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第九話 調剤の話・計量調剤編

 ここでいう計数調剤は錠剤や粉が入ったヒートの数を数えるだけです。計量は散薬調剤のことです。散薬とは粉薬のことです。


 さて、計量調剤が圧倒的に多いのは、小児科でしょう。小児科は未熟児から大体十六歳前後まで。少数ですが疾患によっては成人になっても診てもらっている人がいます。つまり体重一キロ未満の未熟児から大人と変わらない人まで。

 今回のエッセイは小児 = 超大雑把に赤ちゃんから小学生までの薬の話にします。


 慢性疾患を持たない大人なら横並びに風邪薬ならばこの錠剤一個で十分、ということが多い。しかし小児の場合はそうはいかない。だから散薬が処方される。

 もう一度言い換えると、薬の投薬量は体重で決まる → → 錠剤よりも調整がきく粉薬になります。もちろん腎臓などの臓器の機能低下がある場合は成人でも微調整が利く散薬になる場合はあります。高齢者への調剤はややこしくて、病状によっては粉薬不可の人もいます。寝たきりの人は粉薬はむせたりしますので、液剤になるか点滴になるかです。ちなみに近年は投薬時の形態の判断を薬剤師にまかせてくれる医師も多くなっています。


 散薬調剤の話に戻しますが、どういう処方箋でも「その患者さんだけの処方」 です。間違いは許されません。私のいたところはごく微量の投薬が多かったです。それも抗悪性腫瘍剤。まず二日分だけ服薬してもらって血液検査の結果で改めて投与量を考えるという医師もいて、そりゃ気を遣います。当たり前ですが、慎重に調剤しました。

 散薬調剤で必要な分の重量を電子はかりで採ったあとは、一回分ずつ包装するための分包機を使います。新人時代の勤務先の分包機は調剤室には三台、奥の予製室には一台ありました。微量用にはこの機械を使うこと、ばらつきが起こりやすい散薬にはこの機械と決められていました。劇薬を分包したあとは、次に使う散薬のために必ず「乳糖で洗う」 といって乳糖を流してきれいにしていました。(しかしイソニアジドなどを分包したあとは乳糖を入れると着色してしまうものもあります。そういう場合は、デンプン原末を入れて分包機を掃除しました。)


 分包機のメーカーにはいろいろありますが、私のいたところはユヤマメインでした。湯山製作所のことですが、ユヤマ、と呼び捨てです。

 また昭和当時から九十三分包まで可能な分包機ですが、調子が悪くなると「機嫌が悪い」 といっていました。( ← 擬人化されていました) 分包紙が熱をもってシールしてくれるところがぐるぐる巻きになってしまうのです。こんな状態になってしまうと、分包紙を全部はずして、シールの圧着部をきれいにして、油を縫ってやり、一から調剤のやり直しです。

 お昼前の忙しい時にこのトラブルと微量調剤のオーダーが重なると何が何だかわからなくなります。しかし、患者は辛抱強く待っています。そういうことを繰り返していくうちに、これをしている間にこれをして、あれをして、と順序立ててやっていけるようになります。この忙しさを経験したことは現在もすごく役立っています。何事も経験です。

 ユヤマって会社の個人名を出してしまいましたが、今のはずいぶんと改良されてトラブルはほぼないと思います。分包機の取り扱いは会社によって全くセッティングが違うのでそれぞれ個性があります。私は分包機の好き嫌いはありませんが、若い時にユヤマの機械の機嫌が悪い時に泣きそうになったことがありまして……思い出深い昔の恋人みたく思っています。

 数十年たった今でも夢を見るんですよね。新人時代の私がこんなにがんばっているのに、ユヤマの分包機が圧着部に分包紙を巻き込んで薬をだしてくれないのです。新人だった私がユヤマに向かって、どうしてくれるのよー、患者があんなに待っているのにー監査の先輩がにらんでいるのにーとか……分包機に向かって怒鳴っているんですよねえ……。


 当時は本当に一番下っ端で先輩たちに追いつくべくストレスがたまっていたのだろうと思います。実際は忙しい時には先輩だってちゃんと手伝ってくれましたし、私も散薬係が大変そうにしていたらもちろん手伝いました。しかし夢の時は、

① 私一人だけが薬剤師で 

② たった一人で際限なく散薬調剤して 

③ 分包機の機嫌を直すべく奮闘しているのです。


 どうも疲れているときに見るようです。きっと脳内の底深くにある私の潜在意識がユヤマを使っていた時代を思い出せ、といっているのかも。起床時にああ、またユヤマで忙しい夢を見てしまった、忙しかったと尚更疲れてしまうのです。


」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 入院患者のための調剤を入院調剤といいますが、病棟によっては全員が散剤、もしくは錠剤のつぶしがあったりします。まず普通薬の色の薄いものから初めて、劇薬や色味の強い薬品を最後にしたりという調整もやっていきつつ、外来もこなせるようになるとやっと一人前に監査もさせてもらえるようになりました。


 散薬調剤は、薬の成分量も単位もそれぞれ違うので計算しつつやっていきます。それも慣れなのですが、新人の頃は大変でした。覚えるのが。

 たとえば解熱剤のカロナールをあげてみます。カロナールには、錠剤も散薬もシロップも注射薬もあります。ただのカロナールの内服だと

① 形態はどれにしますか、錠剤や散薬かシロップか、からはじめて

② 濃度も指定がなければ、二十%か、三十%、五十%かどっち? 

③ 錠剤でも二百㎎と三百mg五百mgのどれですか?

 と処方した医師に照会します。ちなみに濃度は%表記ですが、プロといいます。今でもいいます。理由はわかりません。


 調剤と離れた話ですが、双子や兄弟は字体や字画がぱっと見て似ているのが多いので、間違えないように気をつけます。一度患者さんの親に説明していたら、咳があるのは下の子だけで、鼻水が出るのは上の子だけです。逆になってますけど、薬を間違えてませんか、と言われてあわてて再チェックします。薬局は処方箋通りに調剤していて間違えてない……ということは……

 → 疑義照会をしたら医師が兄弟逆にカルテを取り違えて診察していました。


 その時も名前が兄弟で激似でした。風邪やインフルエンザの流行の季節になると兄弟姉妹双子の散薬水薬調剤に気をつけようという言葉が薬局で飛び交います。これは多分どこの薬局でもそうだと思います。







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