第十話 調剤の話・液剤の話
液剤、水溶液状態の医薬品のことですね。外来では圧倒的に風邪薬の咳止めがおおかったです。ブロチン液、キョウニン水、懐かしいです。植物由来の咳止め薬は下手するとサポニンという成分のせいでとんでもなく泡立ってしまうのでゆっくりと水をいれていきます。私はその特異な味と匂いが好きで、咳が出始めると喜んで? 処方を出してもらって飲んでいました。
あとは検査薬の水薬。当時はマグコロール液や粉末よりも、ひまし油などの油系下剤が汎用されていたので、大量につくって三十mlの容器に小分けして保管していました。
また脳波検査前に飲ませる薬、トリクロリール液は数ある医薬品の液剤の中では一番よい匂いがすると思います。一度飲んでみたいなーと誘惑にかられますが、飲んでしまうと寝てしまうのでダメですね。催眠薬だから。脳波測定の時に薬を飲むのを嫌がる幼児に「これねえ、すんごく良い匂いがするのよ~、とってもいい匂いだよ~しかもこれを飲めるのは、小さい子どもだけだからね、いいな~」 と羨ましそうに言う薬剤師がいたら、それは私です……色もきれいだし、両手で大事そうにそうっと渡したら、検査が嫌で泣きわめく幼児も「そうかい?」 と機嫌を直してくれます。
胃腸内科ではアルロイドGという緑色の液体がよく処方されていました。良い匂いがするけど、おいしくないという……長期処方ならば持って帰るのも一仕事な重い液体ですが胃潰瘍の患者さんにはよく出ていました。PPIなど新薬が台頭している現在ではだいぶ影が薄くなっていますが、たまに出す医師もいるので現役です……昨今は短命な薬、発売中止の薬も多いので長生きな薬の一つです。
あとはてんかん薬のシロップなど。長期にわたって飲む必要がある薬には、たいてい子どもでも飲んでもらえるように良い匂いが最初からつけてあります。飲むときに間違えないように専用のカップ、赤ちゃんだったらメモリ付きのスポイドをつけます。
麻薬の液剤の古株と言えばアヘンチンキです。これは間違えると始末書、無駄に出しすぎても始末書です。いちいち調剤ごとに処方箋内容を確認します。麻薬処方の医師名のサイン、患者の住所氏名サイン、そして麻薬調剤をしたら所定の場所にサイン、麻薬帳簿にサインしないといけないので、忙しい時は正直面倒でした。昔の病院はよく処方されていたと思います。あの黒い液体。現在の勤務先ではチンキを処方される医師が皆無なので、なんとなく懐かしく思います。




