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第二話「得体の知れない放浪者」

 アンダーワールドの巨大な地下海水路の中を進むレジスタンスの指令潜行艇。

 半浮上してセンサーを水面より上に出してゆっくりと進む。

 指令室にはカイと片手と片目をサイボーグ化した武僧のワン、そしてキットがホログラム映像のアンダーワールドと地上の3Dマップを取り囲んでいた。

 カイがキットに手招きしてホログラムの前へ呼ぶ。


「キット。これから君はレジスタンスのハッキング活動に参加して貰う事になる。

 君の拡張電子頭脳エージェント(EBA)としての能力に我々は大いに期待している」

「ハッキングですか? 一体何をするんですか?」


「地上で大型のビルやアルコロジーが建造、改築される際にアンダーワールドで行われる狩りについては説明したね?」

「はい。恐ろしい話です」


「我々はリスクを最大限に抑え、アンダーワールドの住人を不意の虐殺から守る為に、定期的に地上へと出て建設会社や政府の各省庁の建物に忍び込み、時には押し入って情報を得ている」

「情報? 何の情報ですか?」


「大規模ビルやアルコロジーの建造、改築計画だよ。

 我々は事前に狩りに関わる情報を集積し、予測してアンダーワールドの住人への避難勧告、時には狩りへの抵抗を行う」

「地上へ出るのは危険じゃないですか! どこかネットワークケーブルを抑えれば……」


「アンダーワールドに敷設され、日本の基幹ネットワークを構成しているメイン情報ケーブルは、国家規模のサーバーを利用し、最高度暗号化がされている。

 しかも光ファイバの中の情報が盗聴によりほんの僅かでも失われると保安ロボットが群れを成して取り囲み、ハッカーを処分する。

 今の我々の技術では地上の施設内、最も暗号化の緩いところでの抜き取りが限界なんだよ」

「それで皆、銃を持ってるんですね? 正直僕はそういう荒事には自信がありませんよ?」


「大丈夫、実働部隊は私と、そこのワンが率いるチームだ。君はこの潜水艇の中の情報ルームで待機して各種オペレーションを行ってもらう。詳細は君の先輩でもある水口に教わってくれ。

 それでは今回のターゲットだが、この国土交通省の施設に押し入る。

 地上102階のビルで、50階部分は大きな穴が開いた形になっており、ここはホバーカーの発着場になっている。」


 カイがホログラムの地図のビルを指さして作戦の説明をしていると、潜望鏡のセンサー映像を監視していたオペレーターがカイを呼んだ。


「カイさん!」

「何だ?」


「見てください。こんなところを歩いている人がいます。足元もふらついているし普通とは思えません」

「ここはゴミ処理場のボイラーエリア地下だったな。外の気温は?」


「102度です。有害ガスも検知しています。彼が見た目通りに人間であれば、あと1時間も持たずに死ぬでしょう」

「仕方がない……」

「私が行って来よう」


 ワンは近くの戸棚から顔だけを覆うガスマスクを取ると、顔に装着しながら素早く近くの梯子を上っていく。

 皆が外部映像を見守る中、ワンはふらつきながら歩いている男を肩に担ぎ、素早く引き返した。

 そして潜行艇の中へと戻り、マスクを戸棚に投げ捨てつつ男を床へと降ろす。

 男は見たところ30代でどこかのゴミ箱にでも捨ててあった服を寄せ集めたようなちぐはぐな服装をしている。


「アンダーワールドの人間だな? 道にでも迷ったか? あんな場所を歩いていれば死ぬぞ」

「横浜FEOメガビルへ……行かないと……」


「横浜? 君は何十キロ歩くつもりなんだ?」

「横浜FEOメガビルへ……」


「君、名前は?」

「名前、名前は……原田正弘」


「どこの出身?」

「私は……私は……、あれ、私はどこで生まれてどこで育ったんだ?」

「脳にダメージを受けている可能性がある。とりあえずメディカルルームへ連れて行こう」


 ワンに肩を借りながら男はフラフラと歩き、潜行艇のメディカルルームへと消えていった。




 数時間後、潜行艇は地下200メートルの海水路を通り、目的の国土交通省町田ビルへと近づきつつあった。

 キットは一通りのミッション説明やレクチャーを受け終わり、メディカルルームで先ほどの男、原田の様子を見守っていた。


「水、飲むかい?」


 キットはコップに水を汲んで原田に渡す。


「ありがとう。君は優しいな。いや、変わってる」

「そうかい?」


「何の縁も無い俺にこんなに親切にしてくれるんだからな」

「ちょっとした親近感を感じたのかもね。もう昔のことは思い出せた?」


「いや、私はアンダーワールドで作物の水耕栽培をして生計を立てていたんだよ。2年前からはずっとそうだ。

 間違いない。

 でもそれより昔が、まるで断崖絶壁のように記憶が欠けてしまっている。

 どうしても思い出せないし、思い出せる気がしないんだ。

 まるでそんな過去は無かったかのように……」


 原田は頭を抱えて俯く。


「その内思い出すさ。家族はいるの? なんで横浜を目指してたの?」

「……由美子、竜也……、うっ、横浜へ、FEOビルへ行かないと!」


 原田は立ち上がろうとするがキットがなだめる。


「落ち着いて、徒歩でアンダーワールドを通ってそこへ行くなんて無茶だよ。

 そうだ。お腹減ってない? 一応潜行艇内に備蓄があるから」

「そういえばここ二日歩きっぱなしで……」


「二日歩きっぱなし? 冗談だろ?」

「腹が減った……、横浜のFEOビルに行かないと!」


 原田は再び立ち上がろうとした。

 部屋の外からキットを呼ぶ声が聞こえる。


「キット! そろそろ作戦開始だ! 情報ルームへ来てくれ!」

「分かった、今行く!」


 キットは船内管理の乗務員に原田の様子を見るように頼み込み、情報ルームへと入った。

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