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異世界美術館『アムール』  作者: りしゅん
8/10

8話 法隆寺 後編

昼間のヤンキー騒動がありながらも、その後の学芸員がなんとか、状況を立て直し、お客さんにも気づかれず、事態は収束した。それよりも…


その晩、閉館時間を過ぎた後、緊急会議が執り行われた。


「わしがいない間に、随分大事があったそうじゃな。まずはお主ら、基いお客さんに被害が及ばなかったことは、幸運といっても、過言ではない。」


部屋には、30名ほどの人数がいるのにも関わらず、緊迫した状況が続いていた。


「話は聞いている。タツヤさん、アル。お主らが中心になって、ことを治めたそうじゃな。深く陳謝する。」


「いや、俺なんて…。すべて、タツヤ君のおかげです。」

いや、俺もたまたまそこにありましたって感覚だったんだが。まさか、価格において現実世界とリンクしていないことがあるなんて…。


「シャプナー、わしがいない間、副館長のお主に任せていたが…。お主がいたのにも関わらず、なぜこんな騒動が。」

「私も、展示するための機材調達のために、外へ赴いてました。」


「そうか、全ての歯車がかみ合わなかった、その瞬間にことが起きた、ということか。」


皆は、そうだと同感せんばかりに、こくりと頭でうなずいた。


「まぁ、全てのことの発端は…。お主じゃ、ミーナ。」


「は…はい…。」


その表情は正に、長い間光に当たることのなかった、枯れた花のような表情だった。

非常に可哀そうだが、ミーナさんから事が成り立っていったことは、うなずけない。


「まず、お主のことを知っていたのは、アルだけじゃったと聞いたが。アルはともかく、抱え元のお主がなぜこんな大事を隠していた。わしらでなくとも、色んなものに相談するという手はあったはずじゃ。」


「………。」


「ミーナ、私たちなんとも思ってないから。」

「隠しても、何にもならねーぜ。」

そう言いながら、借金あるって聞いた時は、動揺してたくせに…。まぁ俺も何だが。


「……実は…あれは、私の借金ではないんです。」

!!!!!!!!

「あれは、姉の借金なんです。姉は建築作品を専門にした、芸術家だったんです。」

建築作品って、ひとえにエッフェル塔とか、コロッセオか…。


「それが、借金とどういう関係が…。」

やべ…また、声が…。

「姉は、建築作品といっても、犬小屋のような、小さなものを作るばかりだったんです。

しかし、姉はとある作品を見て、10年間の芸術家人生の中、人生で一番の偉大な作品を作ろうと決心したんです。」


ある作品…


「世界最古の木造建築の……。」


法隆寺か!!!!

法隆寺、かの有名な聖徳太子と推古天皇が建築したことは、言わずもがなで、仏教を広めるために、飛鳥、奈良時代にできた、世界最古の木造建築!

その優雅さと、壮大さは世界の数知れた建築物と引けを取らず、その姿は正に圧巻…!!

そんな法隆寺を…


「ホウリョウ寺です。」


うん、やっぱなんか違うのな。


「しかし、ホウリョウ寺ほどの作品を作るとなると、相当なお金がかかることは目に見えてますよね…。

でも…。」



『彼女の心意気はそんなものではなかった。』


「私たちの親は、25年前に亡くなっちゃって、お金もそんなになかったのにも関わらず、彼女は時間とお金を、作品作りに費やしたの。」


「でも…。」


「お金が足りなくなって、闇金に手を出してしまったのかい。」

ワシタカさん、今までの話を真に受けているのか。俺は…可哀そうで…もう…。


「そのショックで、姉は病院で寝たきり。その負担は全部私に行っちゃったの。」


なんという、壮絶…。俺は唖然としていた。周りも俺と同じような反応を見せていた。

ただひたむきに受け入れているのは、ワシタカさんと、唯一の相談相手だった、アルだけだった。


「でも!私、そんなので、姉や芸術に対して、恨んだりはしていないの!むしろその逆。

芸術には…それほど、魅了されるものがあったんだって…。」


ミーナさん…君はなんて素晴らしいんだ…。だめだ…涙腺が…。


「だから、私も、木を使った作品作りに励んだの。」

っていうことは、ミーナさんの家にあった木彫りの動物人形は全部、ミーナさんの手作りか…。


「今はまだ、小さいのしか、作れないけど…私は、いずれ、姉の叶えられなかった夢を叶えよう、だから、作るだけじゃなく、見て、感じて、作品の近くにいることが大切だと思って、ここに来たんです!」


ミーナさんにそんな熱意が…俺はもう、涙なしにはいられなかった。それも、他の学芸員も同じだった。


「ミーナ……。お前にそんな意欲があったなんて…俺たち知らなかったぜ。」

「うん、お姉さんが悪いっていうのも、あるけど、何よりあなたのその心意気に感動したわ!」


その時全員が納得した。そして、ミーナさんの夢を少しでも支えたいという気持ちが全面に表れていた。

最初の緊迫した状況は一変、皆が前向きになり、明るく輝いていた。


ただ一人を除いて―――――。


「そうか、ミーナ。では、お主にひとつ提案がある。」



「な…なんでしょうか…。」



「今すぐ、ここを辞めなさい。」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ワシタカさん、どういう事だよ!!!???

さっきの話の時、寝てたのか!?


緊迫から一変、明るくなったと思ったら、また緊迫した状況に部屋は包まれた。

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