第十八話 困った患者さん編
どこの職場にも、困った患者さんをご存知だと思います。
今回は薬剤師から見た困った患者さん勝手にランキングです。
◎◎ その一、
前回の薬のどれそれが不足していたと言う。毎回でなくとも、三回に一度とか。これはもう老若男女関係ないです。同じ人が多い。かなりの確率で睡眠薬が多いです。二度あれば念を入れて数を双方で数えて間違いないか念押しして交付します。病的な人にはサインをしていただくことにしています。
◎◎ その二、
毎回遅いという患者さん。
これも同じ人がいう。しかもあとから処方箋を出してその人が湿布だけだと計算も早いので先に呼ぶと、激怒して他の患者さんの前で「私のことをバカにしている」と叫ぶ。接客業の人ならばわかっていただけると思いますが、「他の来局者が怖がるような行為をする人はこちらも困る」 のです。
でも相手は患者=病気の人です。もしくはその家族。
私は薬局のすみに誘導して落ち着かせ、素直に謝罪します。病的に興奮されているときは、相手によっては意図的に肩や背中を触るときもあります。精神疾患のある方は怒りながらも「今怒っているのは本当の私じゃないからね、ごめんなさいね」と言われる時もあります。種々の反応がありますがこちらが頭を下げて謝罪すると、より暴れる人はいません。
ただ大声を出してわめくだけの人は、大柄な男性薬剤師や押し出しの強そうなスーツで決めた男性事務員が対応すると急に大人しくなったりするので、相手をみてから騒ぐのかなとも思います。こういう人は年配の男性が多いように思います……統計はとってないですけどね。
私に関するクレームもいただいたことがあります。老人が続いたときは耳が遠い人が多いので声を大きくします。その流れである若い女性に交付したあとに、その女性が帰宅後、薬局長に名指しで電話をかけて「今後あの声の大きい薬剤師さんは私の担当にしないように」とおっしゃられたそうで、私もさすがに落ち込みました。双方とも悪気がないのは承知ですが、薬剤師側としては相手への細やかな気遣いを忘れてはならないと自戒しています。
逆に誰に対してもフレンドリーな男性薬剤師さんが、患者さんが質問してほしくなかったことをあけすけに聞いて「あの男性薬剤師はダメ」 と帰宅後に電話をかけてきたことがあります。婦人科系の薬剤だったので、その電話があって以降は婦人科の処方箋を持ってきた患者さんには女性薬剤師が対応するようになりました。いずれにせよ、医療の仕事はイコール患者さんのプライバシーの根っこにかかわることを、忘れてはならないということです。
それにしてもクレームは帰宅後の電話が多い、もしくは病院ならば「患者の声、匿名投書箱」とかが多い。患者さんは言いたいことがあっても、面と向かっていえないのです。その意をくみ取ってなおかつ満足のいく応対を(無言以外で)やっていきたいと思っています。
◎◎ その三、
法律に触れるようなことが平気でできる人。マジで困る。犯罪者ですよ。
こういうのは、それぞれの薬剤師会から名前と処方箋のコピー付きで出回ってきます。医療事務員さん用のデスクの裏、つまり他の患者さんの目につかないところに貼ります。彼らは、薬剤師が薬の現物を持って説明している間に、処方箋をそっとぬきとって別の調剤薬局に持っていったりするのです。
保険請求で二重になることが重なり、調べたら同じ人しかも他県にまたがってやっておりました。犯罪です。偽名、戸籍を変えたりしているような人でした。戸籍を変えると保険番号も変わりますし、これは区別がつきません。手書き処方箋を発行している開業医を狙ってやってきます。たとえば苗字の「水木」、を「水本」 に印刷文字のように見せかけたりするとか……私が実際に見たのはシップの◎袋の横にゼロを書き足したりしていました。シップがたくさん欲しい人、知人に転売する目的でやったようです。見慣れた医師の筆跡ではなかったのですぐわかりました。今はシップが処方できる上限も決まっていますのでその手口は無効かと思います。
先生の処方の印鑑を偽造して処方箋を作成して持ってこられた人もいます。その時は私ではなかったのですが、通してしまいました。そういう人たちは混んでいる時間帯にやってきます。でもマイナンバーの普及により、そういった不正行為は今後はなくなるかとは思います。
ひょんなことで私の職業を知ったある女性からは、お金を多めに支払うから薬を売ってくれと言われたことがあります。ダイエット目的の利尿剤希望でした。もちろん断りました。怒られました……そしてネットでもいくらでも買えるからと。
確かにそうなのですが、医師の診断のもとに使った方がよいから、利尿薬は要指示薬なのです。使いすぎると腎臓に負担がかかってきますよとメールをしたら、ブロックされました。これで私とは縁のない人だとわかったので、私は平気です。嫌われた方が幸せなこともあるのです。
また転売目的で大量の眠剤の処方箋発行を繰り返されたこともありました。この場合は医師と看護師が組んでやっていました。まだまだ保険請求時のチェックが甘かった時代です。同じ病院でしたので病院側がもみ消して表ざたにはなりませんでしたけど、医療職でも医師が不正行為に手を染める気になれば最強です。悪いことをするのは、実にかんたんです。こういうことが平気でできる人もいるのです。




