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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
72/73

第七十二話 「感動のシーンは多くの観客の前で」



「は~。なんとまぁ.........頑張ったんだな。」

「そこでその感想はないと思うぞ。」


幽霊を脅迫(?)し、謎のループ空間を脱出した弓人達。その後出現した門に迷わず向かった。幽霊の集団を引き連れながら着いたそこには、高く上へと続く吹き抜けを中心とした、巨大な空間が広がっていた。そして各階の天井に当たる吹き抜けに面した部分に、あの“鳥の翼をつけた女性と、その女性が抱える小さな赤ん坊”の紋章が取り付けられていた。


「1、2........8階まで。各階の天井も高いな。」

「それにしても広い。一体どのような儀式を行っていたのだ?」

「確かにな。まだ教会は全然行った事はないが、普通は何かを.......あれ?リーザの所って何か祀ってたっけ?」


ドリーに連れられて行ったあの教会では中へ入る扉を開けた瞬間、弓人のドストライク修道女<リーザ>による手荒い歓迎、否、彼女は完全にこちらを待ち構えて弓人を殺さんと薙刀を振り下ろしてきたのである。いくら視線に入るものを完全に把握し、既知のものであればそれを認識できる弓人であっても、その過激なシーンにより視線を完全に誘導され、目的のものを捉えていなければいくら記憶を探っても思い出せる訳がなかった。


「お、俺の弱点一つ発見。」

「??、ユミヒトに弱点などあったのか?」


大事な情報が抜け落ちている記憶から自分の弱点を発見した弓人は、また一つ自分が強くなった事に喜びの表情を溢す。しかし、元の母数が大きすぎる事を知っているヴィルは、どこか疑問視する様な視線を送っていた。


そんな視線に少し顔を背けた弓人はもう一度目線を正面に移し、そして上を見上げた。


「まぁ、なんにせよ道は開けた。上に行こうじゃないか。_______ジャンプで。」

「そうだな、じゃんぷ(・・・・)で。」


そう、二人の立っているこの巨大な吹き抜けには、なんと階段が無かったのである。各階層約十メートル(10 m)。完全にここへと到達する者を想定していない設計に少しだけ呆れる二人であった。


「皆~。いくよ~」


弓人は未だぞろぞろと付いてくる幽霊の集団に一声かけた。これでは完全に引率である。


..........___ ..........___ ..........___ ..........___


遂に音を出さなくなった弓人の跳躍。同時に、実はこのまま自分の存在も消えていってしまうのではないか、と少し心配になってきていた。


「これは進歩なのか、それともリハビリで本来の動きに戻ってきているのか。」

「その体の話か?」

「そそ。」


ヴィルは弓人の“こちらでの”出生の話を知っている。しかし初めて話した時以来全くと言っていいほど話題に上らなかったその話を、少しだけ広げてみる。


「実際、その体は誰のものだったのだろうな。」

「ああ、多分<大盗賊>のものだ。」


それは弓人にとって地雷だった。


「.......分かっていたのか?」

「い、いや、まだ推測の域を出ない、よ。(な、なぜだ。状況も台詞も全く違うのに、これではまるで浮気がバレた亭主みたいじゃないか。)」


結果として自分が秘密にしていた事実を暴露した瞬間、急激に温度が下がったヴィル球。しかしここで手を放すと、それこそ致命的(・・・)な事態を招き、致命傷(・・・)を負いかねない事を瞬時に理解した弓人は、その今にも凍りそうな右手の痛みに必死に耐えた。


「少し前に図書館に行って、これかな?っていうのがあっただけなんだよ。」

「ふ~ん。」

(あ、少しだけ温度が上がったぞ。)


元々凍傷になる事自体不可能な右手であったが、ヴィルの機嫌を考えると、その温度が幾分かマシになった事にホッと胸を撫で下ろす弓人。その間にも最上階は目の前に迫っており、次の跳躍で到着した。


サ――――――――


幽霊の集団も遅れずについてきた様である。それを確認した弓人は自分の立っている階層を見渡す。すると吹き抜けを挟んだ向こう側に今までよりは小さいが、それでも大型トラックなら簡単に入りそうな扉を見つけた。


「方向的にはあの観戦席の方か。まぁ謎の空間に入ってる時点で方向とか関係無いかもしれないけどな。」

「うむ。しかし、構造自体は変わっていなかったのだ。可能性は高いと思うぞ。」


少々喧嘩(?)しても結局は究極的に仲が良い二人は、やはりここでも迷わずその扉へと進んだ。


一度の跳躍で吹き抜けを飛び越え、そのままの勢いでもう一度跳躍し、扉の前へ。そしてその扉を押した。しかし、


ガッ


「「...................」」

「「「「....................」」」」


無常にも次の道は(ひら)けない。幽霊達も何を思ったのか先程より静かである。


「誰か笑ったら八つ裂きにしてやろうと思ったのに。」


ザザザザザザザザザザザザザザ


そして、その弓人の言葉と僅かに振り向き覗かせた瞳の輝きに彼等の動揺は激しくなる。つまり、今までの動揺は静かなもの、その一言の後の動揺は激しいものであった。


「まぁ、冗談はさておき。よし、“押してダメなら、引いてみな”っと。」


ガッ


「「...................」」

「「「「....................」」」」






ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


音ではない。しかし、初め神殿が出現した時よりも“重い”音の様な重圧が、この広い空間を荒々しく満たした。ちなみに、例外な者が一名(?)。


「ん?、どうした?ユミヒト、何か起こっているのか?」

「ああ、大丈夫。ヴィルは何も心配しなくて良いんだ。」

「あ、いつもの発作だな。」


ヴィルは十分理解している様である。弓人が自分のミスを他人に見られるとすぐに見た者を八つ裂きにしてしまう事は。それにしても一体どこで知ったのだろうか。


「まぁ、お前達には実体が無いし、別に笑っていた者がいた訳ではないから許してやる。______本当にいないな?」


ザザザザザザザザザザザザ


幽霊は皆一様に首を縦に振った。その必死の表現を弓人が頷きをもって受け取った後、中には命乞いをする様に手の指を前で組む者さえいた。


彼等の態度に一応の満足をした弓人は、改めて目の前の扉を見る。重厚な白塗りの扉である。この神殿の壁や数多(あまた)存在する柱の様な精巧な彫刻がされている訳では無いが、それでも歴史的価値が高そうな逸品を前に弓人が放つ言葉は...........


「よし、壊そう。」

「やはりな。」


幽霊の懇願により一度は止まった工事。しかし、この悪逆非道の大盗賊弓人の手によって再度、その悪魔の施術は再会されようとしていた。


____________________________________


最早、幽霊達も沈黙である。ところが、そこに救いの手が差し伸べられる。


「ユミヒトよ。」

「ん?なんだ?」

「多分、否、絶対に分かっているかと思うが、」

「?」

「この幽霊は皆、ここを守る事を使命としているのではないか?」

「ん?それはそうだと思うけど。迷宮の魔物だし。」

「そうではなく。彼等は冒険者を殺める事が仕事ではなく。この神殿を守る事を何よりも優先しているのではないか?」

「それは、そうだが。」

「まだ解らぬか?彼等はここが“拠り所”なのだ。そして、多分唯の魔物では無い。」

「あ、やっぱり。」


ジュゥゥゥゥゥゥゥ


「っ!?」

「解っておったのではないか!!!!」


弓人の右手から、最近お馴染みの肉の焼ける様な匂いが周囲に漂った。ヴィルは大変ご立腹の様である。


「はぁ、ユミヒト。我の思うに、案外叩いてみれば開くのではないか?」

「ガツン........トントン、と?」

「そうだ。」


弓人は言われるがままに扉をトントンと優しく叩いた。するとどうだろうか。扉全体に薄い魔力が通ったと思えば、それは真ん中の縦一線へと集まっていき、


ガチッ


その線に沿って扉が割れるように開いた。その結果に弓人は肩を落とし、ヴィルは機嫌を取り戻したのか、その温度は室温をまで下がっていた。


「よし、ここからがやっと本番かな。」


無事に扉は開いた。目の前に広がるのは、壁にいくつもの絵画が掛けられ、素人でも高価だと分かる調度品が並べられた、長く長く(・・・・)続く廊下。しかしそこで弓人は少し身構えていた。それは扉が開いたと同時にその存在の大きさを強く増した気配が近づいてきたためで..........


「ようこそ。御出(おい)で下さいました。人間様。そして正体不明の方()。」

「お、ご丁寧にどうも。世話になるぞ。」


弓人が気軽な挨拶を交わした相手、それは、


「ところで御宅(おたく)、もしかして“リッチ”っていう職業に就いてたりする?」


“リッチ”であった。深く黒いローブを纏い、フードの下から骸骨の口を覗かせるその者は、まさにファンタジーのアンデッド。しかしそれを見ても能天気な弓人。逆にヴィルは怪訝な顔である。


「リッチ。そう呼ばれる事が無くなり、大変久しく感じます。」

「ふ~ん。やっぱりか。」

「さて、聞くまでも無いとは思いますが、今回はどの様なご用件で。」


この後の弓人の発言に、ヴィルは大変驚愕させられる事となる。


「それはここの金銀財ほ...........いや、今回は真面目にいこうか。」

「!?」

「と、申されますと。」


魂を揺さぶられ、激しく驚愕するヴィル。そして背景を何も知らずとも、そこから何かを察してしまったリッチ。三者三様の思いがこの空間を満たした。


「魂に関する文献か。魔道具があれば欲しい。迷宮をクリア?したんだ。それなりの景品があってもいいだろ。」

「ほう。そうですか。成程。」

(おやおや?)


リッチの表情は読めない。しかし、あからさまな苛立ちを体中から放ち始めた事は、自称非鈍感一般人の鈍感主人公弓人にも理解出来た。そして、それを理解した後は早かった。


シュッ


リッチがどこからか出した大鎌で弓人の首を狙う。それを弓人は屈むのではなく、右脚を折って左脚を前へ伸ばし、上体を後ろへと反らすことで回避した。


しかしリッチの攻撃は続く。弓人の首を狩れず、虚しく空を切ったその大鎌を、勢いを殺さずに体を中心にして再度振るってきたのである。


「何!?」


しかし、そこに弓人はいなかった。リッチはその骸骨の頭を左右に振り、そして見つける。


「御先に~。」

「いつの間に!?」


そう、弓人は既にリッチの攻撃範囲から大きく離れ、通路の奥の方へと走っていたのである。それも人間では到底考えられない速度で。


つまりは、そんな速度で走っていたらすぐに“奥の部屋”へと着いてしまうのである。


「ま、待て!!」


弓人は目の前の扉を開けた。それはまるで“玉座の間”にでもつながるようなもので.........


「はい、御開帳~」


躊躇い無く開いたその先、弓人は見た。正に玉座の間、謁見の間としか思えない造りと、その奥の玉座に座る、“少女”の姿を。


「「.........え?」」

「.......!?」

「サーニャ様!!!」


ザザザザザザザザザ


流石はリッチ。浮遊しながらの移動は速いらしく、すぐに謁見の間へと追い付いてきた。その後ろには哀れ忘れ去られた幽霊達が。


「こ、これは!?」

「い、いえ。」

「え?何?」

「一体何のだ。」


この状況を把握している者はいないのか。只々、驚きと疑問の声だけがこの場を満たす。そして、


「ま、まさか、」

「まさか?」

「?」


少女が言う。それは喜びか悲しみか、それとも非難ともつかないような感情を伴って。


「ぜ、全員、引き連れてきましたわ!!!」


役者は揃った。次は劇である。


それは演劇では無く、“過激”と言った方が正しいかもしれないが。



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