百二話 番犬、土産を持ってくる
魔王「うむ。今日は我だ。更新をサボっていて悪いな。よければ最後まで見ていってくれ」
俺はアイーダと別れ、魔王城の最上部。カミラの部屋とは真逆の禍々しい、鉄と黒曜石で作られた扉を爪で叩く。少し待つと、その扉が開かれた。
「うぅ……むにゃ……ん? おー、ケル~」
超絶眠そうな魔王はパジャマ姿で目をこすりながら顔を出した。
……毎度思うがそれでいいのか、魔族の王よ。
俺は見せつけるようにため息を吐いて、尻尾にぶら下げた紙袋を揺らす。それに魔王も気づいたらしい。
『人間界の土産だ。アイーダと行ってきた』
「……ま、マジか。アイーダはいっつも俺にはくれないから、諦めていたというのに……」
普通に可哀想なんだよなぁ。アイーダよ。世の娘というのは父に対して大抵はそういう反応をするものだと、あの世界のネットにも書いてあったが、お願いだから無言でもいいからあげよう。な?
そんなことを今度会ったら言おう、なんて考えていると、扉がギィと音を立てて大きく開く。
「入ってくれ。たまには俺の部屋でお茶もいいだろう」
『……まあ、かまわないが』
かまわないが、親父よ。とても喜んでいるのがよく伝わってきて、息子としてはとても……うん、これ以上はいいだろう。キャラが立ちすぎだ。
俺は魔王が開けた扉をくぐり、部屋へと入る。
この部屋に来るのも久しぶりだ。百年、いや、もっとそれ以上ここには来ていなかったか。まあ、来ても面白いようなこともないし、外にいるのが好きだったからな。
ただ……。
『……やっぱり懐かしい香りはするんだよな』
「部屋の匂いというのは、持ち主にはわからないが、それ以外の者にはハッキリと伝わるのだ。俺もカミラの部屋に行くと安心する」
俺は無言でうなずく。不思議と感じる懐かしいこの匂いは、魔王が昔と変わらない生活を送っている証拠でもあるのだろう。
俺は長くここで育てられた。部屋は広いし、ベランダもあるし、なんなら、一日中魔王と一緒に遊ぶことができたから。そんな懐かしい思い出が嗅覚の刺激から引っ張り出される。
俺はなんとなくカーペットにうつ伏せになり、すんすんと鼻を鳴らした。
その視界の端に、そわそわと落ち着かない魔王の姿。
『……そんなに土産が気になるか』
「当たり前だろう! いくら俺でも魔方陣をいじるのは不可能だからな。ましてや別の世界に行くなんぞ、夢のまた夢! 世界の理を超える度胸は俺には無いからなぁ」
がっくしと広い肩を落として、心底残念そうにそう言っては、俺の土産を盗み見ようとせわしなく目を動かす。
本当に変わらない。子供っぽいというか。この部屋と同じじゃないか。
『ほれ、土産だ』
「よっしゃー! ありがとう息子よ!」
尻尾から飛び出して、紙袋が宙に弧を描いて魔王の腕の中にダイブ。我ながらいい腕前だ。今度マリンとアクアとかとビーチバレーでもしてみたい。
「開けていいか?」
『どうぞどうぞ』
魔王がかつて見たことがない笑顔でそっと紙袋の中からとりだしたのは――
「……? なんだこれは?」
それは、小さなゲーム機。
『俺もあまり知らないが、テトリス? とかブロック崩し? が、できるらしいぞ』
俺がアイーダとともに興味本位で立ち寄ったゲームセンターで、たまたま見つけて、また好奇心でアイーダの力を借りながらゲットした。何を借りたかというのは金である。今度ちゃんと返そう。
まあ、もちろん俺もプレイ済みなわけで。
『俺が教えてやるよ。なかなか面白いぞ?』
「ほう……?」
魔王がごつい指で小さな機体をいじくり回していると、ぱっと電源がついて、白黒のドットが現れた。
アイーダ曰く、これはそんなに珍しいものでもなく、またわざわざゲーセンで取ろうとする方が珍しいというが、俺だって自分の手で勝ち取ったものをあげたかったからな。金はアイーダ。
あっちでは見向きもされないようなものも、この世界では価値が付けられない財宝と同等だ。
魔王がいじっていると、リズムのいいBGMが流れてくる。俺も画面を覗き込む。
『ほら、そこの隙間に埋まるように……』
「うん? ほう? なあ、どうやって回転させるんだ? できるんだろ?」
『できるがそこじゃない。そこは一瞬で落下するボタンだ』
「何っ?! おい、歪な形になってしまったぞ!」
『まだ挽回できる。これをそこに……おい! 右回転だって!』
「左に三回回せば右だ! ……って間に合わねぇ!」
『いや! まだ行け……ないな』
一番上まで積み上がったブロックは、ボタンを押した瞬間消え去り、また同じBGMが流れ始めた。
「よし、リベンジだ。頼むぞ新幹部」
『初仕事がこれか……』
その夜、カミラに夜更かしを怒られるのだった。親父がうるさかったせいである。なんだかんだ楽しかったから許すがな。
魔王「最後まで読んでくれてありがとう。明日からはきちんと毎日投稿させてもらう。土産はとても楽しかったぞ。ケルベロスの2倍のスコアを稼げたからな! 次回もよろしくな」




