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第三十九話 薬を飲むことに恥ずかしさや罪悪感を持たないでほしい

 顔見知り程度の知人が処方箋を持って勤務先にやってきたことがあります。

 その知人は心穏やかでなかったらしい。調剤室の窓越しに私を見つけてすごく驚いて。カウンターに私を呼んで小声で「通院していること、薬を飲んでいることは絶対に近所の人には言わないでほしい」 と頼む。

 ◎◎剤だったが、どういう病気であれ通院や治療を同居の家族に内緒にしている人も多いので、私は不安軽減に努める。

「大丈夫ですよ、私はどなたにも言いませんよ」

「ほんとですね、絶対に言わないで下さいよ」

「わかりました、大丈夫です」

「絶対よ」

「はい、絶対に」

 どっちのセリフが、私か読者様にはおわかりでしょう……。


 医療関係者ということで医者の仲介や入院の時期を早めてほしいとかあの薬を処方箋なしで売ってほしいとか頼まれたことはありますが全部断っています。この人の場合は私の口から周囲に通院していることが知られるのが心配だったのです。

 私はその人のことはよく知らないのに、その人は私が処方内容を知ったことで鬼の首をとったように喜んで近所の人に言いふらすことを心配しているのです。私はもちろんそんな人間ではありません。逆に近所づきあいが悪い方なのにそんなに見くびられているのかよ、と残念でした。

 が、このしつこさ。まてよ、これも病気かもしれないなと思いなおす。そして淡々とかようなことはしないから安心してくださいと、その人に私の業務の一環である「守秘義務」 という単語を教え、これを守らないと私は罰せられますというと安心されたようです。

 それからこういうことをおっしゃいました。


「こんな薬を飲んでいること自体、恥ずかしい。もうイヤよね」


 病気やけがをしたらどんな人でも「どうして私がこんなメにあうの」 と思います。現に幼いころの私がそうだった。だから患者さんのいうセリフがよくわかります。後遺症が残った時は私が恥ずかしく思っていた。だって私はまだ小さくて、母親が私の後遺症を恥ずかしがったのだ。

「後遺症がないふりをしなさいと」

 母の感情は小さい子どもであるほどダイレクトに伝わる。私は母の言う感情を素直に受け取る子どもだったのです。この母の私の病気に対する考えの呪縛( ← あえていう) が解けたのはなんと成人してからです。その詳細はこのエッセイの趣旨とはずれますので書きませんが、私は病人の心の有りようが理解できるからこそ、服薬指導の指名を受けたりするのだろうと思っています。

 年をとった今でも、幼かった自分の感情をも顧み重ね合わせます。自分の病気を恥ずかしがったり、薬を飲むことに罪悪感を感じる患者さんをかわいそうに、とも思うし、残念にも思います。そして治療に対して信頼をもっていただけるよう努力します。特に必ず飲まないといけないケースは、言葉を尽くして「薬を飲むことは悪いことではない」 ことを言います。

 それが私にできることであり、仕事でもあるから。










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