第四十九話 ある患者さんの副作用トラブルの話。
患者さんより時々相談を受けます。今回は薬局外の話もからめます。
ある手術を受けてある薬を使われた。その時にある種の副作用が出た。そのあとの後遺症について責任を取ってくれと言っている。どこに相談したくてもとりあってくれないので、訴訟を考えているというものです。
冷静を欠いた話ぶりですので、とにかく時間をとりますから順序良くお話していただけるようお願いしました。
患者さんの怒りの源は、医師が不適切な薬を使用したせいで困っているのに迷惑がられているということにありました。しかも患者さんが先にヒートアップして「訴えてやる」 というと相手の医師が売り言葉に買い言葉「やってみれるのなら、やってみろ」 とせせら笑ったそうで……私は、最初にかかわった医師のその態度が一番いけなかったと思う。
患者のいう副作用は自覚症状です。つまり自分にしかわからぬ症状を副作用とおっしゃっています。他覚的(他人が見るには)には全くわからないものです。検査値も出ないもの。
ここまで書いて察せるひとは察せると思いますが、私は医師が患者さんを故意に困らせる意図はなかったと思う、そして医師の態度は患者さんの感情に沿うものではなく問題を感じますが、訴訟で賠償が出せるまではいかないとはっきりいいました。
事実、医療訴訟はやろうと思えば大変です。カルテ保全などやらねばならぬことが多く、本人だけが動いても無理があります。
この患者さんのいう不適切な医薬品名も、そもそも本人が言えません。だから私にもわかりません。
そうです、この患者さんには医療の知識が皆無なのです。本当に困っているのはわかるのですが、もともとぜんそくや特定の物質によるアレルギー持ち、◎◎歴ありで医師の過失を問うには難しい。それでなくとも感情的な会話をすると、まとまる話もまとまりません。私は全くの部外者ですし、感情的にこじれるとどうにもなりません。
ちょうど他の患者さんがとぎれた頃だったので、納得されるまでお話を伺えました。本人にとっては、とてもつらいことなのです。医師が訴訟できるならやってみろ、これを言ってしまったがため、患者の心に傷がついたのです。事実訴訟となると、負けるだろうと誰でも思うしその通りです。その医師は、どうせ何もできないだろうと上から目線です。患者さんとの会話を面倒がる医師にあたってしまったのではないかと思いますが、患者が感情的になったからといって、そういう言葉を投げつけたってよい結果にはなりません。
人間関係もまた一期一会です。
命を預けた医師に誰が好き好んで訴訟をしますか……患者さんは誰も私のいうことを真剣に聞いてくれなかったと泣かれていました。持病の疾患が悪くなると一番困るのは本人です。きれいさっぱり忘れるのは無理でも、未来の楽しいことに目を向けるよう助言させていただきました。患者にとって難しいことを言いましたが、それしかできないのです。
以下はまとめ。
◎◎◎ 医師と患者。どちらか一方が感情的になると、まとまる話はない。絶対にない。
◎◎◎ 医師が感情的になると、患者の心は一生涯傷がつく。立場が弱い分、恨みを買います。
◎◎◎ 患者だけが感情的になると、医師からはまず相手にされません。暴力は論外、犯罪です。腹立ちのあまり医師や看護師を殴った患者がいますが、もちろん逮捕されました。(医師の責任を問いたい場合は弁護士などの第三者を携え、医療側も院長や事務局長と同席の上で、時間をとって冷静に会話をしないと会話になりません)
なお、別件での相談で処方医の責任ではなく、製薬会社(死人が出た場合はその薬を認可した国の責任も問える)の責任だな、と思えば副作用が出て困っている人のための救済制度があります。その場合は、薬剤師からしかるべき機関へ紹介できます。あとはその機関が動いてくれます。(もちろん処方医にも連絡してそれを証明していただくことにもなる)それも仕事の一環です。念のため。




