第三十七話 薬剤師の震災話・その六・東日本震災編
さて平成二十三年三月十一日に起きた東日本大震災。平成史上、記録に残る惨状だった。その上、プラス津波プラス放射能プラス液状化……それでも医療救援に関しては兵庫県南部震災の反省点を生かせた点もある。
震災当日、私は父が倒れたため長距離バスで急いで帰郷中だった。途中高速SA休憩をとったバス中で運転手が緊急連絡が入ったとして「東北で大規模な地震があったようです。こっちも揺れましたが高速道路の閉鎖はありません。定刻通り到着しますのでご安心ください」 と言う。
私はバス中で寝ていたので、地震に全く気づかなかった。降車してから何度も揺れて異常事態に気づいた。父親は危篤だったので、それでも急いで収容された病院に直行していた。こういう私事の緊急事態で申し訳ないが医療者として活動は全くしていない……以下は聞き書きです。
今回もまた心ある医療者は動く。諸事情のため動けない人行かない人は抜けた穴を埋めてフォローしつつ日常の業務をこなす。
先の震災での反省をふまえ、誰が何をして誰が何をする、というのは最初からはっきりしていた。少なくとも身元と職業がわかるジャケットは用意されていた。
被災地の県名を明記した統一された目だつジャンパーで医療活動。診察や看護だけではない、救援物質を届けることも重大な任務だ。幹線道路は神戸よりもひどい有様ですぐ目の前に行かなきゃいけない集落がある。だけど地割れのため、道路が割れていて数時間歩いてう回路をとって現地に赴いたり、こういう思いがけないアクシデント多発。だけどみんな助け合っていけた。
以下も薬剤師の職務にかかわる聞き書きです。
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その一。
津波被災地現地…高台の病院なのにそこまで津波が来る。みんなで助け合い患者優先で屋上までいく。残念ながら間に合わず亡くなられた方も。津波がひいたあとは仕事が当然増える。しかも山積み。
院内の医薬品、医療器具は水に濡れたら全部アウト。しかも海水だし。だから直後から物資不足。
それなのに麻薬金庫だけは一時海水中にあったにもかかわらず、中のものが全く濡れずすぐに使えたそうだ。だから緩和ケアに関しては問題なかったという。
私はそれを聞いて金庫はいいものを買わないといけないねって職場の人と話をした。
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その二。
被災地近くの開局薬剤師の談話より。
……幸い当薬局は海からは遠いので津波の被害はありませんでした。だけどいつも来られる患者さんやお客様の様子がヘンでした。待合室でもうろうろとして落ち着きがありません。
うちは小さな薬局でマスクやうがい薬が定価販売、つまり大型スーパーよりも割高なのですが飛ぶようにうれます。でも物資の供給は不安定で医薬品がいつ入荷するか不明です。
……こんな状態でも処方箋が来ます。門前の医院の先生が頑張って診察をしておられるのです。でも電気がきていません……粉薬はどうしましょ、散薬を一回分ずつ包む散薬分包機が動きません。一包ずつ薬包紙を使って丁寧に包んでいきました。でも手作業では限界があります。長期にわたる処方箋をお持ちの方には事情を話して二三日分ずつ小刻みに渡していくことで了承していただきました。それでも調剤時間がいつもよりかかりますが従業員家族総出でやりました。
毎日朝から晩までそんな感じでした。
ある従業員がまだ寒い時期でしたが春の花をさがして花瓶に生けてくれました。何もない販売棚に商品の代わりに置きました。すると殺伐とした薬局の待合室の空気がかわりました。小さな野の花がみんなをなごませ、笑顔を出させます。造花ではそうはいきません。生花の力、生命力の強さを思い知りました。
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その三・超超緊急事態時の救急医療者の心得の話
まず我が身の安全を確保する。当たり前です。そのうえで救援に向かう場合の心得です。
その一つに集合場所に向かう途中で被災者やけが人を見かけても立ち止まって助けて治療するなという言葉があります。一人一人がばらけた状態で医療器具も薬品もない状態ではできることは限界があります。
医療の知識がある人はしかるべき場所で救援してください。大局を見て行動しなさいということです。しかし、もし助けを求めてきた相手が知人だったり恩人の場合はどうするのか? それでも無視をせよと言うのか?
その答えに関しての明快なマニュアルはありません。
あの時助けてくれなかった、さっさと足早に立ち去って行ってしまったと思われる場合はどうなるか、恩人から恩知らずと思われるのがイヤなので助けちゃうとか。
答えがないのでそれも自由ですが一応、救急医療に携わる人はそういう知識を教えられています。
その心得に従って置いて行かれた患者やけが人側にとっては釈然とせず後々恨みをかうことになるでしょう。
だからこの心得はちょっと考えさせられるでしょう……。




