6話 法隆寺 前編
なんでミーナさんが、ヤンキーにからまれてるんだよ!
急に展開すぎて、俺は動揺し続ける。
「も…もう少し待ってくれませんか…。」
「もう少しっていつなんだよ!!」
「アバウトすぎゲスぅぅぅ!!」
「くひひ、ワロタ…。」
これはどうしたらいいんだ…。俺がどうこう言って、解決する問題でもなさそうだし、ここは穏便にいこうか…。
って俺、情けなさすぎだろ…。
すると、ヤンキーたちの後ろから、
「おい、君たち、職場にくるなんて礼儀がなっていないな。営業妨害だぞ?」
アルだ!頼もしすぎっ!それとともに、他の学芸員もあたりに集まってきた。
「あぁ、でもですねぇ、さらに礼儀がなっていないのはこの女じゃないんですかねぇ?」
「ミーナが君たちに借りがあるのは知っている。だがここでは、その話は無用だ。アムールには美徳と秀麗を尊ぶ。今、君たちが行っているその行為はそれに反している。」
そうだ!アルの言う通りだ!アル、もっと言ってやれ!
「あぁ?知っているも何もあんたには関係なくねぇゲスか?」
「無関係のお前が口だけ言ったことに俺らがはい、分かりましたって引き下がると思ってんのか?」
しかも、こいつら、ヤンキーの癖して割と頭が冴えてんだよな…。
「もう、やめて!そう、アル君、あなたには関係のないことなの!」
「アムールで起こった事は全員のせいじゃないのか?」
「………!!」
え…俺本当に場違い感が半端ない…。もし、俺が異世界召喚されたと同時に、とんでもねぇ力も授かれば…。
俺は何のためにここへ来たのか。
「おぅおぅおぅ、やる気か?」
やべぇって!ここ6畳だぞ!?もう一度言う、ここ6畳だぞ!?
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「待て!!お前たち!!」
「!!!!!お…お頭……!!!!」
突然、大きな声が美術館に響き渡る。熱意あふれた、『女性』の声だった。
ん……。女性の声…、お頭……ってことは、お頭は女性なのか!?
俺は伏せていた目を開ける。すると、そこには美しい牛の女性が立っていた。
ヤンキーの頭とは思えない美貌で、俺は腰が抜けた。
ミーナさんとはまた違う、大人っぽい美しさがそこにはあった。
「坊や、周りの者どもは身震いしてるのにも関わらず、私の目の前に一人で立ったのはいい度胸ね。そこは賞賛の意を示そう。」
「……!!」
「だがね、私たち的にも、武を使って事を収めたくないのよ。はやくそっちで、ミーナが私たちから借りたものをとっとと、よこしてくれたら早急に撤退してやる。」
段々、俺は状況を掴めるようになってきた。
言えば、ミーナさんはこのヤンキーたちに何か『貸し』がある。それを3年待ったが、待ちきれずここに押し掛けてきた…ってことか。
「ミーナさんの貸しって一体…。」
俺はつい声に出てしまった。というのも、これだけさっきから、分からずじまいで何より知りたかった。
健全なミーナさんが、こんな輩に何を借りたのか。
「金だよ。」
アルがぼそりと呟いた。俺は驚きを表に出すよりも、自身の心の中で激しく動揺した。
それは、貸しが金だからというわけではなく、ミーナさんが、借金をしていたことに対しての動揺だった。
「ミーナには、500万円もの借金を抱えてる。」
「アル君…。」
「嘘…ミーナが借金…!?」
「あいつって、そういうやつだったのか…?」
「ギャンブラーだったりして…。」
「ってか、なんでそんな大事なこと隠してんの?」
この動揺は俺だけではなかった。あたりに集まってきた学芸員も俺と同じく、ミーナさんが借金をしていたことを知らず、驚きを隠せずにいた。
「まぁ、そういうわけだ。今回も返せないようなら、それに見合う物でも持ってくるんだな。そうだなぁ。じゃあ……。」
「この美術館に展示されてる作品ぜぇぇぇぇんぶ、貰っちゃおうかな!」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ん……待て!お前、それ無理を承知で言ってるだろ!できるわけないじゃないか!!」
「いや、こっちはやるときゃ、やるよ。後さっき、武を使いたくないって言ったじゃん?
あれは最善策がある上での話。なければ……使うけど。」
「へいへいへい!決まりだぁぁぁ!一番偉いやつはどこだぁぁ!顔だせぇぇぇぇ!」
「おい…美術館の合計額なんて、何百億もつくぞ…!500万とは桁が違いすぎる!」
「そ…そんな…私のせいで…。」
これは…これは…これは…さらにまずい展開になったぞ…ワシタカさんも今ちょうど不在だし…。
俺が異世界で活躍するのは、いつになるんだよ、おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!