第二話・大昔の薬局の話
いきなりですが、分包機というものは粉末状のお薬を医師の指示、つまり処方箋に従って一回分ずつパックする機械です。「ぶんぽうき」 とお読みください。
今はお薬にお名前や飲む時間の指示(食後、もしくは食前、寝る前など)場所によっては病院名や医薬品名まで分包紙に印刷されたものが当たり前です。これを思えば隔世の感があります。しかし、私の大学卒業当時は名前印刷なんかありませんでした。私はまさに調剤テクノロジー新旧交代の時代のはざまにいたのです。
平成三十年現在、調剤を専門とする調剤薬局は現在コンビニの数よりも多いらしいですが、昔はそんなものはなかった。いや、少しはありましたがまれでした。八百屋さん、花屋さんと同じく薬屋さんと言われていました。薬剤師って言葉自体を知らない一般の人も多かったのではないでしょうか。
今のように食料品も一緒になって売っているドラッグストアもありませんでした。調剤薬局併設のコンビニもポイントを貯めれる薬局もありませんでした。お薬のネット通信販売もありませんでした。ましてや海外の個人通販もなく、我が国で流通していない医薬品を個人で輸入するというのは、ものすごい離れ業でした。私はそんな時代に生きていました。
気がつくと私はもう年寄りです。職場には平成生まれの薬剤師さんがいます。そう、私は薬科大学を卒業して今年で◎◎年です。
この◎◎という数字……公表するかどうかすごく悩みましたが、これを書かないと、読者さんがわかってくれないだろうな……というわけでしぶしぶと……「三十」と入れてください。これで年がモロばれですが、仕方がありません。つまり私は大学を卒業して三昔たったのです……。
三昔から薬剤師をしている私よりも大昔の薬剤師さんの話も少しだけしてみましょう。八昔前ぐらいの薬剤師さんの話を書けるのはもう私ぐらいでしょう……。そういえば、私が卒業したての新人時代には、定年後も引き続き在籍していた非常勤勤務の薬剤師さんに薬業専門学校卒の人がいました。
以下はその専門学校卒業の薬剤師さんの思い出話です。(十昔以上の薬剤師さんとその親御さんも薬剤師さんだったのでその話、すごく貴重かも)
……当時は薬剤師の資格を取るためには東京に行かないと取れなかったらしいです。その先生からは分包機がなかった時代の話を伺っています。もちろん一回分ずつ手作業で包みます。手元に薬包紙という薬を包む紙を手にとった瞬間、手元からきっちりと織り込まれた紙がぽとんと落ちる。神業かと思うぐらいに正確に素早く計測し、それを一秒未満で包む薬剤師さんがいたのです。
電子はかりはなく、分銅で計量していました。現在でも分銅を汎用しているところは極微量での計量が必然な研究分野でもあるようですが、一般薬の計量に限っては電子はかりで軽量した方が絶対に早いです。(現在は散薬の長期投与があるので、分銅で、ちまちま計量すると時間がいくらあっても足りません。分銅で計量したことのあるひとなら、わかっていただけると思いますがピンセットの扱いだけでもすごく時間がかかるのです)
昔ながらの薬包紙は今でも使いますが、ごくたまに軟膏などを小量取りたい時ぐらいしか使いません。はっきりいって昔ほど出番はありません。薬包紙は当時からデザインも変わらないごく普通の白色の薬包紙です。正方形で一枚ずつ取り出します。白以外に透明、青や赤色の薬包紙もありました。青は頓服、赤は飲み薬ではなく、溶かして体につける外用薬、などと決まりごとがありました。
昔は薬の袋にある患者さんの名前も全部手書きです。散薬瓶も点滴液も全部重いガラス製です。持ち運びが大変です。割ってしまうとそれきりです。錠剤の大箱はすべて缶入りでした。毎日の外来が終了すると大量の缶のゴミが出ました。そして抗生剤も抗がん剤もなかった時代です。職場でされている「働くチャック袋シリーズ」 の各種サイズはなかったし、付箋もなかったし、三昔前の私でさえ、一体どうやって仕事をしていたのだろうかと思うぐらいです。
以上簡単に書いてみましたが、そういう時代が確かにあり、そして私の新人時代に続きます。
◎◎◎→ そして現在
現在といっても、私の卒業した頃もまだアナログの時代でした。
外来診療の一日が終わると外来処方箋は穴をあけてひもをとおしていました。院内処方箋も各病棟ごとにひもを通してちょうちょ結びにして所定の場所にしまわれていました。調剤済みの処方箋には決められた年数の保存義務があるのです。結構手作り感満載です。
平成時代の電子薬歴オンリーになっても、まだ処方箋自体は紙製です。ですので紙製の処方箋一枚をもらうと、あとはどこの薬局で薬を作ってもらうかは患者さんの自由になっています。
しかしいずれ全部PDFメール(電子処方箋のこと)などですまされるのではないかと思っています。紙が珍しい時代になるのは、もうそこまで来ています。
現在の電子薬歴(電子カルテのこと)は紙がいりませんのでペーパーレスと言います。場所を取らないのでとても便利になったと感じます。それらが導入される以前から通院されている患者さんは、紙製のカルテも残っていますので、それは紙製のカルテ……紙歴ーかみれきーと呼んで何かをたどって調査する時には薄暗い? 人気のない倉庫までわざわざ取りにいったりします。
平成生まれの薬剤師さんは大学の実習生時代から電子カルテになじんでいるし、アナログ時代を知らないだろうな……と思うのです。新人時代私は薬業専門卒の薬剤師さんを失礼ながらシーラカンスみたいだなと思っていましたが、人生は順番で今度は私がシーラカンスになりつつあるのです。
そういうことをちょっと書いてみます。よかったら読んでいってください。