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異世界美術館『アムール』  作者: りしゅん
3/10

3話 モナ・リザ 後編

「証明書はお持ちですかぁ?」

え…証明書なんかいんの?


やべぇ…証明書なんか…持ってねぇ…。

死んだときに持ち合わせてた財布には、235円と、セブントゥエルヴとハイソンとフレンドマートのポイントカードとしかなかった。

くそ…なぜ、こんなときに家に携帯を忘れてきたのか…。

これは、恐らくここに入ってはだめなんだという、予兆なのかも知れないな…。


そう思い、俺は何も言わず立ち去ろうとした。すると、


「んもうっ!そんな悲しい顔しないでよ!こっちだって仕事でやってるのに、なんか私が悪いみたいじゃん!特別に入ってもいいよ!」


え…いいの…。


俺はそう言われると、遠慮なしに美術館に入った。これは恐らくここに入るべきだという、教えの予兆だったんだなと思うとともに、さっきの係員の子の受付体制に少し不安になった。まぁいいや、入れたし。結果論、結果論。


入り口から感じていたが、とても気品がある。しかも、人は誰もおらず、静けさが漂う。また、飾られていたのは、絵画に問わず、芸術作品なども立ち並び、非常に見ごたえがありそうな雰囲気だった。

入る前の苦痛から一変、俺の気持ちは次第に高揚していった。


そういえば、絵を描いていた時もこんな気持ちだったな…。

絵の工程には、まず下書きから始める。この下書きがいわば、絵の原型であるため、ここで絵の良しあしが決まるといっても過言ではない。まだ、このときは頭にこういう絵を描きたいなというのを紙に単調に描いていく。


しかし、この時のわくわく感と言ったらもう…。

そして、下書きを終えると、色を塗り合わせていく。いかに暖色、寒色を使い分け、彩り良く描けるか。


風景画などはそういった色のメリハリは重要視される。かつ、その色が他の色と馴染んでいるか。

何を描くかによって、描き方や道具は違ってくる。


その、何を使って描くか、どうしたらうまく見えるか、どうしたら、自分の伝えたいことが、相手に伝わるか…。この瞬間もたまらなく楽しい。


そして何より…やはり一番は…。描いているとき。

徐々に仕上がっていくときの喜び、絵に命が宿っていくその瞬間がとても素晴らしい。


描き終えた時も、達成感が体全体にこみあげ、描いてよかったと思える。


そうだ、俺はそういう良さに心が惹かれたんだ――――。


俺はそう考えながら、俺は美術館を歩く。すると、一つの大きな場所に行きつく。


俺の目の前には驚きの絵が飾られていた。


「モナ・リザ………!!!!???」

今現在の現代においても、その謎は未知数。当時横顔が主流だった時代には珍しかった、前を向いた絵で、その美しい姿の裏には、人が一番美しく見えると言われる黄金比が使われているとか…!!そんなモナ・リザが、なんでここに…。


いや、違う!女性画だが、よく見ると、猫のような、愛くるしい髭が生え、犬のような長い耳も描かれていた。服も少し派手な印象もある。

だが、根本的な形としては正にモナ・リザだった。


しかし、俺に疑問がよぎった。ここは異世界なのに、なぜ、モナ・リザのような絵があるのか…と。


もしや、この世界と現実世界には、リンクしている箇所もあるっていう事か…?


今まで見てきた絵には俺の見たことあるような絵はなかった。だから、必ずしも全部が全部、一緒ということではないのだろう、俺はそうやって仮説づけた。


「これはですのぉ、モラ…リーザですぞ。」

!!!!!!!!!!!!!!!!!


いや、急に横から声かけられて…マジ焦った…。

俺が横を向くと、清楚な服を着た、御年70くらいの狐のような老人がいた。


「あなたは…誰ですか…?」

「それはこっちのセリフじゃ。まだ、一般ケモノは立ち入り禁止じゃぞ。」

あっ、だから、誰もいなかったのか…。


「また、フラワか…。あいつの監視の甘さはどうかしておるわい。」


「いや、あの…俺ってここにいたら、まずいですよね…。」


俺は恐る恐る老人に声をかけた。すると、老人は優しく、


「普通は追い出すんじゃがのぉ…お主を見たところ、この辺の者じゃなさそうじゃし、この絵を見ているときのお主の目には、光が宿っておった!!」


えぇ…なんか俺、賞賛されてる…。


「よって、このアムール美術館館長 ワシタカ・フォックスが入館を許可する!!」


流れに任せ、俺はワシタカさんから、許可を貰った。これでいいのだろうか…。まぁ、いいのか…。


「あぁ!!!!!!あなた!!!!」


!!!!その声は………!!!!


「タツヤ君がなんでこんなところに!?」


「君こそ!なんでここにいるって…!」


「なんじゃ、お主ら知り合いか…?」


「知り合いも何も、館長!この人が前に言っていた、『ネルソン川で、溺れているか、泳いでるのかわからない状態で海に無意識に浮かんでいて、助けた途端、落ち着いて寝静まり返った、怪奇の化け物のようなケモノ』です!」


ひどい。それに、長い。


「そうじゃったのか。いやぁ、それはとんだ運命!タツヤさん、ミーナはこの美術館の学芸員ですぞ。」


俺はその瞬間、意外と世界は狭いものだと、改めて感じた。


「ホント!トイレって言いながら、私の言う事を聞かず、変なところにいっちゃうなんて!私のこと、そんな嫌だった!?」


「いや、違うんだ!あの時はね、漏れるか漏れないかの境目で…。聞いていられる状況じゃなかったんだ。」


「そうなの…じゃあ、いいや!」


この世界の人…いや、ケモノ達は甘すぎるだろ…。どれだけのゆとり教育施されてきたんだよ…。


「さぁて!仲直り仕立てで言うのも何なのじゃが…。」


「あと、10秒で開館ですぞ。」


…………………

「えええええええええええ!!!!!!!!!」


ミーナの声が美術館全体に響く。いや、俺もこうしちゃいられない!!逃げよ、逃げよ。


「タツヤ君、何をしておる?」


「いや、俺がここに居ても邪魔なだけですし…。」


「何を言っておる!お主も今日から学芸員じゃ!さっさと制服に着替えるのじゃっっ!!!」


いや、嘘…そんな唐突に言われても…


俺、このための美術館入ったわけじゃないんだが……。

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