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第六話「コア・インフォメーション・シティ」

 脳内直結のVR空間で漂うキットの周囲に、無数のブロードキャスト信号の情報が集積される。

 それはまるで地球を覆う雲や台風のように霧となって周囲を渦巻いている。


【サーチエージェント作成:ID_NNBD】

【サーチコード:VS255P】

【除外コード:CC2XF】

【パターン登録:0W001】

【フィルター登録:パターン0W001】

【絞り込みコード:CCFX】

【絞り込みコード除外:CCFX】

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 キットが人間の常識を超えた速度でリアルタイム生成する情報解析エージェントプログラムが次々と周囲に形作られ、地球に対する月のように周囲を回りながら情報を分析する。

 それに応じてキットを包む霧は複雑なパズルのピースのような単位で発光、色分けされて消滅を繰り返す。

 1分25秒ほど経過した頃、霧の中に緑の光点が現れて点滅する。


「見つけたぞ。そこが町田ビル周辺の本当の管制領域だな。距離3万キロか、ラッキーだ。リレーワーム散布……完了。牽引グライダー生成」


 キットが右手を前にかざすと、そこから前方と左右へ、金色に光り輝くウィングのようなものが出現した。


「目的地をセット。……射出!」


 キットは凄まじい勢いで右手から出現したウィングに引っ張られ、無数の四角い空間とトンネルを突き進む。

 既に人間が視認出来るスピードではない。

 周囲の情報や光点が全て合成され、真っ白の風景にしか見えない。

 15秒ほど牽引された後、キットはビルが密集した20世紀の大都会のど真ん中のような空間へと放り出された。

 現実世界で言えば100階建ての高層ビルが立ち並ぶ場所に、上向きに砲弾のように打ち上げられたような状況である。

 キットはあっという間に小さくなっていくビル群から一つのビルを見定め、グライダーの牽引を下降へと変える。

 瞬間的な無重量を感じながらこんどは下へと漂うように落下する。

 ビルとビルの隙間を滑り降り、目的のビル、目的の階層へと辿り着き、壁に両手と両ひざでへばりつく。

 こんどはキットの背中から6本の光り輝くケーブルが出現し、壁面へと潜り込んでいく。


「到達……、サーチ……発見」


 キットの目を白く強い光が覆う。


「こちら新入り。α、β、君たちはとんでもない所に居るぞ。

 相模湾沖のメガフロート、国防軍の訓練設備の20階建ての『は005』ビルだ。

 とんでもない遠くに飛ばされたね。

 ちなみに外の景色はホログラム、試しに向かいのビルに銃弾を撃ち込んでみな?」


 キットの声は潜行艇にいる水口だけでなく、カイ達αチーム、ワン達βチームへも届いた。

 カイは零式熱小銃でビルの窓を撃ち、さらに対岸に見えるビルの窓を狙う。


「確かに……対岸のビルの窓を撃っても壊れない、音も無く突き抜けるだけだ」

「どうなってるんだ? 何が起こったんだ?」


「国家機密だったようだね。政府の重要なビルは必ず全方位の視界が遮られるエレベーターでの移動を必要とする。レール式のね。

 そしてテロ対策で全て地下を通って別ルートへ抜ける仕組みが作られているみたいだよ。

 今回、彼らは本気で僕達を捕まえる気だったようだね」

「予想外だ、メガフロートのマップ情報をくれ。あと敵の配置は? どうすれば逃げられる?」

「逃げられる? 逃げられるのかよ本当に? 海の上だぞ! 離れ小島だ! 包囲されてるに決まってる!」

「キット! エレベーターで元の場所に戻せるか?」


「駄目だ。元の町田ビルも完全包囲されている。1階に残った二人のメンバーは射殺された。手遅れだ。」

「どうすりゃいいんだよっ!」

「終わりだぁ……。終わりっ……」


「αへ、君達が居る廊下に隣接する全てのドアはダミーだ。出入り口は二か所、エレベーターを出た場所と、その反対側の廊下の突き当りの天井のパネルだ。マップ情報と敵の配置を送る」

「ほんとだ、空いたぞ」


「βへ、そっちの出入り口は凄い場所だ。廊下の窓、エレベーターから3つ目の外だ」

「まじかよ! ここは最低でも地上30階以上あるぞ。飛び降り自殺しろってか?」


「そうだね。思わないよね普通。いきなり捕まえられたネズミはそんな事を」


 ワンは窓をサイボーグ化した腕で殴って破壊し、窓の外へと飛び降りた。

 だがワンは空中に着地する。

 橋すらない足元、何十メートルも下には豆粒のような自動車が行きかっている。


「君の言う通りだ。信じよう。こちらへもマップ情報を頼む」


 キットはチーム全員にメガフロートの3Dマップ情報を送った。


「エレベーターは経路の途中で物理的に封鎖されている。一番近くから皆が逃げられるのはメガフロートの水面下、地下5階、北西500メートルにある小型潜水艇だ。

 そこへ向かってくれ。僕がロックを解除する」


 3Dマップと敵の配置や移動を見ていたワンが装着していたグラスを通常モードへ戻す。


「どうやら相手は訓練生と見える。動きが遅く未熟だ。これはいけるかも知れない」

「だが数が……100人近くいるぞ」

「問題ない」


「それじゃぁ……」


 皆の逃亡を手助けする為、メガフロートの施設にアクセスしようとしたキットだったが、小さな爆発とともに張り付いていたVR空間のビルから弾き飛ばされた。

 そして天から稲妻が5、6回、目の前に落ちるような眩い光が走った後、キットの目の前に巨大な白い顔が現れる。

 キットの身長とほぼ同じ大きさの無機質な表情の顔である。

 顔はキットに話しかけた。


「驚きました。メイン情報ケーブルを伝い、ここまで潜り込む人間の存在に。

 そして、それが私の覚えている人間だと言う事に」

「だ、誰だ?」


「一度会っただけ、やはり人間ごときでは忘れてしまうのかも知れませんね」

「……あいにく僕は知り合いが少なくてね……君はアキタ君の目を突いた女の子だね?」


「……貴方との会話は終わりです。さようなら、懐かしい……」

「離脱!」


 キットは牽引グライダーを再び出現させ、猛烈な勢いでその場から立ち去る。

 真っ白な光の中ブロードキャスト信号で先ほどのAIの声だけが届く。


「貴方のアクセスできるメイン情報ケーブルは全て封鎖、迂回させました。貴方の仲間にも貴方にも等しく死が訪れることでしょう。

 貴方達の存在も、今回の行動も無駄だったのです」

 

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