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第二十一話 認知症の話

 いわゆる認知症の話です。老人性限定で。こちらのエッセイでは総括として「認知症」 の表現を使います。昔風にいえばボケ老人の話。(ちなみにアルツハイマー症は認知症の六割を占める原疾患です。アルツハイマー型認知症といいますが分類などは別の話になりますので割愛します)


 症状と進行の度合いは個々いろいろ。記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、視空間認知障害など。一番の問題は彼らが「過去と現在」 それと「現在と未来」 をつなぐことができないということです。

 これは本人と同居している家族、友人関係にもすべてに支障が出ます。最終的には自分のことが何もわからなくなります……認知症老人の存在は私たちの未来でもあります。自分もそうなったらどうしよう、と思いませんか? ボケの家系じゃないから平気? 子供がいるからだいじょうぶ? ボケたら殺してほしい? それもぜんぶ忘れてしまい、ただ生きて呼吸する存在になったらどうしますか?


 全部わからなくなったら、それはそれでよい、ボケたモノが勝つ!?


 実は私の義母が認知症です。

「仕事で認知症患者と話す」 のと

「一緒に暮らしている認知症老人と話す」 のは行為として一緒だけど、

「心情的にはまるで違い」 ます。

 清潔好きでいつも笑顔でしっかりしていた時代の記憶もある嫁の立場としては、怒りっぽく不潔になった義母を見るのはつらいです。

 彼女との会話はまるで底なし沼のようです……入院患者なら一人だけつきっきりで薬の話はしないので短時間ですむし、お給料がもらえます。だけど義母とはそうはいきません。そんなこといってはいけないのは百も承知ですが、


① お話がエンドレスで同じで 

② おしっことうんちセットで

③ しかもどこでお怒りモードスイッチが入るかわからない状態


 これがもう治癒することはないのだと思うと暗い気分になります。こんなことを思う私は良い嫁ではありません。


 現在、義母は専門の施設にまかせています。そこは同じような人ばかり集っています。アルツハイマー患者同志のんびりと、時にはすでに食べてしまった食事を要求したり、何やらわからないけどお隣の人から怒られたり〈本人も怒っている人もすぐに忘れているから内容は誰も把握しない) 何もかもわすれて無動で呼吸している人たちと一緒に暮らしています。お金はかかりますが、専門家に預け世話していただいている方がよいと思っています。

 介護職は激職で入れ替わりが激しい世界ですが、現在の世ではなくてはならぬ職業です。行政の人は、施設建設者、創立者ばかり優遇せず、患者さんと直接お世話する介護職の方にはお給料面待遇面ではより向上してあげてほしいと思います。


 はっきりいって、老人性認知症を劇的に治す薬は存在しない。進行を遅らせるという薬ならあります。寝たきりの人も多いので、剤型も増えています。液剤、オブラート型、貼薬……いろいろあります。

 ご家族を見ていると「死んでいるのと同じ」 「どうせ忘れているのだから仕方がない」 と言います。

 私が患者本人に声をかけただけで「こいつに声をかけるだけ無駄ですからさっさと薬をいただけますか」 とおっしゃったお嫁さんもいます。「早く死んでくれたらいいのに」 とおっしゃったご長男もいます。私は彼らの気持ちがわかります。

 ぼうっとしたまなざしの夫を横目に「この人は若い時はこれでも◎◎でしたのよ、立派な人でしたのよ」 と涙ながらにおっしゃる奥様もいます。

 認知症は惨いものです。若年性の人だとまだ義務教育中の子どもさんがいたりします。子どもさんの心中を思うといたたまれません。だから認知症の研究がより速くすすむようにと心から祈っています。


 調剤するだけの薬剤師の出番はないです。しかしながら、「お薬です」 と笑顔で渡します。患者さんにもそのご家族さんにも「薬の時間が来たね」 と決まった時間に薬の袋を開けてほしいからです。

 無言で渡すよりも、その方が絶対いいでしょう。私はどういう行為でも、なんにでも意味はあると思っています。医療側にとっても患者側にとっても。





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