5話 考える人 後編
あぁ…ムキムキのペリカンが…。
つい、うとうとしていた先にミーナさんがいた時の衝動により、俺は最悪なことをしてしまった。
価値観はどれだけなのかは知らないが、現実世界とリンクしているなら、億単位の代物であっても、おかしくない。
ワシタカさんになんて言われるんだ…。
「タツヤ…君…。」
やべぇ、ミーナさんも青ざめてる。これは…
本当に本当に本当に本当に本当にまずい!!!!!
「ミーナさん…こういう時は…どうしたら…」
「あ……あぁ……」
「ペンちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
ん?
「私のペンちゃんが!骨折しちゃった!どうしよう!応急処置を施さないと!死んじゃう!」
ペンちゃん?
「なんで!なんでタツヤ君がこれ持ってんの!?」
「いや、これを運んでくれってワシタカさんから…。」
「どうした!何の騒ぎだ!」
すると、俺の目の前に見たこともない男がやってきた。その姿は恐らくモデルは犬か…
なんとも清楚で、高身長で、はつらつな声と、おおらかな瞳と黒色の髪が輝いている。これは、この世界でのイケメンではないだろうかと思うほどだった。
「ん…君は…俺と同じ配属先の新人くんじゃないか。それに、ミーナ…。」
「あっ…アル君…。」
「これは…ミーナが自慢していた作品じゃないか。新人くん、これを運んでくれとワシタカさんから?」
「いや、俺は、…自分で…」
すると、アルは連絡用の携帯を取り出し、
「こちら、アル準備班、他にまだ運ばれていない作品は……―――。あぁ、了解。」
そして、アルはにっこり笑い、
「新人くん、恐らく運ぶ作品を間違えたんだね。さぁ、一緒に行こう。」
俺はそうやって、アルに着いていった。
進んでいくと、本来左に進むところを、右に進んでしまっているところがあった。俺がうとうとしていた時だ…。だから行き止まりのところもあったのか…。うとうとしていて、全然気にしていなかったが。
「ほら、これだ。」
俺がそう、言われたのはやはり『考える人』が原型の作品だった。しかし、案の定何かが違う。
これは……ゴリラ…?
「これが、後日行うロダーン展の看板作品、『考えるゴリラ』だよ!」
いや、知らねーよ…。この人達にはこれが本物なのか知らねーが、俺にとっては全部偽物なんだが…
「さぁ、これを運んで、とりあえず仕事を終わらせよう!」
俺はそして、アルと一緒にゴリラを運んだ…。
「終わった…。」
思わず声に出てしまった。それほどこの仕事は荷が重かった。
学芸員全員が使える休憩スペースの机に俺は、ばたんと張り付いた。
「タツヤ君かい?最後はハプニングがあったけど、よくこんな力仕事をやってのけたね!素晴らしい!」
アルはとても優しく接してくれるが、それでも、俺が当分復活することはないだろう。
ワシタカさんはこの後打ち合わせがあるといって、出て行ってしまい不在だという。当分は怒られないだろう。
問題はミーナさんの方だ。結局のところはミーナさんに悪いことをしてしまった。非常に申し訳ない…。
いや、でもなんでミーナさんが悲しんでたんだ…。あれって、ミーナさんが作ったのか…?
「アルさん、俺が間違えたあの作品って、ミーナさんが作ったんですか?」
「うん、そうだね。でも、大丈夫だと思うよ。あれはネタ半分で作ったもんだから。」
軽い…軽すぎるぞ…。でも、それのレベルなら許してくれるだろう。多分。
「でも…あの作品じゃなかったら…きっと君は終わってたかな…。」
え……どういうことだ…。
「彼女にはとても大事な作品がある。とともに、彼女がここに居ることにはとても強い意味があるんだ。」
「どういうことですか!」
「ごめん!もったいぶっちゃって…。でも、このことはミーナ自身から聞いたほうがいいんじゃないかな…。俺がしゃべったところで他人事になるし…。」
あんな明るいミーナさんに何があるんだ…。いや、今までは他人の過去を知ったところでだとは思ったが、もし仮に、仮に、仮にだ!ここに居続けるのならば、同僚の気持ちは知っておかなければならないと思った。
何か俺にはよくわからない使命感があった。
謝るついでに聞くか…。少し心もとないが…。
そして、俺はミーナさんが居るであろう、個室に向かった。
明かりがついている。やはりここに居る。
俺は恐る恐るドアをノックした。
「ミーナさん、タツヤです…。入っていいかな?」
「うん…。」
入れてくれた。しかし元気はない。まぁ、無視されないだけ良しとしよう。
俺はそうやって、椅子に座っていたミーナさんに向かって、
「ミーナさん!ごめん!俺が無知なばかりに、君の作品を壊しちゃって…。」
すると、ミーナさんは笑いながら、
「うん、全然いいよぉ!あれ、失敗作だったし。むしろ、私こそあんなところに置いてて、ごめんね!ややこしかったよね…。」
可愛い……いや、そんなことより余計俺が悪いみたいになってしまった。こんな状況、過去の話なんて切り出せないわ…。
「私の専門分野は、木を使った作品!だから、あれは試しに作ってみた銅像作品なの!銅像ならアル君とかがうまいよ!」
うん、やばい…話の内容変わっちまった。もう、いいや…。聞くのはまた、今度にしよう。
すると…
どたどたどたどたどたどたどたどたどたどた…
集団がこちらにやってくる音がする。なんだ…。
来る…来る…ここに来る!!!!
バタンッ!!!!!!
「おい!!!ミーナはいるか、おらぁぁぁぁ!」
え…ヤンキー…。しかも…牛…。牛のヤンキー集団だ…。
「あ…あなたたち…。仕事場にもくるなんて…。」
「さっさとブツ返してもらえねぇか?今日でもう、三年も待たせてんだけど。」
「どうなってるんゲスかねぇぇ。」
なんだよ…。唐突すぎるぞ…。入り口はヤンキーで遮られてるし、個室もただの六畳。
なんかよくわからんが…俺はとんでもねぇことに首を突っ込んじまったか?それに…
なんでミーナさんがヤンキーに追っかけられてんだ!?