LUCK値ゼロで異世界転生
僕は不幸だ。
空は真紅に燃えている。飛ぶ鳥も紅く、姿は歪んでいる。腕も紅く、ひどく歪だ。自分の身をもって、初めて人体の構造を実感する。周りは喧騒に溢れている。とても人の声とは思えない音が頭の中で鳴り響く。醜い。世界が醜い。僕が醜い。世界に霧がかかって行く。それが眼の閉じていくせいだと気づく。霧がかかる。歪な鳥にも、歪な腕にも、歪な喧騒にも。そして全ては、暗黒に包まれる。
僕は不幸だ。死んだと思えば五体満足で知らないところにいた。街。道の上。僕が生涯を終えた場所と同じ。しかし、世界は似ても似つかない。狂ったように高い四角い箱も、僕を轢いた鉄の塊もない。起き上がり、何処へともなく歩いていく。人々が僕を見る。やはり僕は不幸だ。女性が声をかけてきた。「ねえ、貴方道の真ん中に突然現れたけどどうしたの?何処から来たの?」ああ、僕に話しかけないでくれ。僕と関わると、貴女まで不幸になってしまう。「何言ってるの、不幸が感染る訳ないでしょ。そんないつまでも下向いてると、幸運でも不幸でも関係なく失敗するわよ。」ああ、やはり貴女も不幸だ。僕のせいだ。僕と関わったから貴方も不幸になってしまった。「貴方もほんとネガティブねえ…。それより、どうせ行くあてないんでしょ?とりあえず、私の泊まってる宿に今日は止まらない?」ああ、貴女は優しい人だ。それ故に不幸。貴女はこれからどんどん不幸になって行ってしまう。「私はハルル・ファンデミーナ。貴方は?」僕は生前言い飽きたなんの面白みもない平坦な名前を伝える。「ふーん…珍しい名前ね。まあいいわ、ついて来て。宿まで案内してあげる。」ああ、本当に貴女は不幸な人だ。
宿屋に着く。彼女は交渉が上手いようで、部屋は簡単に借りられた。彼女の部屋とは隣のようだ。「それじゃあ、これからどうするかは明日話し合いましょ。おやすみなさい。」僕も適当な挨拶を返し、此処で初めて手に入れた僕の城を少し満足げに一望しながら、灯りを消した。
ああ、かわいそうに。かわいそうなハルルさん。ハルルさんの胸から血が溢れ出ている。生臭い。汚らわしい。かわいそうに、かわいそうに。僕と会って貴女も不幸になってしまったんだ。不幸だからこんなことになったんだ。かわいそうに、かわいそうに。きっと彼女に空は紅く見えているのだろう。自分の体も紅く歪んでいるのだろう。かわいそうに、かわいそうに。これは仕方のないことなんだ。貴女が不幸だから、貴女が不幸になってしまったから。
ハルルさんの払ってくれたお金で僕は宿を出た。街は、何やら女強盗が死んだという噂であふれていた。かわいそうに。きっとその人も不幸だったのだろう。「あの…すいません…」また誰かが僕に声をかけてきた。かわいそうに。貴女は不幸になってしまった。この人もやらなくてはならないのか。
自分で蒔いた種は、自分で殺さなくてはならない。
騙してすまない。