2話 モナ・リザ 前編
俺って…確か…
この時俺は記憶が曖昧で、ごちゃごちゃになっていた。
俺って、あやちゃんに告白してなかったっけ?
違う!!!!俺は死んだんだ!…ということは、ありがちな『異世界転移』なのか…。
それとも、単なるドッキリ…。
とりあえず意識はあるってことは、一命は取り留めたのか…
というより、俺が起きた時、辺りを見渡すと、病院ではなかった。
木造で、少々古そうな感じがする。木彫りの動物人形がたくさんあって、カーテンで外は閉ざされているため、薄暗い。だが、花のような、いい香りがして、居心地としては悪くなかった。
この時点で、もう俺は落ち着きを取り戻した。
さて、人はいるのだろうか。
「すみませーん。誰かいらっしゃいますか。」
すると、二階からどたどたと誰かが下りてくる。
「あっ!やっと起きた!」
急に明かりがつき、目がちかちかする。
落ち着いて前を見ると、そこには、高校生くらいの女の子がいた。でも、普通の女の子ではなく、角は生え、人間とは言い難い姿だった。だが、あまり驚かなかった。なぜなら…
かわえええええええええええええええええ!!!!!!!
俺のタイプジャストヒ―――――――――――――――――――――――ット!!!!!
というより、葛飾北周の化物世界夜半嵐も、そういう化け物の絵を描いていたし…今更、変な事考えたところで何も変わらないな、と自分で納得していた。
そうだ、気にしたら負けだ。
「あなた、見た感じこの辺の人じゃなさそうだけど…。どこから来たの?」
どこからって…この場合はなんて言えばいいんだ…。
おそらく、これは異世界転移なんかじゃない。異世界だったら、今頃この子の言っていることなんてわからないだろうし…。
だから、ここは撮れ高を意識して…
「お前の…心の中から?」
バカヤロー!んなこと言ったら、俺の一生の黒歴史に刻まれるぞ!それにドッキリっていう保証がどこにあるんだよ!
俺はとてつもなく、くっだらない妄想を繰り返し、結局黙り込んでしまった。
「もしかして…!君、記憶喪失ね!」
「いや、ごめん。それはないな…。」
さっきまでは自分で思い込んで、色々理解していた。だが、深く考えたらわからないことが多すぎる…。
何か、自分の身に危機が迫っているようだった。まぁ、杞憂かもしれないが…。
「ごめん…会って早々色々聞きたいんだけど、ここはどこ?」
「ここはね、貴街地外れの辺境地『レーヴ』だよ!」
うん、全然聞いたことねーわ…。
「もう君、動けそうだね!よかったら、私が案内しようか?ちょうどこれから、仕事だし。そこから、また君のこと色んなこと聞けばいいし。」
案内だって…!何も知らない俺にはめっちゃ、ありがたい!
ドッキリの誘導かもしれないが、引っ掛かったら、引っ掛かったでいいや。もういい。ミーナさんについていけるなら…。
「ちなみに、私はミーナ!何でも、私に頼ってね!」
「マキノ・タツヤだ。よろしく。」
優しいところもまた、ポイントが高い…。
そして、俺は閉ざされた自分の世界から開く。
その世界は、痛烈で、驚愕した。
なんだよ…この世界…。
俺が知っているのは、近くにコンビニがあって、俺の住んでいるぼろいアパートがあって…。
それに比べて、ここはなんだ。
化け物もいれば、空を飛んでいるやつ…。様々な奴がいて、商店街や、住宅街が立ち並ぶその風景はとても色鮮やかだった。
そして、賑やかな店が立ち並び、緑豊かで、明るい太陽が街を照らし、何より笑顔が絶えない。
「俺の知ってる世界じゃ…。」
「うーん!!今日も素晴らしく素敵な朝!今日も一日頑張るぞぉ!」
「ミーナさん!俺、トイレ!」
「うん、でも、トイレはそっちじゃ…。タツヤくぅーん!!」
俺はミーナさんを振り向かず、走る。ただ、ひたすら走る。
俺が死ぬ前に走っていた時とはわけが違う。
俺は焦りを募らせる。
スタッフ…スタッフ…。スタジオの出口はどこだ…。
いねぇ…いねぇ…ない…ない…。
なんだよ…なんだよ…なんだよ…これ…ドッキリじゃねぇ…。
「ここマジの『異世界』かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
どれだけ走ったか。息が詰まるくらいに走った。こんなに走ったのは、高校の体育祭ぶりかもしれない。
俺は一体どこまで来たのか…ミーナさんとはぐれてしまった。
ミーナさんがいなければ…俺はこの先…。
今まで走ってきた道のりは住宅街ばかりだった。故に目印らしき場所が無く、完全に俺は迷子の犬状態だった…。
今まで走ってきたような体力も残っておらず、俺はトボトボ歩く。
待て…。俺が異世界転移されたってことは、転移させたやつもどこかにいるってことなのか…。
そう思って曲がり角を曲がると、目の前に広場があり、一際でかい建物が建っていた。
「でけぇ…。」
思わず、口に出てしまった。ここは一体どこなんだ…。
門の近くをうろちょろしていたが、何やら看板らしきものがあった。
俺はまた驚く。なぜなら、習った覚えのない謎の字が、今の俺にはわかるからだ。
「美術館…アムール…。」
美術館…。聞き慣れた言葉だと思うとともに、現実世界の苦い思い出が脳裏をよぎる。
美術館…。美術館…。
今、いろんなことが重なって、動揺していたのにさらにこういう言葉を見るのは、精神的に辛い。
美術なんて…。
しかし、俺は入ってしまった。
何か、ここで入らなければいけない気がして――――――。
変な使命感が俺の体を動かした。
これが、これから起こる日々の幕開けだとも知らずに――――――――。