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前編

今野「本日は番外編の三本投稿となっております! 魔王の幹部になる前のパリスのお話です。よければ最後までよろしくお願いいたします!」

ボクは下級悪魔のインプだ。強いものに怯えながら、今日も弱いものには過酷な、過酷すぎる世界で生きている。


昨日は親が死んだ。一昨日は戦友が死んだ。


今日、ボクも死ぬんだろう。


「良いインプだ」


目の前で、そう残虐な笑みを浮かべるモノを見て、僕は無意識のうちに死を悟った。







ゴポリ。







……なぜ、僕は生きているのだろう。それに、なんだこの青い液体は。そして、なぜボクは水の中で呼吸ができている……?

液体越しに部屋の中を見れば、そこは無機質な岩盤で作られた部屋だった。その中に置かれている木材の家具たちへの違和感が拭えない。


「お、目覚めたか」


液体の外で、歪んだおとこの姿が見える。

“カガクシャ”の白衣に身を包んで、何かメモを取っている。ニヤリと感情の読めない笑みが、ガラス越しに見て取れる。


「大丈夫。殺しはしない。俺はそんなことのためにインプを捕まえやしないさ」


男が、ボクを守るガラスに手を置く。


「すぐにわかる。だから、待っていてくれ」


そう言って、ボクを置いて彼は部屋を出ていった。ガチャリと冷たい金属の音が、やけにボクの耳に響いた。


ボクはわけもわからないまま、液体の中で呆然とするしかなかった。


それから、ガラスの中で液体と暮らす幾らかの日々が過ぎた。その間に、彼はいろいろなことを教えてくれた。


ここが、“研究所”だということ。

彼は、魔族側にも人間側にもついていない、ただの“科学者”だということ。

ボクは、その研究のためにここに連れてこられたということ。


そして、実験は失敗しないと、確約をしてくれた。


そうして、ボクがこの研究所で目を覚ましてから三ヶ月。


「……完成だ」


彼が、ガラスの向こうでそう呟く。

何がだろう。そう思っていると、それは突然に訪れた。


ボクを満たす、唯一の同居人である青い液体が、どこかへ吸い込まれていく。途端。ボクに地面へ引っ張る力が襲いかかる。


目の前のガラスに手をつこうとするとーー


「ーーこんにちは。どうだい? 気分は」


あるはずのガラスがなくて、よろけたボクを、筋肉質な腕が支えた。


派手な金髪に似合わない白衣。その体は大柄で、筋肉質で、いかにも傭兵というような見た目をしている。少なくとも爽やかだとは思う顔の右頬につく傷が、ボクのイメージを肯定する。


ガラスの隔たりのない、科学者の彼の顔を見て、ボクは正直に答える。


「最悪だね。クソ科学者」


嫌味ったらしく言ったボクの言葉を、科学者は「はっはっは!」と豪快な笑い声でいなした。


「そうか! 直接の意見が聞けて嬉しい限りだ! そうだな。いきなりだが名前をつけてやろうか?」

「名前なんて、お前に決められたくないね。ボクは自分で決めるよ」

「ほーう? 生意気な口を聞くじゃないか。お前を助けたのは俺だぞ?」

「それが?」


ボクは裸足のまま、ドンドンと床を踏みながら科学者に詰め寄る。


「誰がどう頼んだのさ? ボクはあのままでよかったんだ。あのまま、みんなの元に帰れたらよかったんだ。なのに、邪魔をしたのはあんただろ!」

「それは違うな」


穏やかな笑みを浮かべたまま、科学者がボクを上から見下す形で告げる。


「お前の言う《みんな》ってのは、どこにいやがるんだ?」

「巣だ。ボクらインプはひとつの巣を作って、そこでみんなで暮らしてるんだ。だから、そこに帰れば」


「妖魔戦争で勝ったのはどっちだ?」


……妖魔戦争?


ボクはその単語の意味がわからなくて、ギロりと科学者を睨む。だが、すぐにボクの目の色は困惑に染まる。


……なぜ、こいつはこんなに哀れむような目をしているだ?


「……妖魔戦争。妖精と、インプーー小悪魔の戦争だ。お前の、住んでいたところがちょうど戦場の近くだったな」


さりげなく言った科学者の言葉に、はっ、とボクは息を呑む。


……そんなことはない。


「そ、そんな嘘は、通じないよ。は? 妖魔戦争? ボクの住んでたところの近くで? はは。ありえない。そんなの……」


「その戦争を止めたのが俺だ。……その時、お前に会ったんだ」


そんなの、ありえない。そんな、唐突に言われたって。そんなの、そんなの……。


「……信じたく、ないね」


ボクは力なくそう言って、科学者の体を突き放した。だが、ひ弱な体では反対にボクがよろめく始末だ。


――妖魔戦争。


確か、些細な領地の取り合いで起こった戦争だ。妖精族と、ボク達インプがそれでもめて――戦ったんだ。

そうだ。なぜ忘れていたんだろう。それで、死んだじゃ無いか。――みんな。


絶望のままに地面に身を投げ出そうとしたボクを、またあの腕が優しく受け止めた。


「……大切な奴を守る力を、教えてやろうか?」


「もう、家族はいないのに?」


「インプならいくらでもいるだろう?」


「……うん。同胞のためだ。でも、お前は信じてない」


「はっはっは。それでいい。それでこそ、弱者だ」


そう笑って、科学者はとある方向を指さす。


「とりあえず、まずは服を着てくれ。なんか知らんがな性別が反転してな。今のお前、全裸の童女だぞ?」


ボクは無言でクソ科学者の頬を引っぱたいた。

今野「最後までお読みいただきありがとうございます。二本目は本日17時に投稿予定です。そちらもよろしくお願いします」

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