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第十一話 滅菌製剤の話

 滅菌業務もしました。消毒薬の原液から決まった濃度に薄めて加圧滅菌するのがメインでした。私はちまちまする仕事が大好きです。なので、加圧滅菌した後は濃度ごとに色分けするので滅菌びんのふたを一個ずつかぶせたり、色別に分けた濃度シールをはる仕事は喜んでしていました。

 当時は製品を買うよりも薬局内で製剤することが多かったのです。調剤薬局にいる現在は滅菌や製剤的な仕事はない。医師と相談して座薬やカプセルを作るということも一切ない。ですので、貴重ともいえる経験をさせてもらったと思います。

 大きな滅菌機械や器具を扱うこと、あいまに散薬の予製を作りながらも、病棟から検査オーダー(当時は特定薬品の血中濃度測定は臨床検査室ではなく薬局が受けていた) が出たらその段取りもつけます。


 先に書きましたが、実験的にある種の薬品を座薬にしたりということもしました。こういう時は一人だけの判断ではなく、各薬剤師の経験や文献を見ながら試行錯誤していました。薬学会ですでに発表されていた治験的な薬品は、発表元の病院薬剤師に直に連絡をとって知恵を分けてもらったりもしました。逆にそちらの病院ではどういう製剤をしているのかという質問を受けたりもしました。

 外部がからむ仕事は病院名も出てきますので、一薬剤師の判断ではなく皆で相談しあって研究の方角を決めます。個々が独立した人間であっても、組織とはそういうものだと実感した下っ端新人時代でもありました。


 製剤係のルーチンワーク(決まりきった仕事) はけっこうやることが多かったのですが、広い製剤室を独り占めできるし、マイペースでやっていけるので私は好きでした。

 週替わりで計数調剤係 →散薬調剤係 →入院調剤係 →製剤係 →注射係 →病棟係だったのです。そのうち病棟薬剤師制度ができるともっと忙しくなりました。そのピークにちょうど院外薬局推進事業がはじまり紆余曲折後、外来調剤が激減し、その分病棟業務にまわせるようになったという経緯があります。


 私が製剤係の時に、局内の先輩方を驚かせてしまったことがあります。加圧時に滅菌室入り口のゴムパッキンが痛んでいるのに気付かず、そのまま加圧してしまったのです。以前からパッキンがやぶれかけているなーとは思っていたのですが、これぐらいならまだ大丈夫だろと思ったのです。先輩も今年いっぱいぐらいそれで持つだろうって言っていましたし。

 ですが私はババをひいてしまいました。


 ボタンを押して程なく大きな異音、同時に水蒸気を噴出させました。製剤室は臨時ミストサウナ室になりました。結果として火災報知機を鳴らしてしまいました。あわてて緊急ボタンを押して加圧ボタンを解除、ドアも解放して事なきを得たのですが、一瞬でも気を抜くと大事件になると戦慄しました。もちろん何事かと調剤室からとんできた先輩方に怒られたことはいうまでもありません。事前のチェックが甘い、危機管理意識をもっと持ちなさいなど……ついでに先週の製剤係も申し送り不足だと怒られていました。

 本当に大事件を起こして名前が出なくてよかったと今でも思います。病院薬剤師は医療系組織の一員で個別に目立ってはいけないのです。何事もなく病院に支障なく日々の業務に支障なく主役である個々の患者さんにも差し障りなく歯車の一部としてうまくまわっていけたら、それでいいのだと思うのです。







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