表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/50

第四十三話 選手と競技大会とドーピングの話

 先日の話。えらく体格の良い学生さんが処方箋を持ってきた。よく出る組み合わせの風邪薬だった。顔はまだあどけなさが残るのに、私を頭上から見おろして超低い鼻声で話しかけてきた。

「あのー、ぼく競技大会があるのですが、これ、大丈夫ですか?」

 言葉足らずな話し方をするコだが、私は彼が何を心配しているかすぐにわかった。

「競技大会はいつですか? 陸上? 水泳?」

「あさって。陸上。先生は多分大丈夫だと思うけど、薬剤師さんにも一応聞いてみてって言われました」

「わかりました」

 と、調べる。彼は出された薬を飲んだために、ドーピング検査で反応がでて出場停止になる事態を心配しているのだ。ドーピングは「薬をつかった不正行為」のこと。記録をのばすために薬品を使うなってこと。理由は言わずもがなで、アンフェアだからです。

 競技にあたり、違反者は出場禁止、もしくは停止、一定期間選手になれないなどのきまりがあります。それも競技の種類によってこれはOK,これはダメなどあります。だから競技名を聞いたのです。


 単純に鼻水を止める薬だと思って飲んだのに、尿から禁止薬物が出た、ドーピング違反だと指摘されて出場禁止になった実話もあります。わざとじゃないのに、違反で出場停止と言われたら選手として泣くに泣けない。私は少し待っていただいて、慎重に検索した結果OKで大丈夫ですよ、薬を飲んでゆっくり休んでくださいといいました。私のような巷にいる薬剤師は、ドーピングの知識は大体の基本はわかっていても輪郭ぐらいで、全薬品名を把握しているわけではありません。詳細は世界アンチドーピングサイトを閲覧するなどして最新情報をチェックします。本年度版とあっても、禁止薬品がある日突然加わったりすることもありますので気が抜けません。うっかり見逃したために選手が哀しい思いをすることがないようにと気を遣います。

 ドーピング専門の薬剤師も存在します。スポーツファーマシストと言います。スポーツファーマシストさんも認定制度で数は少ないながらも医師同様活躍されています。(ファーマシストは薬剤師の英語読みです。)

 また話がそれますが、薬剤師会はなんでも英語化したい? ので、一般向けではないなあと思う言葉を使いたがりますね。スイッチOTCオーティーシー、インペアード・パフォーマンス(インパフォ)とか……何も全部英語化して啓蒙しなくてもいいのにと私は思う。


 持病のある選手はドーピング薬品であっても治療上必要な場合にはちゃんと救済処置があります。TUE(Therapeutic Use Exemption)といって「ふだんからこの薬を飲んでますよ、ドーピングというズルじゃなくて治療ですよ」という証明書を提出するわけです。救急医療でステロイドを使われてしまった場合でも、特例として事後報告でのTUE申請もOKなので、もうだめだ出場できない、と思わずあきらめないでと思います。パラリンピックなどではTUE申請が非常に多いと推測され、個人的には内情や実態を伺ってみたいところです。


 日本の選手は臨時の風邪薬でもちゃんとこうして礼儀正しく聞いてくる……これはコーチや競技大会の主宰団体の指導が行き届いているという現れです。公平で正々堂々と勝負する選手で当たり前なのですが、国家や団体ぐるみでドーピングまみれになる論外なこともやるところはやりますので、私はそういうささいなところでも日本の有りようを誇りに思っています。

 ドーピングの種類はそれこそたくさんあるし、増加する一方です。薬品だけでなく故意の自己輸血までドーピングになるので要注意です。遺伝子操作レベルになると血液や尿検査でも出ませんのでよりハイレベルになってきています。事実筋肉だけで脂肪がない牛も誕生しています、お肉ばっかり食べれる捨てるところが少ないお得な肉牛さん~ではなく、これが人間の身体に応用して重量挙げ選手にでも使いましょう、まだ副作用とか詳しいことはわからないけど記録が伸びるだろうからやっちゃおうよ、というところもあるのです多分。

 医療職としては、過去人間が記録を伸ばすためにいかに研究してきたか、こうやったら瞬発力があがる、心肺能力が向上するなど、その進歩には驚くべきものがあり、かつ興味もあります。

 しかし競技大会となれば話は別で、正々堂々と戦わなくてもいいから、どんな手段を使ってでも記録を伸ばしたいと思う人もいるのです。見つからねばいいだろっていう人もいます。そういう人たちだけが集う非公式な競技会ならば、覚せい剤を使う以外は日本では犯罪でないので開催も自由です。しかし県や国の税金が動く国内大会ではその成績が正式記録となり、国の代表になれるかどうかが決まります。そして国際的な「大会」オリンピックともなれば己の努力とプライドと国の威信がかかるはずです。おのずと厳しい処置が出てきますが、それを乗り越えるためにメンタルと体力を鍛え風邪にも負けぬよう危機管理も怠りなく……それも競技のうちだと私は思うのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ