第二十三話 入院患者さんの持ち込み薬について
今回は総合病院の話。
入院患者さんの目的はいろいろです。根治を目指す手術のため、小さな手術で日帰り入院、検査入院、緊急入院。ほんといろいろです。さて、持病を持っている人は定期的に飲む薬を持ち込みされます。看護師さんがチェックするときもありますが、老人や他の病院からの紹介状ありの人も含めて、一度持参薬を薬局で預かり、薬剤師がチェックする時が多いです。
チェック内容は、薬品名、残薬数、服薬状況など。
「初診で外来で来て即日入院決定。明日手術の人です。今まで飲んでいた薬を奥さんが持ってこられました。薬品鑑別は急いでください」
と段ボール箱いっぱいに詰め込まれた薬を看護師が持ってくるときもあります。緊急入院の場合は紹介状もないので、過去の薬歴が不明です。時には今まで飲んでいた薬をごっちゃにする人もいます。あきらかに飲んでいない薬も、見ればわかります。
紹介状と照らし合わせて、一つだけ気にいった? 薬を自分で決めてその薬だけがない場合もありました。自分は飲まずに友達にあげていたと仰天報告をした人もいます。
薬袋の日付と残薬数が一致しないことも多い。状況によっては本人か家族と面談をします。過去の病院に対する不信からくる服薬拒否もあります。これも医師が処方計画を立てるときに必要な情報になるので電子カルテに記載します。
一人暮らしの老人や認知症が入った人なれども訪問介護の手が入ってない場合は、別居の家族や親せきが持参します。こういう場合は中身をチェックする人はいず、持ってきたままで未整理です。その方が実情がわかるので、よいことです。
薬の袋に薬以外のものが入っていることも多いです。ボールペンやメモ用紙が入っているのはよくあります。お饅頭らしきお菓子が裸のままで入っていたり(糖尿病薬と一緒だったので食べてはいけないと自分で思い直したようです)
果ては小鳥の羽根? 猫の毛玉? が入っていたり。どうみても食べかすも。きれいなものから、汚いものまで。袋の形態で問題ありと、中身を見る前からわかるときもあります。
長年薬局にいると、製薬会社は数年おきにヒートデザインを変えますので古い薬だとあれ? と疑問に思います。
薬袋にはいつ出たものか調剤年月日を明記しているので、五年前の薬をそのまま持ってきた人もいます。また紹介状を書いた定期薬と持参薬とあきらかに違っていたり。いざ入院というわけで数年前の薬ごと持ってきたり、お孫さんの風邪薬まで持ってきたりでいろいろです。
紹介状と照らし合わせて、患者さんがドクターショッピングでそれを書いた医師以外の薬をこっそり飲んでいたことも判明します。どちらにせよ、患者さんやそのご家族との聞き取りも大事です。
しかし私の印象では先生の指示通りに薬を飲む人は半分あるかないか……と思います。それぐらい持参薬と紹介状が一致しないことが多い。患者さんとの会話が成立する場合、なぜ飲みたくなかったのか聞きます。自分の病気を軽く考えていたり、薬そのものや医師を信用できないと即答した人もいました。
だけど病院にかかる限りは、医師の指示とおりにしていただかないと結局は損をするのは患者さんです。薬剤師の残念な報告を聞いて医師もがっかりすることもあります。医師曰く。
「あの患者さん、どうせぼくの出す薬も飲まないんじゃないか。紹介状の返事を書いても別の医院にこっそり通院していたのだろ? 似たような薬を重ねて飲むと、治る病気も悪くなるよ」
……私もその通りだと思います。セカンドオピニオンは推奨しますが、二つ以上の医療機関に通院するのは……それでもする人はしますので、理由を伺って根底にある不安感を払しょくできるようにします。
同時服薬が推奨できない薬もあるのに、たくさん飲めば病気が治るものではない。それが常識だと思っていました。でもその常識が通らない患者さんもまたいるのです。
患者さんを「きちんと飲んでいます」 とおっしゃっても、持参薬チェック依頼が来たら私は一個ずつ数えます。嘘を暴くわけではないし、決して責めたりはしないので、これは飲まなかった、と正直に申告してほしいと思います。
近年、処方薬の種類を減らそうという動きはありますが、こういう事情もあります。二十種類ぐらいの処方薬をのんでいた患者さんも、今後は昔話になっていくでしょう。
人間の命には限りがあります。終生に向かってより安楽に生きていられたらそれでよい話なので、医療者にはある程度の信頼をおいてほしいです。通院して出された薬を飲まない選択もそれは患者さんの自由です。
ですが、通院していて信用できないから飲まないというのは、医療費の無駄ですし、結局は自分の損になると思います。
私は薬にまつわるいろいろな患者さんの想いを聞いていますが、薬を飲むことは消して悪いことではありません。自嘲することでもない。悪いことでもなんでもないことです。




