第十三話 薬剤師不要論への前振り
私はいろいろな話を読むのが好きなのですが、たまに薬剤師なんかいらんぞ、医師や看護師はいるけど、薬剤師なんかいりません、という投稿やブログを見ると哀しくなります。医師や看護師に怒っている人は結構多いようですが、薬剤師に対しても怒っている人もいる……。
怒られる薬学職で一番多いのは、患者にとっても一番身近な調剤薬局の薬剤師でしょう。薬剤師は薬剤管理料を取ってお給料をいただくので、仕事熱心な人は薬の効果や副作用があるかないか、など聞くのですがそれを嫌がる患者さんも多いです……薬剤師は管理記録表に書き込んで次回以降の交付に役立つよう聞きたいのですが、多分聞き方のタイミングが悪いか……とは思います。
私の場合、対話を好まない患者さんにはそぶりや態度でわかるので早めに切り上げるようにしています。過去履歴に一度でも聞いたことのあるアレルギー、病歴事項は質問しないです。過去の病歴によって毎度聞かないといけない事項があるときは簡潔に聞くようにはします。要は臨機応変に。
患者側にとっては医師とすでに話した内容を再び薬局の薬剤師に同じことを聞かれるのはかなわない、それに処方決定権もないくせに、単なる薬の袋詰め薬剤師が偉そうになによ? なにができるのよ? という感情があるのだろう。
その感情はわからないでもない。
というのは、私もまた育児休暇で専業主婦していた時に不快な薬剤師にあたったことがあるから。まだ乳児だった我が子に高熱が出て薬が出た時に、薬剤師に不当に質問攻めにされたのです。
その話をしてみます……その薬剤師は若い男性だったが、多分薬歴簿にたくさんのコメントが書きたかったとしか思えぬ質問ばかり。それも問診票に書き込み済みで渡し済み。それをもう一度その用紙を見ながら聞くのだ。曰く、いつから熱が出て何度でしたか、医師はなんといってましたか、お子さんには持病はありませんよね……副作用歴なし、持病なしと見ればわかるのに、同じことを聞く。
そして医師との会話をそっくりなぞるように再生してくれたまえという態度。私はトレース材料か? 診察で待たされ、診察時には子供にぎゃん泣きされ、医師や看護師に頭を何度も下げまくる。会計でも待たされる。最後の大仕事が薬をもらうこと。調剤薬局は病院の敷地外だ。目の前にあるとはいえ、駐車場は広い。子供をチャイルドシートに括り付け、再び空いている駐車場を探して薬局にたどり着く。また子供をシートから出し、ベビーカーに入れる。子供は不機嫌。熱さまシートは本当に高熱の時はすぐに乾いて下に落ちる。それをまた新しいのを変えたりする。ベビーカーを前後に軽く揺すりながら、疲れた……と思う。私だって薬ができたらもうすぐにでも帰りたい……母親は疲れるのだ。本当に早く薬をもらって帰りたい。
処方箋に疑問があればそれなりの質問というか症状確認もやむを得ないし私も協力する。でもそれではなく、同業者だからわかるけど、
「薬歴簿にできるだけたくさんコメントを書きたがる」
薬剤師もいるのです。その人がそうだった。薬歴簿というのは、簡単にいうなれば、患者に対して何を説明したか次の交付に役立つ内容を書き留めておくものです。仕事の一環でそれはいいですが、業務外だろうことをずらずら書きたがる薬剤師もいる。態度もぞんざいで、そりゃむかつく薬剤師でした。私は待ちくたびれてぐったりしている我が子を抱きしめて怒ります。
「あなたは、うちの子の今の状態、見てわかりませんか? すでに書き終えた問診票をみながら、そっくりなぞるような質問は遠慮してほしいです。薬ができているのならば、早く渡してください」
その薬剤師は口を閉じました。いきなり、背中を丸めてしょんぼりしたように見えました。隣にいた医療事務の若い女性が横目で彼を見ています。多分彼は他の患者からも言われているのではなかったかな、私は見た目は大人しそう? なのでなんでも言ってくれそうにみえたから質問攻めにしたのかも。彼は目を落として手だけ早く動かして水薬のボトルを白いビニール袋に入れました。
「あー。小児医療なので無料ですけど……容器代五十円ください……すみませんでした」
「いえいえ、こちらこそすみません。ありがとうございます」
最後に、こちらもお礼を言ったのは、あとから管理簿記録に何を書かれるかわからんからです。もしかしたら、彼はこう書くかもしれない。
→ 「薬交付時すぐ怒る母親です、話し方注意」 とかね。
私は自分にだけわかるうっぷんの感情をその患者の薬歴管理簿に書きつける薬剤師に出会ったことがあるので……そういうのは患者本人に見せないし、医療監査でもちゃんと保険点数を取るにあたる書き方をしているかのチェックはあっても、内容自体のチェックはないので、書きたい放題です。
なので、最後は機嫌よい態度を取りました。(ついでながらにカルテにそういうことをする医師もいました、私の知る限り、問題ありのクレーマー患者だったので私たちへの注意喚起もあります。言外にこの患者に対してモノノ言い方に要注意と書くわけです)
患者も忙しい身ですし、個々の状況を雰囲気や経験である程度感じ取って、いい加減な質問をぐだぐだ聞くのはやめるべきだと私も思います。しかしどれだけ嫌がられてもウザがられても、新薬でこれは絶対説明が必要と思う人にはちゃんとします。それが仕事ですから。
これだけは言わないといけない、と思うと以心伝心で患者さんの方もちゃんと聞いてくださいます。そんなものです。いろいろな職場を見ていますが薬剤師が怒られるのは、その薬剤師のやり方がまずいか、病院から調剤薬局へ処方箋を流すシステム自体ののまずさを感じますが、そういうのが出てきたら出てきたでよりよいやり方を考えればよいことです。そのあたりの呼吸は民間の接客業とそんなに変わらない、同じではないかとも思います。
持病ありで長期服薬の方でも、単なる風邪薬で一度限りの来局の患者であっても少しでも体調をよくすべく、手助けしたいと薬剤師も考えています。以前にも書きましたが、医師が処方した薬に全幅の信頼を置いて安心して飲んでいただくのが薬剤師の仕事でもあるのですから。
薬剤師の方も患者に向かって、話がしやすいように処方箋の持参者でなくとも無料お薬相談会や、血圧手帳の書き方などミニ相談会を開催して親しみを持たれるべく頑張る人が多いです。




