1話 プロローグ
本当に上手くいかねーよな…
春の日差しをくれ、と言わんばかりに体が身震いしている。天気は最悪。俺まで泣きそうになってくるよ…。もう…。本当に…。
空を見上げる度に、俺と空は仲良く出来ねーと思う。
俺が夢を目指してから、雨の日が続く。
俺が目指す前はもっと割合高、雨の日は少なかった気がする。本当に都合がいいよな…。
いや、それは結果論、現状況がこんなことになっているから、成り立ってるところはあるな…。
俺がもし…
万が一…
これが現実ではなくて…
最高の『美術家』になれていたら…今こうして、空に文句言ってることはないのかもしれないな。
新聞にも、ニュースにも『マキノ タツヤ』と名前が載っているころだろう。
俺は今まで…そうだ…今思えば…
俺は今まで何をやっていたのだろう…
子どもの頃は、飯食って、寝て、絵を描いて…そんな毎日をループしていた気がする。
モテ期がきていたわけでもなく、成績がずば抜けて良かったわけでもなく。
そんな俺が唯一望んだ夢…。
『世界一の美術家になりたい』―――。
でも、俺のそれに対する熱意なんてたかが知れていたのかもな…。
親も応援してくれて、美大は入ったが…。
いや、違う。
この過程、今俺が息を吸っているこの瞬間まで、俺は一人で生きていたわけではないじゃないか。
親、友人、初恋のあやちゃん…
そうだ、俺はここでくじけちゃいけない。
そう、この俺の首に掲げている真珠のネックレスも、俺が夢を志したときに買ったお守りだ!
そうだ!俺は美術家になるんだ!
ここで諦めたら、男じゃねぇ!
すると空も微笑ましく、太陽を開放させようとしていた。
俺はネックレスをポケットに入れて、トボトボ歩いていた住宅街を振り向かず、前だけをむいて、走った。
ただただ、走り続けた。
ここで俺はくじけちゃいけない!こんなところで、立ち止まる俺じゃない!!
…………ん?
んーー?………
ん?待て…俺って…俺って…
「なんで、美術家目指してんだ?」
すると、曲がり角からトラックが突っ走ってきていた。いや、分かってたんだ。普通によけれたはずなんだ。あの状況だったら。でもな…動けなかった。夢を挫折して、もう一度立ち直ったと思ったら、夢を志した理由が分からなるって。
俺は絶望した。
俺は動けなかった。
衝撃音とともに俺は倒れる。でも、痛みはなかった。
ざわざわと人声のような音が耳に響く。が、なんとも思わなかったな…。
たちまち、太陽が姿を隠す。
その日、赤褐色に輝く彼岸花が咲き誇る道端で、俺は深々と目を閉じた。