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百六話 番犬、ジミーと語る

ジミー「今日は俺だ! なんか、この先出番がない気がするから楽しんどくことにするぜ。最後までよろしくな!」

「おう、いらっしゃい!」


 零雪原から一度帰り一日。ルーケル達とはまた明日、永炎で落ち合うことになっている。お互い準備や休憩が必要だったからだ。特にダイアに、だ。だって俺はなんもしてなかったからね。


 そういうわけで、腹ごしらえのために一人で巨人定食屋へと来ていた。一応マトイも誘いに、珍しく自分から屋敷まで訪ねに行ったが、リンに。


『残念ながら、マトイ様はここしばらく長く屋敷を開けております。理由も行き先も残念ながら把握しておりません。召使いとして失格でございます』

『そうか。なら仕方が無い。リンも、別に気に負うことじゃないだろう』

『まあ、そんなに心配はしておりませんが、やはり落ち着かぬものです。まったく心配しておりませんが』


 というように、リンの珍しい一面を見ることが出来た。マトイもこれを聞いたら少し驚くのではないだろうか。「あいつが俺の心配を……?!」みたいな。


 そんな様子を想像すると、自然と笑顔が出てくる。マトイともずいぶん仲が良くなったものだ。


 元はこの国を混沌に陥れた、最も危惧すべき存在、勇者であったというのに……。牙を無くした野獣は、丸くなるということか?


 この場にいない友に思いをはせながら、俺はいつものカウンターの椅子に巨大化してサイズを合わせてから飛び乗る。それを見たジミーがさっとメニューを教えてくれる。


「今日は肉とサラダだぜ」

『肉単品でいいんだが。飲み物はミルクで頼む』

「まあまあ、そう言わずに食ってけよ。そういえば、マトイはどうした?」


 ジミーがミルクを俺が飲みやすい器に注ぎながら、当然の疑問を投げかける。


『さあな。長いこと家を空けてるらしい』

「へえ、珍しい。あの万年ニートみたいな野郎に何の用事があるんだか」

『なかなかひどい言い草だな……』

「はっはっは! あいつとは大分付き合いが長いんだ! なんなら、あの事件の後にあいつに飯を食わせてやったのは俺だからな」


 豪快に笑うジミーが、さらりととんでもないことを言った気がして、俺は思わずむせかえった。黒い毛並みがミルク色になってしまった。


 とりあえず聞き捨てならない、というか単に気になってしまったから、訊かずにはいられない。


『そ、それはなかなかのカミングアウトだが、いいのか』

「そんな易々と他人に喋れる内容じゃねえだろ?」

『それはそうだが』


 当然の判断と言えばそれまでだ。マトイにいまだ憎しみを持っている魔族も少なからずいるし、魔王が保護してやっているとはいえ、やはりあの事件は気持ちの良いものではない。


 微笑みを浮かべながら、「お前にならいいだろ」とジミーは語り出す。


「あん時のことは一生忘れらんねぇよ。俺ですら、どうして招いてやったのかも覚えてねぇ。ただ、なんだろうな……。こいつ、ほんとはいいやつなんじゃねえかって、そう思ったのかもな」

『ちなみに今はどう思ってる?』

「生意気でお調子者で、だが誰かを楽しませるのは人一倍うまい変なやつだ」

『結局なかなかの評価なんだが……』


 褒めるのかいじっているのかどっちなんだか。ただその語り方は、信頼している親友に向ける温かさに満ちていて、ジミーのマトイへの思いが感じられる。


 俺も、事件の後のあいつとの出会いは最悪だった。なんでか俺の毛を取りに来るし、あんま喋んないし、妙に緊張してよそよそしい。今思い返せば、それは別人だったのかと思うほどだ。


 それがどうだ。ひとたび喋るようになってからは、どんどんあいつのペースに飲まれていって、気まぐれでここに来て、それでさらに喋るようになって。今は……いい友だとは思っている。そんな不思議なやつだった。


『まあ、その評価も間違っちゃいないな』

「だろ? ほれ、お待ち。熱いから冷ましてからでもいいぞ」

『そうさせてもらうよ』

「その前にちゃんとこっちも食ってくれよ」


 そう言って、肉のとなりに並々に盛られたサラダが、この店特性のドレッシングとともにどんと置かれた。その重量感たるや……。


 俺はごくりと喉をならし、口を突っ込んだ。


『……やっぱ美味いな』

「幹部祝いだ。今日はタダで食ってけ」

『ありがとな。祝いついでにいろいろ話してくれよ』

「おう、常連が来たら止めるからな?」

『わかってるよ』


 そうして長々と俺たちは会話に花を咲かす。少し前までの街の様子。俺やマトイとの思い出。この店の経緯や恋愛まで。


 今思えば、マトイがいなかったら、こんないい店も、気の良い店主とも会うことがなかったのだろう。


 心の中で、俺はそっと感謝をすることにした。


『あと、ついでにいい床屋知らないか。永炎に行くからこの毛の長さだと暑くてな』

「おお、なら俺が切ってやろうか? 手先は器用だぞ」

『そうか、なら任せよう』


 さすがにこの毛だと暑くてたまらんのでな。俺の中でジミーの株がさらに上がった。 

ジミー「最後までありがとう読んでくれてありがとうよ! どうだった? マトイとの思い出について語り出したらキリがねぇ。それぐらい、俺はあいつのことが好きだ。……あ、俺には女房がいるからな? ま、次回もよろしくな!」

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