9話 シャプナー班
「館長ぉ!どういうことだよ!?」
「さっきのミーナさんの話は聞いてんですか?」
部屋に怒号が飛び交う。まぁ…そりゃ、そうだよな…。
一体、ワシタカさんは何を考えてるんだ…。
「館…長…。」
さすがにミーナさんも、動揺しているようだった。
いや、俺が館長であれば、すぐ許すのだが…。
「館長、一体どういうお考えをなさっているのですか?」
副館長のシャプナーさんが、初めて自ら声を上げた。それほど、この状況はかなり予想外だったと言える。
「………。」
ワシタカさんは何も言わない。むしろ、目をつぶり、下を向いた。
すると、アルも発言した。
「館長!俺からもです!彼女は先ほどの話で、この騒動の反省の意と、ここに居ることの意義を証明してくれました!なので……館長がミーナに対して、どう思っているのかはわかりませんが……
許してやってください!!!!!」
その言葉には、アルの強い思いが直接その言葉に表れている様だった。
「………。」
「館長、何かご返答を。」
シャプナーさんがそうつぶやくと、やっとワシタカさんは口を開いた―――――。
「ミーナ、君のここに居ることの関心はよぉく分かった。」
よかった。聞き流してはいなかったようだな…。
「じゃが、結論として、この美術館に迷惑をかけたのは間違いないであろう?」
!!!!!!!!
一時、部屋がざわついた。いや、そうなんだ。そうだけど…。だからこそ、今の話は…
「だからこそ、今の話はそれへの謝罪だったじゃないですか!!??」
アルが激しく、怒鳴った。夜での静寂が、一層彼の声を引き立たせる。
「お主らは……。」
ワシタカさんの声が震えている。どうしたん…
「お主らはいまいち、この場所の神聖さが分かっておらぬ!!!」
!!!!!!!!
その声は、アルよりも響き、何より力強さがあった。
「ここは…お主らだけのものでも、わしのものだけでもないんじゃ…。」
「アムールは、通称『愛を紡ぐ場所』。この愛には、言葉では言い表すことのできない様々な意味が込められておる。その意味は、建てられてから300年の今現在でも語り継がれておる。」
愛を紡ぐ場所…。初めて知った…。
「この信念は決して揺れず、壊れることあらず。わしたちは、その意をこの場所に捧げる必要があるのじゃ!!」
………………………。
その演説は、とても強い執念があった。自我は一切無く、何も迷いがないようだった。
「……。少し熱くなりすぎたわい……。ミーナよ。」
「…ハイッ…!」
「わしは、先ほどお主に辞めろと言ったが、何もアムールを辞めろとは言っていないぞ。」
「……………え……??」
「今現在の配属先を辞め、これからシャプナー班に転属することを、推進する。」
!!!!!!!!
「シャプナー班だって…!」
「あのシャプナー班に、ミーナが挑戦するのか…!!??」
ん…なんだ…シャプナー班って…。
「シャプナー班って、もしかして…。」
「うむ!シャプナー班とは、学芸員ながらも、自らの技能を高め、独立した展覧会を開くことのできることが、唯一認められた班じゃ。」
な…なんだってぇ……………!!
「そんな…私が…そんなところに…。」
ミーナさん…何を迷ってるんだ…。夢に近づく最善の策じゃないか!…もしかして…ミーナさん…
「悪いと思ってるのか。入ることに…。」
アルがふいに言った。まるで、ミーナの心めがけて、ストレートに球を投げ込むかのように。
「いや!そんな……そんなこと……な…い…。」
「こんな騒動起こして挙句、ここに転属することになった、みんな申し訳ないな……そうじゃないのか…?」
「う…うん…。」
ミーナは、頭を下した。
………………………。
「果たして、お前の話を聞いてから、そう思うやつはどこにいるんだ?」
!!!ミーナはもう一度、顔を上げる。
そこには、嫌そうな顔したものは一切いなかった。皆、誇らしげに、ミーナの方に顔を向けていた。
「何もたついてんだよ…!ミーナ!」
「あんたの夢なんでしょ?頑張ってきなさいよ!」
愛を紡ぐ場所…。俺が思うに、今この状況下において、それは今成しえているのかもしれないな…。
その時、ミーナさんの頬には、喜びにあふれたような川が流れていた。
「……決まりじゃな。」
このとき、ミーナさんの転属が決まった―――――――。
「さて、ミーナだけが行ってもいいとは言ってないぞ。」
!!!!!!!
「これを機に行きたいと思うもの、今すぐ名を名乗れぃ。」
「おい、お前行けよ…」
「いや、あんなとこ俺には無理だよ…」
「相当意欲高い人じゃないと…。」
俺は…だめだ…この気持ちをおさえきれなかった!!!!!
「行きてぇ~。」
バッッッッッ!一瞬で皆の視線が集まった。
おっと、これは……。どうなんだ…?