九話 雨宿りは番犬の小屋で!
今回は少し長めです!
魔王とのピクニックの翌日。
俺は、珍しく寝坊をしてしまった。
そして、俺一匹の存在がどれほどのものかも知った。
なにせ、昨日のあれは相当厳しかったから、仕方がないだろう。
起きた時はそう思っていたのだ。
外に出て太陽を見れば、もう既に頂点にあった。
だが、俺を最初に襲った違和感はそんなものではない。
通りに人がいないのだ。
門番も立っておらず。通りの商人の人影一つ見えない、この異様な光景。
俺はなぜか考えた。そして気づいた。
————あ、遠吠えしてないや。
すぐさま遠吠えをする。すると、案の定。家々の明かりがつき始め、兵士たちの声が聞こえ始めた。
そして、俺は思ったのだ。
————自分で起きろよ。
ってな。
「おはようございます! ケルベロス様!」
『“こんにちは”』
「え? もうそんな時間でしょうか?」
『太陽見ろ太陽』
兵士たちが揃って上を向く。すると、やっと気づいたのか、慌てだす。
「き、今日は遠慮しておきます! それでは!」
『いってらー』
駆け足どころか、猛ダッシュで去っていく兵士たち。
見送る俺の視界の中には、慌てる商人。慌てる婦人。慌てる巨人・・・・・・。
自分で起きろよ。
俺は、それをボーッと眺めながら、再びそう思うしかなかった。
「ケルベロスー!」
突然高い声に名を呼ばれる。
俺はそちらを向く。
『よお。小僧たち』
「こぞーってゆーなー!」
「も、もふもふ・・・・・・」
「やっほー!」
「・・・・・・」
「遊びに来たよー!」
いたのは、ついこの前あった五人の子供たち。
それも、よく見れば全員亜人のようだ。
『なんの用だ?』
「今言ったじゃーん」
「聞いててよね!」
「もふもふ・・・・・・」
「・・・・・・」
一斉に口を開くもんだから、俺はもう何がなんやら聞き取れない。
『あー。一人ずつ喋ろ。俺にはそんな超能力はないからな』
「じゃ、僕が喋るよ」
と、出てきたのは、この前一番最後に家まで送った少年。
見た目はほぼ人間だが、きっとこいつもなにかの亜人種なんだろう。
『なんか久しぶりだな』
「そう? まだ四日とかじゃない?」
大人びた口調でそう話す。
友達の前だから、背伸びしているのだろうか、必死な様子が微笑ましい。
「それでさ! ぼく達、ケルベロスを遊びに誘いたくて来たんだ!」
遊びねぇ・・・・・・。
まぁ、昨日修行行ったばかりだけど、大分寝たし。たまには遊んでやるか。
『ああ。いいぞ』
「ほんと!」
「やったー!」
「わんちゃん来たー!」
「遊ぼ! 遊ぼ!」
「・・・・・・」
嬉しそうにキャッキャキャッキャとはしゃぎ出す。
一人ずっと無言だけど大丈夫かな。
『とりあえず。まずは自己紹介をしようか』
「そだねー!」
「自己紹介かぁ・・・・・・」
「自己紹介したらもふもふさせてー!」
「・・・・・・」
「じ、じゃあ。僕からするね」
なぜか、自己紹介と聞いてまたテンションが高くなる子供たち。そして、最初に出てきたのは、仕
切っていた人間のような見た目の男の子。
「えっと。“ゾンビ”のカイです! す、好きな色は、オレンジ色です! よろしくお願いします!」
『よろしく』
「おおー」と、拍手が上がる。
なるほど、人間のような見た目だったのはゾンビだったからなのか。
「つぎー! ぼくー!」
続いて出てきたのは、血色の鱗を身にまとった男の子。
「アランー! 竜人だよー! 好きな食べ物はー・・・・・・魚! よろしく!」
『元気があってよい』
またも拍手が上がる。
なんというか、見た目通りだなって。
「次はわたし!」
次に出てきたのは、薔薇のような赤色の髪と、緑色の肌を持つの女の子。
「植人種薔薇のサリーよ! 好きなのもはわんちゃん! よろしく!」
『俺のことが好きだって?』
「もうちょっとちっちゃい方がいいわね」
『あ、振られた』
「ハハハ」と、笑い声が上がる。
なんだかこの女の子。アイーダみたいな性格だな。
「つぎー。おれー」
次に出てきたのは、サリーとは打って変わって燃えるような赤い皮膚をもつ男の子。
「火竜のレンだぜ。・・・・・・もふもふしていい?」
『燃えるケルベロスさんにならないか?』
「なったら困るよ!」
「燃えるケルベロスー!」「おもしろそー」と、なぜか子供たちにうける。・・・・・・おい。面白そうって言ったの誰だよ。
「・・・・・・最後・・・・・・わたし」
最後に出てきたのは、黄土色の肌と、前髪が隠れるほど長い茶髪の、子供たちの中では背の高いか弱い女の子。
「砂人・・・・・・アレッタ・・・・・・よろしく」
『おう。よろしく』
拍手が上がる。
『さて、自己紹介が終わったが何をするんだ?』
「ふふん・・・・・・。それがね! 実は・・・・・・」
興奮が混じった声でそう言ったかと思ったら、聞かれないようにしようとしているのか、急に小声で話しかけてくる。
「ぼく達。この魔界街の外を探検したいんだ!」
抑えてるつもりだろうけど、たぶん他の人にも聞こえてると思う。
とまあ、それは置いといて、魔界の外か・・・・・・。
『・・・・・・俺がいるから大丈夫かもしれないが、万が一があっちゃあれだからな。お前ら、親に確認はとってきたか?』
「へ? か、確認?」
既に行く気が満々だったのか、固まる子供たち。
「も、もちろんとってきたよねー!」
「た、たぶんー」
「そ、そうね。あ、あたりまえよね」
「とっ・・・・・・てきた・・・・・・ぜ?」
「・・・・・・してない」
してないんかい。
はあ。やんちゃな小僧どもだ。
『ほら、行ってこい。ちゃんと聞いてきたら行ってやるからよ』
「ほんと?」
『ほんとほんと』
五人の子供たちが集まり、作戦会議のようにこそこそと話し始める。
(・・・・・・行ったふりしてさー)
「いいじゃん!」
「ばか! 聞こえるだろレン!」
「お前もだぜ! アラン!」
「ちょっと! 静かにしなさいよ! 聞えちゃうわ!」
大丈夫だぞー。思いっきり聞こえてるから。
(じゃあさじゃあさ・・・・・・みんなで行ったふりして、すぐに戻ってくれば・・・・・・)
(遊べる時間が増える!)
(そうゆうこと! オッケー?)
(((オッケー!)))
オッケーわかった。
「じゃ! 行ってくるね!」
『おーう。行ってこーい』
四人の子供たちを見送る。
さて、帰ってきたらなんと言ってやろうか・・・・・・。と、俺は一人その場にとどまる砂人のアレッタに気づく。
『お前は行かないのか?』
「・・・・・・うん。親。今いない・・・・・・」
『仕事か?』
「うん・・・・・・」
それだけ言って黙り込んでしまう。
どうにも俺は、静かなタイプが苦手で、声をかけられずに沈黙が流れる。
すると、四人の子供が戻ってきた。
「行ってきたよー!」
「早く! 早く!」
「行きましょ!」
「行こうぜ!」
まあ、元気がいいこと。
まあ、もうすでに俺は知っているのだがな。
『やけに早かったじゃないか』
「「「「えっ」」」」
途端に四人の子供が固まる。
『ん? どうした? ちゃんと親のところまで行ってきたのだろう?』
「え? う、うん! も、もちろんさ! ね、みんな!」
「行ってきた行ってきた・・・・・・」
「・・・・・・行って来たわよ?」
「な、なにも言わないぜ・・・・・・」
もう視線が動揺して泳ぎまくっているじゃないか。
『はあ。俺は知ってるんだからな。ほら、一緒に親のところまで確認しに行くぞ』
「あー! まさか、アレッタちゃん言ったでしょー!」
「そうだぜ! アレッタだけ来なかったもんな!」
「えっ・・・・・・違・・・・・・」
「ひどいよ!」
おっと、これはまずいな。
『おい。お前たち』
「ねー。アレッタに聞いたんでしょー!」
『違うから、アレッタをいじめてやるな。こいつは何もしてない』
「嘘だー!」
「かばってるんだー!」
次々に子供たちが口を開く。それを聞いたアレッタは今にも泣きだしそうだ。
俺も、子供の扱いには慣れてないから、いいことは言えないが・・・・・・。
『俺は耳がいいんだ。全部丸聞こえだったぞ?』
「「「「えっ」」」」
俺の言葉を聞いた途端に固まる子供たち。
なんか、この光景さっきもみたような・・・・・・。
『親のところ行く振りして帰って来たんだろ? 全部聞こえていた。アレッタは何も悪くないんだ。ちゃんとアレッタに謝りな』
真実ぐらいは伝えなければならないだろう。
「アレッタちゃん。ほんとに? 何も言ってないの?」
「わ、わたしは・・・・・・言ってないよ」
「ごめんなさい」
「ごめんね」
「ごめん」
「あ、う、うん。大丈夫だから・・・・・・謝らなくても・・・・・・」
ふう。これで、一件落着か。
それにしても、子供の世界も大変なんだなって思う。
「ケルベロスー!」
と、ゾンビのカイに呼ばれる。
『なんだ?』
「今度はちゃんと聞いてくるからさ! ここで待ってて!」
『ほんとうか?』
「うん! ほんと!」
『わかった。じゃあ、約束してくれよ』
「うん! 約束! じゃあね!」
カイが無邪気な笑顔で俺と約束し、城下町へ走っていく。
「行ってくるー!」
「行ってきまーす!」
「行ってくるぜ!」
他の三人も、カイに続いて走る。
そしてまた、俺とアレッタの二人が残る。
『アレッタ。大丈夫だったか?』
「うん・・・・・・平気」
そう微笑むアレッタを見ると、大丈夫だと伝わってくる。
ポタッ。
「あ・・・・・・」
『お・・・・・・』
突然上から降ってきたしずくに、俺たちは顔を上げる。
風の匂いも変わって、空が黒くなる。
そう。通り雨だ。
ちなみに、この世界の通り雨には、一つ特徴がある。
『まずいな。ほら、早く俺の小屋に入れ』
「う、うん・・・・・・あっ」
ズシャアッ。と、アレッタがこけてしまう。すると、雨が降り出す。
ドッポン。と、不思議な音をたてて落下する雨。それは、もはや”雨粒”という生易しいものではなく。一種の魔法であった。
ザバアァ・・・・・・。
滝のような水の塊が、アレッタを襲う。前に、俺はアレッタを咥え、小屋の中へ。
まあ、扉は内開きだから、思いっきり水に浸かってしまうのだがな。
水が引き、その力で扉が勝手に締まる。
俺は、アレッタを口から離して尋ねる。
『アレッタ。大丈夫か?』
二人とも、びしょびしょでになってしまった。
なんか、暗さのせいか、アレッタの肌の色がこげ茶色になっているような・・・・・・。
「あ? 大丈夫だよ」
・・・・・・ん?
なんだか、さっきと全然口調が違うような・・・・・・。
「なに固まってんだ」
アレッタ(?)が、俺の顔を覗き込んでくる。
『いや、さっきと全然口調が違うから、少しびっくりして・・・・・・』
「あー。そういうことな。よく言われるよ」
もう慣れていると言うように、頭をかく。
「あたし、砂人って言ったろ? なんか、砂人の中には、こうやって水を吸うと人格が変わるやつが多いらしいんだ。そのせいだよ」
なるほどな。そういうことか。
俺も長く生きているが、砂人とは縁がなかなかなかったから、知らなかった。
「あいつら、大丈夫かな・・・・・・」
アレッタが心配するようにつぶやく。
『まあ、一滴しか落としていかなかったし、大丈夫だろう』
「そうだな。あー! やってらんねえよ! あいつらと遊ぶなんてさ!」
『なんだ、遊ぶのが嫌なのか? さっきはあんなに心配してたのに』
「それはそれ! これはこれ! だってよ。あたしは”お守り”だったんだぜ?」
・・・・・・お守り?
『待て、お前今何歳だ?』
「あたし? 十五だよ。十五だからってお守りを押し付けやがって・・・・・・。あっちの人格でお守りなんてできるわけがないだろうが!」
じゅ、十五だったのか・・・・・・。
たしかに、子供たちより背が高かったが、まさか十五歳だとは。
『そんなにあっちのアレッタに愚痴って大丈夫なのか?』
「大丈夫だよ。あたしはあっちを知ってるけど、あっちはあたしを知らない」
なるほどな。
・・・・・・おっと。誰かが扉からこっちを覗いてるじゃないか。
「・・・・・・アレッタ姉ちゃん?」
扉から覗いてたのは、四人の子供。
「あ・・・・・・。みんな・・・・・・聞いてた?」
おずおずとアレッタが尋ねる。子供たちは、おびえたようにコクリと頷く。
「あー・・・・・・そうか・・・・・・」
「お姉ちゃん。僕たちのこと、嫌いなの?」
かなりショックを受けているのか、そう尋ねるカイ以外は、みんな黙ったままだ。
「えーっと・・・・・・その・・・・・・」
「さっき、アレッタにあんなこと言ったからなの?」
困ったようにアレッタがこちらを見てくる。
『・・・・・・素直になればいいんじゃないか?』
最初の心配していたアレッタに、な。俺にはそれしか言えない。
ふうーっと、一つ深呼吸をし、アレッタが口を開く。
「そんなわけねえだろ。嫌いだったらお前らには構ってねえよ」
淡々とそう告げるアレッタ。
「ほら、一回外出るぞ、ここじゃ狭い」
扉を引き、アレッタが外に出る。
「お前ら、”戦いごっこ”。好きだよな?」
「う、うん・・・・・・」
唐突に子供たちに語り掛けるその口調は、さっきまでと全くおなじだ。
「かかってこいいやあああーーーーーー!」
「おりゃあああーーー!」
さっきまでの暗い空気などなんのその。急に戦いの火ぶたが切られる。
・・・・・・なんだこれ。
あの空気から一転し、今。子供たちとアレッタが楽しそうに”たたかって”いる。
俺。ついてけないよ。
眺めることにした。
「ワンちゃんシールド!」
・・・・・・。
『なんだ?』
「今シールドだから!」
「あー! アランずるーい!」
「へへっ! 使ったもん勝ちだもーん」
・・・・・・たまには遊んでやるか。
『残念だったな! 俺も参戦だ!』
「わー! ダイビングアターック!」
レンが飛び込んでくる。
「もふもふー!」
『おりゃあ! 振り回しだ!』
「わー! 回るー!」
「俺も俺も!」
「わたしも!」
「僕もー!」
きづけば、全員俺の体につかまっていた。
それを眺めるアレッタに気づき、回転を止める。
『こないのか?』
「いや、お守りだし、別に・・・・・・」
そう言って、目がちらちらとこっちを見てくるじゃないか。
『ほら、みんな。ニヤニヤした目で見てやれ』
「はーい!」
「は? ちょ、何・・・・・・」
まったく。素直じゃないな。
「アレッタねえちゃーん!」
カイがアレッタに向かって叫ぶ。
「こっち来なよ!」
子供の無邪気とは、いいものだな。
はあ。と、大きなため息を吐くアレッタ。
「しょーがねーなー!」
今日も魔界は平和です。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか? 正直に言います。まだ子供たちのキャラを自分でも覚えていません(殴)。まあ、何はともあれ、番犬隊編スタートです!




