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第四十話 とても高価な健康食品会社

 長いこと薬剤師をしていると、いろいろなことがありますが、ここで書いても差し支えない話を書いてみます。

 時折とんでもないことに巻き込まれている患者さんと出会います。でも本人は知らない。だまされていることを知らない善良な患者さん。

 お薬を介して、薬剤師は他の病院の薬など飲んでいませんかと質問しますが、これは薬の重複がないか、飲み合わせがないかをチェックしています。薬手帳を持っていても、記録の漏れが結構あるので、念を入れるのです。気短な患者さんからは「手帳見ればわかるだろ」 と言われたりしますが、平気です。嫌がられるのも怒られるのも給料のうちです。

 過去の副作用歴や病歴を聞くことは必須です。ついで健康食品も聞きます。一応健康食品は食品扱いですが、モノによっては薬の効果に影響を与える場合があるからです。

 たいていの患者さんは正直に◎◎を飲んでいますと教えてくれます。大変ありがたいです。

 入院患者さんできっちりしている人は入院中でも飲めるように健康食品を持ってこられています。その中の一人にAさんという人がいました。Aさんは家にあった健康食品を箱ごと持ってこられました。パッケージの箱がやたらと頑丈で印刷文字が金ぴかでした。製薬会社ではなく、◎◎研究センターなどもっともらしい名前で印刷されフリーダイヤルの連絡先が小さくあります。聞いたことのない品名かつ聞いたことのない会社名。

 すぐにピンと来て、「訪問販売のお品物ですね」 と聞きました。返事はYES、もしくは近くの集合所や公民館で買ったと答えられます。プラス患者さんの年はいわゆる後期高齢者、一人暮らし。ここまで来たら読者さんもわかると思う。Aさんは丁寧に私に説明してくださいます。

「近くの公民館に今日だけの特売だよって誘われました。行くと、くじ引きで景品がもらえるっていうしね。景品はせんたくばさみなど、いろいろとくれました。お友達と行きました。これはグルコサミンや、クロレラとか健康にいいものが全部入っているのですって。次に来るのは一年後ぐらいだっていうから買いだめしたのよ」

「そうですか、ちなみにそれ、一箱おいくらか教えていただけますか」

「一カ月一瓶で本当は八万円だけど、五万円にしてくれた。六十万円分買いました。売ってくれた人は若い男性で、とても感じのいい人でしたよ」

 現物を見ると、緑色の錠剤で刻印も何もなかった。添付文書も使用説明書も何もない。箱の上の印刷も何もない。連絡先もなしときたら、もう怪しいことこの上ない。散薬をかためて錠剤にする機械は中古でいくらでも入手できる。

 患者さんは信じ切っていて、知名度がないのは限られた人にだけ宣伝しているから。高価なのはそれなりの限定品だから。また特殊な効果も言われている。(注:患者さんの言い分だけ書いています)◎◎が入っているからこれを飲んでいる限り、私は決してガンにならないのですよ、と薬剤師の私に親切に説明してくれる。多分業者さんはさぞや丁寧に口頭で説明したと思う。がんにならない健康食品と書くと薬事法にひっかかるので証拠が残らぬ会話だけで販売したのだろう。おそらくレシートや領収書も渡していないはずだ。

「ねえ、私は入院中もこれを飲みたいですけどいいですか。先生に怒られるかしら?」

 私は平然という。

「いいですよ。続けても問題ないですよ」

 本当に◎◎という成分だけなら薬には影響しない患者さんだから。



 患者さんは信じ切っているので、私もけなすことはしない。これから手術予定のひとなのに、差支えがあると困るからだ。なんでもない健康食品に数十万円も……暴利にも限りがあるが、怒っても仕方がない。グルコサミンやクロレラ、アンチエイジング。男性だったら俗にいう毛生え薬や精力剤。生きている限り、元気で過ごしたいのは皆の願い。その思いにつけこんで、できるだけ高く売りつけたいと思う業者もいるのだ。でもそれを告発するのは私の仕事ではないし、そんなことをしてはだめよという権利も私にはない。

 患者さんは信じ切っている。これを飲んでいる限り、私は病気にならないと。


 今まで入院歴がない人ほどだまされやすいと思う。それと係累のない人。医療知識がなく、信じやすい人……悪辣な業者ほどそういうだましやすいカモの匂いをよく嗅ぎ分ける。

 私はそこはダメだといういいかたは一切しないし、だまされましたねとも言わない。ただグルコサミンやクロレラはドラッグストアに行けばもっと安価で入手できますと言っただけ。善良な患者さんほど私の言葉に反発する。

「でもこれはね、特別な調合をしているのよ。だから世間に流通できないの。つまり普通の薬局では取り扱いできないの。そのぐらい、良い商品なのよ」

 そうですか、と私は言いました。

 そして、これから飲んでいただくべき薬の説明をします。それだけです。

 もちろん、病状に差し支えある場合はちゃんと理由を説明したうえで服用をやめていただきますし、医師にも報告します。


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