐性系は魔力食うのよ。あたしだって無尽蔵じゃないんだから」

『ま、それもそうだな、悪い』

「いいわよ。自分の心配だけしなさい」


 なんと心強い言葉か。俺は体の芯から力が湧き上がってくる感じがした。はやる気持ちを抑え、ルーケルとアイコンタクトをとる。


 そして共にファイアを見据え、構えた。


 ファイアが空気を響かせるだけの咆哮を発する。


 ファイア戦、開始。 

グレン「最後までありがとうっす! どうだったっすか? 全裸なのは勘弁して欲しいっす! 想像しないで欲しいっすよ? ま、次回もよろしくっす!」

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