第四十六話 服薬指導の話(調剤薬局編)
記録簿の書き方はたいていどこでも一緒だと思います。SOAP形式が多いです。ソープと読んでください。ここでも英語を使います。一つの処方に対し、大体四つの事項を書きます。しかし勤務薬局や薬剤師さんによっては書くことが違います。それに文章を書くのが好きな私から見て個性がすごく出ると思っています。名前見なくても書いた事項で「ああ、あの人が書いたな、あの人らしいな」 とか思います。それではレッツゴーです。
① S(Subjectiveの略) 主観的情報のことです。患者さんの言葉など。自覚症状の変化。まだどこそこが痛い、調子が悪いなど。家族さんのみの来局だとご本人はむせたりせず、すんなり飲むことができるかなど。
② O(Objectiveの略) 客観的情報のことです。前の処方との違いなど客観的に見た情報を書く。他科受診といって他の科にかかっているならば、それも書く。
③ A(Assessmentの略) 分析・評価のことです。また薬剤師から患者に伝えた情報も覚書としてここに書いたりしています。
④ P(Planの略) 計画 という訳になりますが、今後の指導内容や、他の医療者に対する申し送り事項をここに書きます。薬学生ならばこのPを書くのが一番大事なことだと指導されているはずです。またPを書く内容でその薬剤師の能力がわかると言い切る医師もいます。
その他補てん事項として医師への疑義照会内容や、残薬、他の医療者もしくは施設介護者との協議内容や食事を書くこともあります。在宅指導の人の場合は、道順や駐車場はここにとめてはだめとか書く人もいます。(在宅指導といって患者さんのご自宅に直接伺う場合は医師に報告事項を提出するのでSOAPじゃない書き方で別に作成します。今の勤務先の話ですので、よそは違うかも)
また特殊な調剤を要望されている場合は、これとこれは混ぜる、混ぜてはだめ、これだけは別包など毎度誰が調剤しても同じ処方薬ができるように覚書をその人のページを開いたとたんに目立つようにアラームをかけるときもあります。音ではなく視覚で注意喚起をします。アラームは点滅させるなどいろいろでした。血液、たとえばエイズ、肝炎の人など業務上の注意喚起は一番目立つアラームをかけていました。特殊な血液型を持っている人、自殺の恐れのある人なども。職場や病棟によってアラームの掛け方はいろいろ違っていました。
SOAP方式で書くようになってもそれにこだわらずに自由に書く人もいます。自由過ぎる人がいますね、己だけの価値観で患者の薬以外のことで揶揄する人もいる。私はそういうのは大嫌い。
私はそういう「職務を逸脱していることを書く薬剤師」とケンカになったことがあります。
だってダイエットしているのか、看護師だそうだがあの精神状態で夜勤もできるのか、など書く人だったから。
その類の項目をしかもPの申し送りに書く。申し送りに書くと次に服薬指導に当たる薬剤師が困る。そんなことを申し送りに書いてその記録を引き継ぎせよと?
私はそれを書いた薬剤師とは言い合いになりました。私の言い分はこうです。
「そういうことを患者に聞きたいなら、なぜ自分で聞かない? 自分が聞けない内容をなぜ次の薬剤師にふるのか」
当の薬剤師の言い分は、ダイエットしてるのか聞けとはあきらかに不必要な項目は不要と思うならスルーすればいいだけのことだろう、でした。
スルーしろ、というなれば、薬剤師の服薬指導は共同作業でもあるのに、あなたのその文面はなんのために書いたのかという話になる。事実私はその人に、では記録はなんのためにあるのかと問う。
すると、当人はおもむろに私に言いました。
「いや、それよりもきみはダイエットという単語になぜ反応してしまうのか、そこが問題だよ。そこを論じ合おうではないか」
なんじゃ、そのびっくりな反論は! 分が悪くなると、論点をずらす人だったので「ハナシソラスナッ」 と事務員さんの前で怒鳴ってしまいました。(私はそういう論点ズラシで逃げる人が嫌い)
私はその患者が美人で若い人だから書いたと思っているが、本人がいたって大真面目だったので平行線でした。今でも真面目に「人生は悪いことばかりではありませんとやや乱暴な言葉で指導した」 とかアセスメントに平気で書いている……同業同士でもなんというかそういう話もあります。先輩同士でも書き方の見解についての温度差があり、薬局会で言い合いになってお互いの性格と適性を指摘しあう事態になったのも見ていますし、このあたりは、どの職業でもあるのかもしれませんね。
某薬局の某薬剤師は夫も子供もいるのに、気にいりの卸の若い男性が納品に来たら、控室に鍵をかけて二人きりで話させる話も聞いたし、ニュースにこそはならないけれどびっくりな話もある。(でもこのテの話は薬剤師に限らず、医師も看護師の方が多いかも)
また変な話になりましたが、私は記録を書くのは大好きです。




