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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第六十七話 「それは隠し持つモノではない」



「全部で十四万カッシュだよ。_______はい、確かに。それにしても君、おつかい(・・・・)かい?師匠かどうかは知らないけど、君も将来迷宮に潜るときは気を付けなよ。」


弓人は今大通りの露店で携帯食料の店を見つけ、そこで“高栄養価”を謳っている商品を購入していた。しかし店番をしている一見強面のおっさんには子供にしか見えなかったらしく、ランクの高い冒険者の弟子なのでは、といらぬ(・・・)深読みをされた上で将来の心配されてしまった。


「ああ、感謝する。」

「おお、随分と大人な言葉使いをするじゃないか。まぁ、がんばれよ!!」


それでも、期待を込めて心配されるというのは気分が悪いものでは無いらしく、弓人は感謝を口にして店を後にした。


その後目ぼしい店を探しながら大通りを南門に向って歩く。


「それにしても大量に買い込みおったな。」

「ん?迷宮探索って、本来これくらい必要なんだろ?」


弓人は魔法のポーチをポンッと叩いた。中には先程大量に購入した、一本七百(700)カッシュの携帯食料が二百(200)本入っている。


「いくら俺が魔力の化け物だからって、腹は一応減るんだ..........ヴィルの迷宮では、違ったが。」

「今更だが、我の名をとった迷宮というのも、複雑な気分だ。」


何気なく言った弓人の言葉にあらゆる感情の混じった様な顔をするヴィル。当然顔は見えないが。


「まぁいいさ。「よくないぞ!!」俺達はこれから迷宮へと赴く。それで、ヴィルの体をどうにかする方法を見つける。それだけだ。」

「それは、嬉しいが........」

「ん?どうした?」


気合十分の弓人の声にヴィルの、何故か申し訳なさそうな声がつづいた。


「本当に()いのか?我は龍、龍だぞ。成り行きとはいえ、数多の人間を殺してきた、最早伝説にすら残らぬ太古の「てい!!」痛っ!!、何をするのだ!!」


弓人は右手の指を広げ、左手の指でヴィル球を弾いた。そしてそのままどこかへ飛んでいく筈だったヴィル球を人外の速度で手を伸ばしキャッチする。


「ヴィル。そんな(くだり)、前にもやったぞ。」

「しかし.........」

「それもこれも、体を手に入れてから考えればいいじゃないか。ヴィルも言ってただろ?“時間は永遠に、そして絶対に離れない”って。」


クルッ


今までの台詞の総まとめを言われてしまったヴィル球は縦方向を軸に百八十度(180°)回転した。まるで弓人に背を向けている様である。


「わ、わかっておる。今でも人間共には申し訳ないと思っているが、ユミヒトは別だ!!」


若干話の流れから外れたヴィルに対しては何も言わない弓人。しかし柔和な笑みをヴィルに向け、南門への歩みを進めた。




////////////////////////////////////////




「通って良いぞ。」

「はい。__________よし。んん―――っ。」

「我も、んん―――っ」


南門での検問を済ませた弓人は、背伸びをしながら目の前に広がる草原とその左側を大きく占める森を見やる。


「このまま迷宮に行くんだが........どこに行けば良いと思う?」

「もしかしたらユミヒトより世間知らずかもしれん我に聞く事か?」

「まぁ、そうだよな。」


当然こういう答えが返ってくる。しかも弓人も分かって聞いていた様である。


「うん、それじゃぁ........<骨の迷宮>だな。」

「.......まぁ、良いのではないか?」

「なんだ、その意味深なトーンは。」

「どうせ“骨”が決め手なのであろう?」

「うん!!!」

「!?」


無邪気でひどい返事である。そしてヴィル様子はおかしい。


「よし、あの迷宮(骨の迷宮)はこの前行った森の中だった筈だ。」

「森?........その森は、今もあるのか?」

「あるよっ!!!」


ヴィルは最早弓人が通った道には何も残らないと思っているようである。自分に関しておかしな認識を持つヴィルにそのうち“お仕置き”をしなければ、と考えながら弓人は一先ず西へ向けて走り出す。


今は夕方には少し早い時間帯。昼の太陽で温められた空気が少しずつその温かみを小さくしていく。その中を疾風となった一人の男が翔けていく。街道からも幾分か離れ、その者を見るのは大地を埋め尽くす草原か、時折姿を現す農耕地帯だけ。稀にそこにいる人間達には、ただ風が通ったとしか思えない。人の認識を越えた走りはいつまでも続く。その目的の地へと辿り着くまで。




////////////////////////////////////////




「着いたぞ。」


まだ夕方も始まる少し前、弓人達は<骨の迷宮>のある森へ到着した。そして、前回と全く変わらないその姿に少し安心した。


「よし、変わってないな。」

「本当か?そして何故わざわざ言う。」

「........少し不安だった。」

「良かったな。」


最近になって自分の持つ力と非常識さを強く認識し始めた弓人。自分が短時間ながらも行った戦闘でもしかしたら森が、と思っていたらしい。


一しきり森の外観を確認した弓人はヴィルを右手に握りしめ森へ入っていこうとするが、


「ユミヒトよ。」

「ん?」

「もしや、右手が塞がったまま行くのではあるまいな?」

「え?そのつもりだけど。」

「はぁ~↓。別に後生大事に持っていなくても良いだ「駄目だろ。」........。」


ヴィルのもっともな意見は弓人が強い言葉で粉砕された。少し機嫌の悪くなった弓人はヴィルに言う。


「こんな大事なもの、ポケットとか魔法のポーチなんかに入れておけるか。」

「つまり、」

「そう、俺はポケットや魔法のポーチを信用出来ない。戦闘でどこかに引っ掛けたり、魔力の.......なにかでポーチが壊れたらどうする?」

「なんともふわふわ(・・・・)した予想であるな。」

「................とにかく!俺はお前を手放すつもりは無いぞ!!」

「議題まで変わっておる...........。もう、よい。」


弓人の議論の壁さえも無視した暴論にヴィルも説得を諦めた。その弓人は満足した顔で森の中に入っていく。


森の中は夕方に近い事もあってか薄暗く、耳を澄ませばあらゆる生き物の声や活動の音が聴こえ、壮大な生態系を感じさせる。それを共に感じたヴィルはと言うと、


(そして、それを蹂躙する者が、)

「ん?何?」


半ば弓人のその強さを讃える様なナレーションを脳内で入れていた。しかし、お互いに繋がりがあるからか、将又(はたまた)彼の人外の感覚故か反応されてしまった。


「い、いや、なんでもないのだが........そう、そうだ。あの新しい武器はどうするのだ?あれ程試したがっていただろう?」

「ヴィルよ。俺は成長したんだ。この武器を見てみろ。こんなまだ森の浅い所で撃ったらどうなるか。これを作ったのはあの名匠ポードルだぞ。ヴィルはまだ知らないと思うが、あいつはヤバい。どれくらいヤバイかと言うと、あいつは“弓職人界の俺”だ。」

「おお!?それはヤばい(・・)な」


少しずつ上達する発音で驚きを表現したヴィル。そして、やはり弓人を危険性の物差しに使うと効果が高い様である。


「だから、もう少し奥で使う。そうすれば森の周りに被害は出ないだろう。..........多分。」

「そうであるな。......多分。」


聞いたヴィルと答えた弓人、図らずも同じような気持ちになってしまった両者であった。


二人は会話を終え、道なき道を進む。生い茂るというよりはこちらが圧倒される様な木々の威容。前回深夜に入った時とはまた違ったその姿に弓人も心を躍らせる。そしてヴィルもまた、久方振りの森に見入っていた。一しきりその自然を堪能したのか、弓人の歩みは走りへと変わり、周りの風景がどんどんと後方へと流れていく。そしてその流れにヴィルも身を任せる事三十(30)分、


「ここならいいな。」

「遂にそれを使うのだな。」

「ああ、やるぞ。」


弓人は森の木々が少なく、広場になっている場所で足を止め、右腕の袖を(まく)った。


「一応、初めは捲っていこう。」


ヴィルもそれに頷き、弓人はいつの間にか魔法のポーチから出した小さな矢を装填する。クロスボウの弓は既に武具屋で(しな)らせていて、弦が一杯まで引かれている状態である。


「よし、準備が出来たぞ。」

「おお、それでは撃ってくれ。」


弓人は武具屋で初めてクロスボウを装着した時、手首から少しだけ腕寄りに当たる銃床の部分に、魔力が流れ易い所がある事に気付いていた。そしてクロスボウを発射可能状態に、つまり弦を引く時は、そのさらに肘寄りに魔力を流していたのである。


弓人はヴィルを左手に持ち替え、右手を前に突出す。そしてその拳を下に下げ、クロスボウに魔力を流した。


シュッ、トントントントントントントントントントン

「え。」

「な!?」


すると、どういう事だろうか。目の前にあった矢は消え、後には微かな音すら残っていないのであった。正確には後に続く乾いた音が聴こえてきたが。通常弓人が弓で矢を放つ時は必ずその後に爆音を伴う。しかし、今回の試射では予想していた爆音も、周囲からの反響音も全く無かったのである。


「でも確かに発射はされたな。向こうに飛んでったし。」

「うむ、それに何かを貫いていったような音も聞こえたぞ。」

「もう一回撃つか。」


弓人はもう一度クロスボウに魔力を流す。今回は、初め弦を引いた時に消費した魔力量を素早く流した。しかしここで不思議な事が起こる。武具屋で聞いた弦を引く音が聴こえない。それでもその弦は確かに引かれていた。


「まさか、速く引けば音がしないのか?」

「もしかしたら元々速く引く事を想定していたのではないか?」


弓人がポードルに渡したクロスボウの設計図を見ていないのにも関わらず、鋭い意見を言い放つヴィル。言われた弓人も静かに頷き、肯定の意を示した。


そして先程と同じ様に右腕を突出す。矢を装填し、魔力を流した。


シュッ、トントントントントントントントントントン


「........変わらないな。」

「多分これが普通なのであろう。」


不承不承の納得をした二人。弓人は矢が飛んで行った方向に歩き出す。すると、すぐに矢の直径分だけの穴が二個開いた木に遭遇した。その穴はどちらも綺麗な真円で、矢が出て行ったと思われる方の穴も、木の皮がささくれ立つ事は無く、綺麗な真円を描いていた。そしてこの光景を目の当たりにした二人はその後無言で歩き続けた。


弓人が立ち止まったのは発射地点から丁度一キロメートル、二人は木に深々と突き刺さった矢を二本発見した。その二本はどちらも同じ深さで刺さり、末端の部分だけではあるが、驚く事に撃つ前と変わらない姿をしていた。


「んっ、よし、抜けた。」

「それにしても綺麗であるな。撃った後とは思えん。」


その二本を抜いて確かめてみても、やはり矢の全体が新品同様の艶を出している。


「流石だなポードル。あの拙い設計図でここまでの物を作ってしまうとは。もう彼奴以外に飛び道具は注文出来ないじゃないか。」

「唯でさえ最強であるのに.......さらにとんでもない物が追加されてしまったな。」

「ん?いや、これはヴィルの力でもあるんだぞ?」

「わ、分かっておる。まじまじと言うでない!!」


こうして発射試験は満足する結果に終わった。


しかし仮に、迷宮に主がいたのならば、これが彼等にとって完全に“悲報”である事は、間違いない。



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