4話
――ガタゴトガタゴト
現代社会において馬車に乗った経験がある人間はどれだけ居るのだろうか。
そもそも、移動手段として自分の足以外を使い、更に荷物や多人数を運ぶ為に箱を作る。
そんな単純な事で人類史は文明速度を一気に速めた。
―――つまり、何が言いたいかと言うと。文明って素晴らしいって事だ。
灼熱の地獄から一転して私は馬車に乗せられて居る。まぁ、正確には馬車に乗った男性の膝の上に乗っている。
男性の名はティグルさんと言うらしい。
なんで私がこんな状況になっているのかと言えば割と紆余曲折があったのである。
ティグルさんはお世話になった村に恩返しすべく馬車を走らせていたが私を見つけ、保護。
外である為、手厚い看護とまでは行かないが、貴重なポーションを使って私を回復させてくれたらしい。
らしいってのは、勿論私は意識が無かったからだ。後、ティグルさんに唇を奪われてたらしい。
ティグルさんに含む所は全くない。無いよ?人命救助だったんだし助けてもらった身の上でどうこう言うのはおこがましいって分かってるよ?けどさ、私もうら若き乙女であって―――オイ、誰だアラサーが乙女ってwwwって嗤った奴。
まぁ、あれは事故だ事故。それに、目覚めて気づいたらアラびっくり!!私の身体縮んでた。私の体感的には7歳前後位かな?でもティグルさん曰くどう見ても5歳にも満たないらしい。
ま、まぁ日本人って若く見えるって言うしね?うん。
私の驚きはまだまだある。明らかに人種の違うティグルさんと会話が成立したこともそうだし、先ほどのポーションである。
―――ぽーしょん?ゲームとかでよく見るアレで確か凄い前にジュースとして販売されて割と有名になったアレ。
ではなく、本物のアレである。薬効成分あらたかなゲームのアレである。
勿論疑ったさ。だってポーションだよ?助けてくれたらしいけど正直「何言ってんのコイツ?」とか思ったよね。
でも、ティグルさんは至って真面目でまともで。間違ってたのは私の方。
「―――異世界とかラノベかよぉ……」
ティグルさんの膝の上、私は何度目かになる呟きをぽそりと零す。
そう、異世界。私の住んでた世界とは異なる世界。
トンネルを抜けると其処は異世界でした―――やったね!私。異世界転生しちゃったよ!!
訳が分からない。ホントもう訳が分からないよ!!何、異世界転生って!!そりゃ巷には異世界転生やらは溢れかえってますよ?でもそれはファンタジーだから楽しいんであって、実際に自分の身におこるなんて想定外でしょ!
私、トラックに轢かれても居ないし召喚陣に巻き込まれたりもしてないし神様的なのに会っても居ない。
しかも体が縮んで灼熱の荒野にポツンとか責任者を呼べ!!!
いやまぁ、灼熱ってのも私の体感だし実際にはそこそこ暑い程度だったし?体の変化だって最初は気付かなかったし?服とかも変わってたけど気付かなかったし…いや、何で気付かなかったと言われても気付かなかったとしか言いようがない。でも、でもさ?部屋に居たらいきなり荒野で異世界でってテンパるのは当たり前だよね?まさにテンパリングってやつだったんだよ。―――テンパるの現在進行形ね。テンパリング。別にチョコとかは関係ない。
気付かなかった事は後一つ。私は全く見覚えの無いポシェットを持っていたのだ。
シルエット的にはハートを逆さにしたような形で全体的に丸い。でも違う形状。色的にもアレ的にも何ていうか…そう、栗にそっくり。いや、意味分からん。私の外見が5歳程度の幼女ならば持っていても違和感は無いだろうけど、それにしても栗だよ?イガはついてない。中身を確認したけど空っぽだった。なんじゃそら。
もうホントに意味が分からなさ過ぎてかなり混乱しつつもティグルさんに八つ当たり気味に泣きついた。
ティグルさん曰く、私は漂流者なんじゃないかって。なんじゃそれ?って思うよね。
なんか、この世界は終の海ってので4つに分断されているらしい。んで、その終の海は行けども行けども何処にも辿り着けなくて結局元の場所に戻ってしまうんだって。
でも、たまーにその終の海からモノやヒトが流されてくるらしい。それが分断された場所からなのか別の世界からなのかは分からない。けど、ヒトの場合は漂流者。モノの場合は漂流物って呼んでるらしい。…まぁ、設定以外は普通の呼び方だった。
けど、私は海から流れ着いたワケじゃないしそこんとこどうなんだろうって思ったけど、ティグルさんも漂流者の事をよく知ってる訳じゃないので真相は分からないって。
問題はこれからどうするか。私は幼女になっちゃったしこの世界に知り合いも生活基盤だって勿論無い。
けど、そこは流石ティグルさん。とりあえず暫くはティグルさんの家で保護してくれるって。
んで、国なりなんなりに保護して貰うか施設とかに保護して貰うか…保護して貰うばっかだな。いやまぁ幼女だから仕方ないんだけど…中身アラサーとしてはこうね…
そんなこんなで私も大分回復したしティグルさんはお世話になった村に行かなきゃならないので私も同行する事になった。
のは良いんだけど、荷物が満載の馬車の中でも私の小さな体はちょっとのデコボコで跳ねまわりあっという間にたんこぶだらけに。
んで、昔ティグルさんは娘さんを膝に乗せて馬車を動かしてたのを思い出したらしく私を膝に乗せたまま向かうことになったのだ。抱っこヒモ付きで……