目覚め=始まり
光る太陽
高く澄みきった青空
広大な大地に遠くに見える山や森
そして
自分の胸にある二つの膨らみ。
「なんじゃこりゃーーーーーーー!!!!」
それが俺、歳倉異織が異世界で初めて放った言葉だった。
時を少しだけ遡る
俺こと歳倉異織はいたって普通の人間だ。現在高校三年になったばかりで17歳、頭の出来はまぁ普通、運動は得意で剣道では全国に出場する実力があったりするがそれくらいで何か他に誇れるものはない。そんな俺は何時ものように朝起きると部活の朝練の為に結構早い時間に家を出る。俺が通う高校は何か特色があるわけでもないいたって普通の高校だ。俺がここに決めたのも家から近くて俺の成績でも問題なく入学できるという理由で決めただけだったりする。しかしそれなりに居心地は良く結構好きだ。まぁ、勉強は嫌いだが。その日も何時ものように朝練を済ませて授業を受けて部活にでて家に帰る。そんな当たり前の日だと思っていた。
その時までは
特に理由があった訳じゃない。ただなんとなくいつもとは違う道で帰ろうと思っただけだった。だからいつもより少しだけ遠回りになる道で帰っていたとき信号が青になって道路を横断していたとき何故か車がかなりの速度で俺に向かってきていてそこで俺は意識を失った。
「そして目が覚めたら異世界でしたって、どんな状況だよ。」
いつもより少しだけ高くなった気がする声で誰にともなく独り言を呟く。
俺は目が覚めた後一通り驚いてからとりあえず状況の整理をしようとこうなる前の出来事をふりかえったり周囲を歩いて散策してみた。結果わかったことは一つここが地球ではないだろうという事、そして何故か俺が女になっている事だった。
ちなみに一人称が俺である以上俺は当然男だ。(今は何故か女だが)前々から名前が女っぽいや見た目が女ぽいなどと言われてきたが(勘違いした馬鹿に告白されたことすらある)それでも俺は確かに男だった。胸に脂肪など無かったし下半身というか股間には確かに【あれ】があった。しかし現状胸には脂肪があり触れば柔らかく(BかもしかしたらCはあるかもしれない)股間に手を当てれば何もない。しかも何故か髪まで伸びていた。というか
「何で服まで変わってんだよ。」
目が覚める前俺は学校帰りで制服だった。当然男物だ。しかし今俺が着ている服は何故か女子の制服だった。しかも俺が通っていた学校の制服ではなく近くにある結構なお嬢様が通うことで有名な女子校の服だった。当然俺はそんなもの持っていない。というか女物の服なんて一着も持っていない。いくら名前や容姿が女っぽいと言われようと俺はれっきとした男なんだから。にも拘らず何故?
「はぁ、まぁ解ないことは考えてもしょうがない。これからどうするかかな~。」
とはいえ今の自分の状況の訳のわからなさに考えずにはいられない。異世界への転生?転移?まぁ何でもいいが自分の意識の最後の瞬間を考えるとぶっちゃけ助かったと言わざる得ないだから異世界に召喚?されたこと事態はいい。しかし何故女になってんだ?異世界に渡ると性別が変わるようにでもなってんのか?
「んぅ~。駄目だ。やっぱり解らない。そもそも情報不足なんだよな~。はぁ。」
ああ、そういえば何故ここが異世界と解ったかというとさっき遠目にだけれどゲームやマンガで目にするようなドラゴン?らしき生物?が飛んでたことと周囲を散策中にいつの間にか現れて現在俺の周囲を囲むどう見ても人間に見えないオーク?オーガ?それともゴブリン?のおかげ?だった。
『プグゥグググ!』
『プウッグ、グフゥー』
俺が現実逃避しているまにもオーク達(顔が豚みたいだからたぶんだけど)が俺には理解できない言葉で話していた。まぁこいつらが持っている斧なり剣なり棍棒?なりにこびりついている赤黒い模様を見る限りろくなことじゃないと思うが。
ここで俺が女に変わっていることでRー18の展開になることを想像するやつもいるかもしれないがこいつらの様子を見る限り少なくともエロではなくグロの方で規制がかかるだろう。だってこいつらの俺を見る目、どう好意的に解釈してもうまそうな食材を見る目だもん。だからと言ってエロの方が良いというわけでもないけれど。
さて、俺が現状とてつもなくヤバイ状況だというのは解ってもらえたと思う。しかし俺はどういうわけか焦っていない。いやまぁ最初に目が覚めたとき等は焦ったが、何故か命が危ういかもしれない状況にも関わらず今は不思議と落ち着いていた。先程は現実逃避と言ったがそもそもこの状況でそんな事をする余裕があること事態が本来おかしい。確かに俺は運動は得意だし、剣道の腕前には結構な自信がある。しかしこんな訳のわからない異世界でモンスターとでも呼ぶべき存在を相手にして勝てると思えるような力じゃない筈なのにだ。にも拘らず、俺はこいつらを脅威として感じていない。
と、俺が自分の感覚に戸惑っている間にオーク達の話し合いは終わったらしく一匹のオークが俺に向かってきた。その動きは隙だらけで俺をなめきっていることがうかがえる。実際男の体のままだったとしてもこいつらのうちの一匹相手にすら勝てなかっただろう。しかし俺の感覚が勝てると囁く。
俺は自分の感覚を信じることにして動かずに相手を待ち構える。
近付いてきたオークは最初俺が動じてないことに訝しげにしていたがすぐにどうでもよくなったのか手に持っている赤黒い模様(おそらくは血だろう)の付いた結構ぼろぼろな剣を振り上げて襲ってきた。
『プゥグァァァア!』
奇声をあげながら降り下ろされる剣。それを俺はなんの危なげもなく回避する。
避けられたのが意外だったのか、オークは少し驚いている風だったが次の瞬間には怒り滅茶苦茶に剣を振り回してきた。
『プウッガァァア!』
俺はオークが放つ全ての攻撃を難なく避ける。剣だけではらちが明かないと判断したのかデカイ丸太のような腕や足から繰り出されるようになった拳や蹴りすら危なげなく回避する。
『クゥウグ?』
自分の攻撃を何度も避けられて流石におかしいと思ったのかオークが一度手を止めて距離をとった。しかし俺からすれば不思議なことでもなんでもなかった。なにせ遅すぎる。いや、俺の方が早すぎる?こいつの様子からすると全力で攻撃してきていたんだろうけど、ぶっちゃけスローモーションで動いているとしか思えないくらい遅く見える。
おまけに体が軽い。意のままに体を動かすってことがどういうことなのか今なら理解できるってくらい自分の体を動かせる。
何故男の体の時より女の体の方が身体能力が高いのかは解らないがこれならなんとかなりそうだ。
俺がそう思ったのとほぼ同時に向こうもこのままじゃ不味いと思ったのか今まで周りで観戦していたオーク達まで俺に向かってきた。
『『『『プゥグァァァア!』』』』
「ちっ!」
一対一ならともかく流石に複数対一に加えて周りを囲まれていたら避け続けるにも限度がある。しかしこちらから攻撃しようと思っても素手でダメージを与えられるとは思えないしこいつらが持ってる剣や斧を奪って攻撃しても、ぼろぼろな見た目から人相手ならともかくこいつら相手に通じるとは思えない。
『プウッガァァア!』
「っ!しまっ!」
俺が周囲を観察するのに夢中になってつくってしまった一瞬の隙をついてオークの一体が剣で攻撃してきた。
避けられない!
「くっ!」
俺は避けられないと判断して悪あがきとしてそのオークを蹴りつける。結果
『プェガ!』
「は?」
ドコォォォオン!と重い音をだして後ろにいた数匹を巻き込んで数メートルほど吹き飛ぶオーク。立ち上がらないその姿に俺と俺を囲んでいたオーク達が暫し唖然となる。そこで俺は先程の自分が感じた感覚を思い出した。そう、俺はこいつらを脅威として感じていなかった。攻撃を避けられるだけでそんな風に感じるわけがない。つまり、それは、俺はこいつらを問題なく倒せる力を持っていると無自覚に感じていたという事だ。
俺が自分の感覚を理解するのと同じくオーク達も俺がただの食材ではなく危険な敵だと判断したらしく警戒して無闇に近付こうとしてこなくなった。
オーク達が俺を警戒して近づいてこないうちに俺は自分の身体能力を確認していた。体が速く動けたり動体視力が良くなっているのはオーク達の攻撃を避けられていた時点で解っていた。しかしそれはあくまで普通の人間の範疇に収まるレベルのものだと思っていた。けど、どう低めに見積もっても100㎏はありそうなオークを蹴り一つで数メートルほど吹き飛ばすのはおかしい。それはいくらなんでも普通の人間の範疇に収まらない。
自分の手を見つめ握ったり開いたりしてみる。なんの違和感も感じないどころか、たったこれだけの動作でも自分の体がいつになく調子良いことがわかる。
「……‥良し!考えるのは後だ。今は」
俺は自分を囲むオーク達を見渡す。俺と目を合わせたオークは皆一様に怯む。しかし自分達の方が圧倒的に優位であることを思い出したのか一匹が奇声をあげて突っ込むと他のオーク達も続いて突っ込んできた。
「こいつらをなんとかしないとなっ!」
それからどれくらいの時間が経ったのか向かってくるオーク達を殴り、蹴り、吹っ飛ばしてはまた殴る。無我夢中でそんな事をずっと続けていたら気がつくとオーク達一匹残らず倒していた。
「ふぅ。流石に数が多いと苦労する。しかしまぁなんなんだこの力は。」
俺は周囲に溢れかえるオーク達の死骸を見回して次いで自分の無傷の体を見る。軽く三十匹ほどはありそうなオーク達の死骸。その肉体の固さは案の定こいつらが持っていた剣じゃ斬りつけると切れるどころか剣の方が折れてしまうくらい固かった。そんなオーク達を素手でこれだけ殴り飛ばしておいて俺の手には傷一つない。さらに言えばこれだけの数の敵と一人で戦ったのに俺は結局一撃ももらわなかった。
「いくらなんでもおかしいよな。身体能力があがってるだけじゃ説明つかないくらい今の俺って強い。それにこの体」
オーク達を倒した後俺は自分の身体がどれくらい変わっているのか色々と試してみた。
例えばオーク達が持っていた剣の一つで自分の指を指してみた。結果は簡単に傷ついて血が出たがほんの数秒で跡形もなく治った。
次に指に力を込めて剣で指してみた。すると今度は刺さらなかった。
次に剣を折ってみた。結果はあっさりと折れた。
さらには折れた剣を思いっきり投げてみた。するとありえないほど遠くに飛んでいった。
他にも色々と思い付く限りの事をしてみた結果解ったことは。
一つ五感や身体能力が人間とは思えないほど高くなっていた。特に力が凄まじくなっていた。
一つ身体が異常に頑丈になる。どうも力を込めた箇所が異常なほど硬くなりこの結果オーク達を殴り飛ばしても無傷だったみたいだ。 しかし触ってみても硬くなった感触が全然しなかった。不思議だ。
一つ傷の治りが異常に早い。自分で試せる限界まで試してみたがいずれも数秒で跡形もなく治った。
といった事が解った。
「んー、この力のお陰で無事だったんだが気味が悪いな。特に傷の治りが早いのが一番不気味だ。しかしこの力がなかったら既に俺は死んでただろうし。はぁ、複雑だ。」
それから俺はオーク達が持っていた剣の中で一番ましなものを選んで布にくるんでその場を後にした。
「しかし何処に向かえばいいのかも解らないから困ったもんだ。何処かに街かせめて村でもあればいいんだけど。」