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九十七話 番犬、都会に足を踏み入れる

今野「本日は前後書きを割愛させていただきます! 今回もよろしくお願いします!」

……城よりも高い建物。あの世界よりも熱すぎる気温。そこら中を走る鉄の入れ物。皆が手に持つ薄い機械。そして何よりも単一種族が蔓延るこの世界。


何もかもが異質。何もかもが非日常。俺の常識が一切通じない。


と、いうことを昨日のうちにアイーダに聞けて良かった。ちなみにそのアイーダも俺の隣で薄い機械、またの名をスマートフォンを操作している。俺はちょっと触らせてもらったがまったく使えなかった。むずい。


俺たちは今、駅のホームでデンシャなるものを待っていた。ドラグーンが生き物を運んでくれる駅は魔界にもあったが、この世界では電気で動くデンシャが頼りなのだそうな。


しかも驚くべき点は、ここは地下だということ。この世界では俗に“チカテツ”と呼ぶらしい。地下を生み出し、さらにそこにデンシャなるものを生み出す人間は、やはり賢い。


さあ、果たして一体どんなものなのか。


俺も初めて見るその姿にわくわくしていると、プァンと音を出して、俺たちの前に、デンシャがやってきた。扉と思わしきところの真っ正面に立つ俺の腕を、アイーダが引いて扉の脇に俺を寄せる。


急に引っ張られてむっとする俺に、アイーダが言った。


「降りる人優先っていうマナーなの」

「あー……なるほどな」


扉が開き、その向こうからたくさんの人々が降りてきた。確かにこれは真正面に立っていては邪魔になる。そこまでの気遣いができる人間もすごい。もうなんでもすごいと言ってしまいそうだ。


降りる人がいなくなると、今度は両脇に待機していた人々がデンシャの中に入っていく。


中は電気の照明で明るく、掴むための手すりとつり革なるものがたくさんぶら下がっていた。


座る場所もなさそうなので、俺たちは開かない方の扉にもたれかかる。


「それで、今日はどんなとこに行くんだ?」

「そうね。大須でも行こうかしら。大きい商店街があるのよ。うちの城の前にあるのよりも大きいぐらいのが」


ほう。俺はあの商店街しかしらないが、それでもあそこは広いと思っている。ということはよほど広いのか。


だがしかしアイーダよ。あの城下町の商店街はそこら中に分散しているから、多分比べるのは難しいと思うぞ。


何駅もデンシャに揺られ、途中で乗り換えたり、そのたびに俺が道に迷ったりしながらようやく目的地であるオオスに着いた。


しかし今度はその商店街に入る手前の建造物に興味を引かれてしまった。


「……不思議な形の門だな」

「大須観音。この国は仏教国だからね。ほら、うちの世界にもいるじゃない。妖怪の先祖というか、妖怪が生まれた原因、かしらね」


妖怪の先祖……妖怪の先祖?


「そんなものがいるのか?」

「ええ、いるわよ。三百年かもっと昔のこの国の人々が勝手に妄想して、それがこの仏教っていう神の信仰と結びついて生まれたのが妖怪……のはずよ」

「物知りだな」

「デイジーさんとかにも訊いたもの」


なるほど。仏教……仏か。神の一種だと俺も聞いたことがあるが、あっちの世界ではみなかった。しかし妖怪の存在はあった。


確か妖怪たちは、別の世界から来た魔物だとは聞いていたが、まさかそんな経歴があって、こんな国で生まれたとは。


俺はきょろきょろと辺りを見渡す。


……まったくこいつらが原因のようには見えない。アイーダも三百年ぐらい前と言っていたし、そりゃあ今を生きるこいつらには関係がないか。


三百年かぁ、と俺も昔を懐かしんでいると、アイーダが「行くわよ」と言って門をくぐる。後から聞いたこの門の名前は鳥居らしい。


「参拝してく?」

「俺は親父を崇めてるから遠慮しとく」

「何よそれ。……お父様がご神体はちょっと気持ち悪いわね」

「だな」


俺もあとから考えて思った。想像以上に気味が悪い。俺の元に駆けてくる魔王……うっ、殴り飛ばしたくなってきた。想像をやめよう。


ちなみに、あの世界のどこかでは本当に魔王を崇拝する種族がいるらしい。


「……マミーならば信仰されても違和感ないけどな」

「確かにね。あの人ぱっと見女神よ?」

「冗談抜きで共感する」


魔王よ、どんなつながりがあったんだ。どんな出会いがあったんだ……?


そんな他愛ない会話をしながら、俺たちは商店街に入る。


「すごい人だな」

「結構この地域じゃ有名な観光地だもの」

「なるほどな。観光地、ねぇ……」


俺ら的な感覚で言えば、大森林や絶死海に遊びに行くようなもの……遊べる気がしないな。この世界の娯楽はどうなっているんだ。そろいが良すぎる。


「で、今日はあんたの服を探しに来たわけだけど」

「そういえばそうだったな」

「昨日も、あんたの服無くて着替えてないし、早く探すわよ」


その通り。俺は昨日アイーダの家に泊まったわけだが、当然俺の服はなかったので、昨日の服のまま来ている。


別に俺は気にしないが、長く日本で過ごしたアイーダは気になるそうな。


「ま、服屋はそこら中にあるし……いろいろ着てもらうわよ」


……多分だけど、いっぱい着替えさせられるんだろうなぁ。


まあそれも結局は楽しみなので、俺は素直にうなずいた。 

今野「最後まで読んでいただきありがとうございます! 次回もよろしくお願いします!」

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