百一話 番犬、異世界より帰還する
今野「どうも、今野です! 先日、900ptを突破し、話数も100話を超えました! 皆様のおかげです!ありがとうございます! 今回もよろしくお願いします!」
「あら、お帰りなさい。長かったわね」
視界が白い光から解放され、あの部屋に戻ったとき、カミラは優雅に本を読みながら紅茶をたしなんでいた。なぜここで。
『俺の人化が解けた瞬間に帰されたんだよ』
「だいたい日数としては二週間よ」
俺もアイーダも、なかなか帰れないから驚いたし、不安だった。それが、俺の人化が解けた途端に光に包まれたのだ。世界の理とは、なかなか扱いやすくできているのかもしれない。
ギリギリで手に取ることができたお土産を、アイーダはカミラに差し出す。
「はい。お土産よ」
「あら、ありがとう。ふふ。これ、結構好きなのよ」
「あっちじゃ普通のものなんだけれどね」
あの世界ではそこら中に転がっているものでも、ここでは値が付けられないほどに価値がある。
あの世界での価値を知っているアイーダは、やれやれと首を振り、俺はその様子に思わず微笑んでしまう。俺はあとで親父に土産を届けてやろう。口に合うかは知らないが。
もちろん俺が親父への土産を買っていることはアイーダも知っている。俺の尻尾にぶら下がる袋がそれだ。
俺と顔を見合わせたアイーダが微笑み。それを見たカミラが袋を開けながらふと口にした。
「……あなたたち、何かあったの?」
……………………。
『いいや、何も』
「ええ、何も」
「そう。ならいいのだけれど。事件に巻き込まなかったかと心配になったわ」
うむ。そういう事件は全くなかった。超平和だった。平和過ぎて告白しちゃったもんね。その後も結構いろんな所遊びに行っちゃったもんねッ。アイーダは俺と視線を合わせてくれない。
照れを誤魔化すように、俺は話題を変える。
『じゃ、俺は持ち場へ戻るよ。みんな生活習慣は大丈夫だったか?』
「ダメな人はダメだったわねぇ。あの人も、ケルの声が無いから眠りっぱなしだったわ」
おおう。そりゃ被害甚大だな。あの世界にあったレコーダーとスピーカーを持ってきて、俺の声を録音せねばならないではないか。学校のチャイムだな。
改めて自分の目覚まし時計としてのやりがいを感じつつ……目覚まし時計しか自分の仕事がないことに気づいてしまったがそれは置いておこう。
『それじゃ、そろそろ本当に行くよ』
「あたしもパリスのとこに行かなきゃ」
「そう。私はもう少しここにいるわ。じゃあね」
カミラに見送られ部屋を出て、俺たちはキョロキョロと廊下を見回し、そして何を言うでもなく顔を見合わせた。
『……犬の状態でも顔が火照るってありえるか?』
「し、知らないわよ。……ただ、さすがに犬のあんたを恋人とは思えないわね」
『俺はお前が可愛いことは認識できるからドキドキするぞ?』
「……調子狂うわね」
ただ、犬の状態だと人の時よりはドキドキしない。おそらく俺のこの顔の火照りは、昨日までのことを思い出してのこと。きっとそこに今は恋愛感情はない。
複雑な恋をしてしまった。その実感は間違い無くある。
『ま、これからもよろしくな』
「ええ。よろしく。それと……もふもふしていいかしら?」
『もちろん』
これは前から約束していたことだ。俺は首筋をさらけだし、そこにアイーダが顔をうずめる。
こうしていると、あの時告白したことを思い出す。……あんま格好良いこと言えてなかったな、とか、あれでよかったんだろうな、とかいろいろと考えたりはする。
それでも、自分の決断と勇気に後悔はない。
しばらくその状態でいて、満足したのかアイーダが顔を上げた。
「それじゃあね、あたしの黒犬の王子様♪」
……白馬の王子とかけているのだろう。そんな漫画を、アイーダの部屋で見た。
犬の心臓は、バクバクと俺の体の底を震わせた。
今野「最後まで読んでいただきありがとうございます! 3/29に、番犬祭と称して三本投稿を行います! 今回はパリスの過去を元にした番外編となりますので、そちらもよろしくお願いします!」