第三十話 薬事委員会
病院にはやはり組織というものがあり、緊急事態を除いてこの薬がいいからすぐ入れてね、という話にはなりません。三カ月に一度もしくは、科によっては一カ月に一度の新薬の採用申請があり、薬事委員会というものを通してから薬局に入れていました。
これが開業医であれば、その先生の一存、鶴の一声で採用が決まりますが、病院となれば大勢の先生がひしめいていますので、MRさんもうちの会社の◎◎を使ってくれとアピールに頑張ります。そのあたりは昔のプロパーのイメージと重なります。医局や局長の部屋の前の廊下で背広で決めた男女が大人しく待っていたりするのはその営業のためです。MRさんをしていた友人からはあからさまに賄賂を要求する医師もいたと聞いています。多少の黒いこと(キックバックとか) もやらねばならぬとは言っていました。
……似たようなことは薬局でもありました。勤務していた病院の処方箋を受けていた某調剤薬局から「そっちに処方箋を優先的に回してやるから一枚当たり◎◎円くれる?」 と言われた相談を受けたりしました。私はヒラだったので薬局長に報告してこの手の件はまかせます。
しかし公立病院の勤務医ならば当該医師のお給料も等級もわかるし、年収もわかる。こういうのは院内であっても口外はしないのは約束ですが、私は見かけや地位で性格が良いとは決まらないし、社会的地位が高い医師であっても頭が良くても、お金のためなら恥ずかしさが消えうせるのだろうと思いました。
悪いことはいつかはばれますし、みっともないことをするよりは赤貧に甘んじる方が潔くてよいかと思います。まあ、そんなことを言える身分でも性格でもないので、ここで吐き出すだけだけど。
たとえば同じような薬だけど◎◎製薬だけの薬しか処方しない医師もいます。薬局はすべての科を集中して受けますし、院外薬局とのやり取りも頻繁です。(処方箋の疑義照会はまず発行元の薬局が引き継ぎをすることが多いです。電子カルテがあると特に) だからわかってくるのですが、あまり目立つとその医師と◎◎製薬が癒着を疑われます。ある会社のMRさんだけを贔屓した結果など、それはあるかと思います。かわいいMRさんに採用を頼まれると断れない医師もいるそうですし。
総合病院の内科だと外来だけでも特殊を含めて十二、三診までありますから処方箋だけ見るとそりゃあ勉強になります。
処方箋が紙であった時代は、やる気満々のレジレントが来局して◎◎先生の処方箋だけを見せてほしいと頼まれたこともありました。とても丁寧な人で、◎カプセルの十㎎と二十㎎の現物を見せてほしい、◎散の匂いをかがせてほしいなどと言っていました。薬局に来たら「薬剤師さんだけですね、すべての科の剤型と薬を知悉しているのは、薬剤師さんだけ。私たちにはわかりませんよ」 とリップサービスも忘れずに言う先生でした。患者さんの受けもよかったし、今頃はもっと偉くなってもっと良い先生になっていると思います。
薬事委員会はもちろん外来が終わってからの会議になりますが、MRさんは終わるまで薬局や医局の廊下で辛抱強く待っておられました。採用決定の吉報を待っておられるのです。
特にライバル会社と同時発売など、もしくは同種同効薬の発売はどちらか一社だけが採用になるはずなので、どっちが採用なのだろうと心配だったようです。私はその様子をみていたのでMRさんって大変だなあと思っていました。
私は委員会の役員ではなく、下っ端ですので、薬事委員会で配る資料つくりと一覧作りと薬事員会で決まった採用薬品一覧を各病棟や各医局用に原稿を書いて印刷して院内郵便受けに行って配りに行く役目をしていました。
患者さんの知らないところで製薬会社も医師も未来の処方箋を見据えて会議をしているのです。以上、緊急採用薬品を除いての話でした。




