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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
70/73

第七十話 「尚も続くは静かな歓待」

気が付けば早い、七十話です。それでは、どうぞ!!



「入口は無いのか?」


粉砕した巨大なゴーレムを後にして、意気揚々と近づいていったその観戦席の様な張り出しの下に、弓人達の姿はあった。しかし、そこにあるのは反り立つ壁。頭上にある観戦席に続く様な通路は無く、正に出端を挫かれた気分であった。


「近づけば、何かしらあると思ったんだがな。」

「ん?しかし、何も無い事はその目で判っていたのだろ?」


弓人は毎度お馴染み人外の目で遠くからでもこの反り立つ壁の表面を細部まで観察する事が出来た。しかし、特に特徴のある部位などは見受けられなかったのである。


「そこは、ほら、浪漫さ。」

「ろまん?」

「そうだとも。こう、壁とかに、押すと開くギミックとか、魔力を流すとこう、ゴゴゴ―って姿を現す____」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「......................」

「......................」


大きな音をたて、動き出す壁。そして、その音を消してしまうのではないかと思える程の、二人の沈黙。


「で、現す____の続きは?」

「姿を現す、神殿の入り口......とか。」


弓人が魔力を流した壁、そこにはおそらく魔力を動力する装置が組み込まれていたらしく、壁が奥へと下がったと思った次の瞬間には、その全体が下へと沈み込み、さらにその奥に存在した巨大で荘厳な神殿の入り口が姿を現したのである。


「ほら、在っただろ?」

「これが“ろまん”の力か?ふーん、凄いな。」

「........すみませんでした。」


何に対して謝っているのか本人も甚だ疑問ではあったが、相手がヴィルであるため気兼ねなく(?)深々と謝罪した弓人。おそらくヴィル限定で、プライドというものを宿屋に預けているのだろう。


「ふむ、まぁ次に行くべき道は開いたのだ。進んでみようではないか。」

「了解です。」


ヴィル隊長の命令は絶対、と心に刻み込んだ弓人は神殿へと足を進める。その神殿は複数の柱が上の構造を支えており、その一つ一つにも細かな彫刻が施されている。そして何よりも目を引くものがその入口の上に在った。まるでこの神殿は、その存在を讃えるために造られたと主張する様に、“鳥の翼をつけた女性と、その者が抱える小さな赤ん坊”が描かれた紋章が弓人達を見下ろしていた。


「これがこの神殿の祀る者達か?それとも建国の祖とか。」

「うむ、後者がどうも当てはまっていそうだな。」


弓人達はその紋章を見上げ、もしそうであったならと、この神殿がまだ賑わい、その人々の心の拠り所であった時代を想像する。これだけの彫刻が施された巨大な神殿である。帝都と比べても遜色無い都市、その中心を飾っていた事は二人にとって想像に難くはなかった。


「わざとそう思わせる、事は無いか。」

「もしそうならば、ここを作った者は大した演出家だ。」


弓人は、ヴィルが演出家という単語を知っていた事に少し驚いきながらも、その紋章を掲げ、大きく口を開けた入口へと近づいていく。その神殿は近くで見ても、やはりその美しさは変わらない。


「入ったら急にドンッとかはやめてくれよ。.......雰囲気が壊れるから。」

「身の安全は良いのか?」

「え?.....あ、そうか。」


自分から十二分(じゅうにぶん)に雰囲気を壊している事に全く気付かない弓人と、それに対して何も言及しないヴィル。この二人は完全に神殿を舐めているのか、将又二人のくだらない問答という“大切な時間”以外は眼中にないのだろうか。


そんな二人は仲良く、そして騒がしく神殿へと入っていった。




////////////////////////////////////////




「おお、中はさらに......こう、幻想的だな。」

「うむ。こういった場所は初めてだが、ユミヒトと抱く気持ちは変わらんぞ。」


巨大な門ともいうべき入口を潜った二人は感嘆の声を上げる。薄明りを発する天井が照らす内部はこれまた巨大な空間になっていて、入り口から奥の方へ真っ直ぐに通路が伸びていた。その通路の端には等間隔で並ぶ細かな彫刻が施された太い柱が高く天井まで伸びており、そして通路を挟む様にして水路が造られ、そこに流れる水は水底(みなそこ)まで見える程に透き通っていた。


その水の清いせせらぎを聞きながら何本もの柱を抜け、奥へと進む。徐々に背後の入り口が小さくなり、今二人を照らすのは完全に天井の発する薄明りだけとなった。


「このまま進んでも、上へと続く道はあるのか?」

「さて、奥へ進むしかないだろう。」


弓人が目指すのはあくまでも“上の観戦席”だ。あそこから感じた気配、人間のものとそうでないもの、それを確かめに来たのである。


しかし、この神殿の道は弓人をそう易々と目的の場所へ導いてはくれない様だ。


「全部で300くらいか。なんだろうな、こんなに存在が“希薄な”連中は初めてだぞ。」

「先程の奴とはやはり違うか?」

「ああ、こいつらは“単体”で存在()している。稀薄なのにはっきりしている存在とか、やはり気持ちが悪い。」

「うむ、是非とも早急にご退場願いたいものだな。」


そう、弓人を囲むのは細身の体にボロ布を被った様な姿をした、その数三百にも及ぶ“幽霊”の群れ。弓人は、その鋭敏な感覚で“確実に”捉えた“不確定な”存在に顔をしかめる。物理攻撃は勿論の事、魂の存在が強くなる空間においても無類の強さを発揮した弓人であったが、同じ空間にあって異質な存在という新たな敵に、これからの戦略を練られずにいた。


「大量の魔力でもぶつければあいつ等消えてくれないかな?」

「それで消えるならとっくに消えているだろう。」


何故ヴィルがそんな事を言ったか。それはこの神殿に入ってからの弓人の行動に理由がある。弓人は、この神殿に足を踏み入れた直後、既に何者かの気配を察知していたらしく、全身に色が付く程の魔力を纏っていたのである。そして当然、その魔力は正に人外のものであった。


「じゃぁこいつ等は、逆に何を媒体に攻撃してくるんだ?」

「我にも判らん。しかし、一瞬だけこちらに干渉してくる事もあり得るぞ。」

「おお。」

「ん?........うむ。」


弓人は、“TVゲームなどでよく見かける幽霊タイプの攻撃パターン”を見事に言い当てた(?)ヴィルに対して感嘆の声を上げた。その弓人の賞賛を受けたヴィルも、初めはその意味が解らなかったものの、流石は相棒、次の会話に移る前にそれを理解した。しかし、それは会話というには少々お粗末で.........


「なら、進むか。」

「え?」

「攻撃は当たる直前に考えればいいだろ。」

「......ああ、そうだな。」


たった今、敵への対抗手段を話し合っていた人間とは思えない発言をした弓人に対して、“人間とは思えない”の部分で、多少ながら納得してしまったヴィル。弓人は、そのヴィルを持つ右手に、深く刻まれた呆れ顔を感じた。


意気揚々と歩いて行く弓人。それに不承不承とぶら下がっていくヴィル。対照的な二人は周りを無数の幽霊に囲まれながら神殿の奥へと進んでいく。


そして、神殿の入り口から一キロメートル程離れた。しかし、未だ幽霊に目立った反応は無い。それを見渡す様に眺めていた弓人は一つの仮説を立てる。


「もしかしてこいつ等、敵に干渉する時に“魔力”を用いるのか?それなら全身色が付く程の魔力に覆われてる俺なんかに攻撃したら、一貫の終わりだろうな。」

「今はそれが一番納得できるな。」


傍から見ればまるで弓人は幽霊を引き連れている様な構図は続く。付かず離れずの距離を保った彼等の表情は見えない。


「ここまで来るとあの観戦席までの道は無いのか?」

「場所としてはここしか有り得ないのだが。」

「もしかして、他の壁も魔力スイッチがあったりしたのか?」

「まぁ、可能性は否定しきれないな。」


この神殿自体、偶然の末の発見したのである。ましてや正体不明の迷宮、まるで壁際に並ぶように遺跡が乱立していてもおかしくはない。


その可能性に気が付きつつも、いつもの“最後になんとかする”思考の下、弓人は幽霊の歪な大行列を先導する様に足を進めた。


するとどうだろうか。突然、弓人の目の前に空間の揺らぎが出現したのである。そのいきなりの出現に、しかし冷静な二人。弓人に至っては、自らこちらの世界歴の短さを口に出していながら、既に大抵の事では驚かないのであった。


「で、これ何?こんな魔力の流れ、初めて感じるぞ。」

「我も知らないな。.....................こ、こらっ。そんな非難がましい顔をしなくても良いだろ!?」

「あ、最近近づいてきてるその口調、かわいい。」

「っ!___________」


きゅぅ


その弓人の一言が原因か、ヴィル球から、してはならない音がした。さらには、


ジュゥゥゥゥゥ


それを握る弓人の手からも、してはならない音がした。こちらは、まるで肉が焼けている様な音である。


「いっ、行こう、か。」

「.....................」


進まないという選択肢は元々存在しないらしく、躊躇い無くそこへ足を踏み入れた弓人。その体は怪しげな光に取り込まれる様に、その揺らいだ空間へと消えていった。



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