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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第六十四話 「生を転ずる業(ごう)」



「落ち着いたか?」

「.................はい。」


一度目同様、正面入り口では二回目の手荒い歓迎(攻撃)を受けた弓人は、あの後それを仕掛けた犯人を慰め続けていた。


「......さて、今回は何故攻撃してきたんだ?」


一度目はおそらく弓人が自覚無く垂れ流していた強大な魂の生命力が、今目の前にいるリーザを含め、教会の関係者を警戒させた。否、正体不明の脅迫をしていたと言っても過言ではない。しかし、前に弓人がリーザに対して“事故”を起こした時からは、これもまた本人の自覚無く、制御が出来るまでスキルが向上していた筈である。


「今日も.......つい先程から、恐ろしい感覚が、あって。」

「先程?」


今日、弓人は特に感情の起伏があった訳では無い。迷宮から帝都に帰還して、いくらか報告と挨拶のために走り回っていたが、つまりそれも“先程から”という証言に当てはまらない。


「一体何が.....帝都に何か紛れ込んだか?いや、それなら俺が気付く筈だ......ん―――。」

「あ、でも、今は、そんな感覚はしないですよ?」

「そうなのか?まぁ、良かった。」

「......はい。」


弓人の気遣いからの言葉に、喜びの感情を湛えた返事をしたリーザ。しかし不幸な事に、その言葉をかけた当の本人は、帝都に侵入した可能性のある危険因子の事で頭が一杯だった。


「..............。」

「まぁ、今は大丈夫ならこの事は後で考えよう。それで「ええと、」..ん?なんだ?」


弓人の言葉をリーザが止めた。


「あの、その前に、」

「?」

「お、お帰りなさい。」

「......ああ、ただいま。」


意地らしい声に思わずたじろぐ弓人。


「無事、お帰りになって安心しました。」

「ああ、心配をかけたな。(ん?リーザに迷宮の話なんてしたか?)」

「支部長様がユミヒトさんの迷宮からの帰還が遅いと嘆いていらっしゃったので。」

「なる、ほどな。」


そして、独り言かそうでないかは不明だが、それでも関係者以外に自分が迷宮に潜るという情報をあっさりと漏らしていた事実に内心頭を抱える。


「.............。」

「.............。」

「......ええと、話を戻してもいいか?」

「?、は、はい!どうぞ。」


弓人が変な()を作ってしまったばかりに二人会話にも微妙な()が開いてしまった。


「今日はその、帰還の報告も出来て良かったが、実はリーザに聞きたい事があって来たんだ。」

「そう、なのですか?はい、お聞きしましょう。」


椅子に座り背筋をピンッと伸ばすリーザ。覚悟を決めた様な彼女顔にしかし弓人は(つと)めて普段通りに聞く。


「魂って、........常温で固体だったりする?」

「.........はい?」

「......あ、こっちじゃなかった。」

「???」


大事な質問をする筈が、間違って自分の脳内ネタ帳から言葉を引っ張り出してしまった。


「................あ、ええと。」

「は、はい。」

「......単刀直入に聞こう。魂に肉付けをする事、つまり人間の肉体を作る事は可能か?」

「え???」

「あと.......」


一つ目の質問で既にリーザの目には僅かな警戒感があった。しかし弓人は、それをただ単順に倫理的な事を考えているのだと思い、二つめの質問をするのだが........


「.....あと、それが不可能ならば人間の体に魂を移植するこ「っ!?駄目ですっ!!!!!」」


ドン


リーザが椅子から跳び上がり、机を叩いた。弓人が日頃出す音に比べれば小さいものだが、それには確かに彼女の怒りが込められていた事だけは弓人にも理解出来た。そしてリーザは仇を見る様な目で弓人を睨む。


「ユミヒトさんっ!!なんでそんな事を!!」

「っ!?.....リーザ、気に障ったのなら本当にすまない。しかし、見ての通り俺は若輩者だ。俺の質問が非常識ならば、その理由か背景を聞かせて欲しい。」

「.........いいです、よ。....はい。」


少し息は荒いが、ドリーからも聞いている“弓人が特殊な事情を持っている事”を思い出したリーザは一応の了解の意を示した。


「それでは、頼む。」

「.....まず、お話する前に聞いておきます。ユミヒトさん、貴方はそれを何処かで耳にしたから、ここへご質問に来たのですか?」

「違う。」

「なるほど。分かりました。」


弓人のその一言で、少しだけリーザの雰囲気が軽くなった。


「それでは初めに、ユミヒトさんが先程仰った魂に合った体の作製、そして、魂の移植、これらは“一般的ではありません。”」

「でも、それは違う意味があるな。」

「はい。一般的ではないのですが、その方法は決して高度に秘匿されている訳ではなく、実は、中流貴族程の財産を一気にはたけば(・・・・)移植する事は、可能です。」

「(ドリーは何も言ってなかったぞ。)なるほど。......少し深読みするが、この魔法?の様なものを使い、自分の魂を、何かしらの手段で手に入れた若い体に移植して生き永らえてる奴いて、その体の入手方法が、権力の無い人々を無理矢理連れていったり、奴隷を使ったりしているものだから、リーザは気に入らないのか?」

「....それも.....当然そうです。……しかし、それだけではありません。」


弓人が理不尽にドリーへの恨みを全開にする中。そう言ってリーザは、怒りとも、悲しみともつかない様な顔をした。


「それ以外は、なんだ?」

「唯でさえ成功率は低いのに、彼等、奴等は、捕まえた獣の魂を気に入った女性の体に移植し、弄んで............その逆だって.......」

「..........。」


あまりの現実に、弓人も口を開くことが出来ない。


「稀に、いるんです。教会をじっと見つめ、(すが)る様な眼差しを送ってくる犬や、猫が。そして他の街に仕事があって、街道を歩いていた時も..........」

「分かった。もう、いい。」

「初めは分かりませんでした。ただ気味が悪いと。」

「リーザ。」

「じっと、私達を見ているんです。いろんな、沢山の目が。」

「もう、い__」

「殺意、そう、殺意だけならよかった。あの、助けを求める様な、誰かを求める様な目は.......」


ギュ......


リーザの胸の前に腕がまわされた。その彼女を優しく抱きしめる腕の持ち主は言う。


「もういい。分かったから。俺が悪かった。」

「.....っ..............。」


リーザは泣くまいと、歯を食いしばる。泣かない事でそれを受け止めていると、自分に納得させたいのだろうか。


「悪かった。そうか、魂に魔法で関与出来るリーザは、そういうのを人一倍感じてしまうんだな。俺にリーザが体験した事が起こったら、耐えられるか分からない。...............良く、頑張ったな。」

「........うっ....ぅぅ...。」

「でも、考えてみてくれ。そんな事を体験しても、リーザはまだ、俺達の魂を見守り続けてるんだろ?」

「っ」

「つまり、リーザは凄い。リーザは強い。リーザは、優しい.......」

「..........」

「そんなリーザを誰が責められる?俺は、俺なら、そんな奴ら..........うん、この雰囲気で言えない様な、ひどい事をして後悔させてやるよ。」


危うくリーザへの慈しみが、敵への殺意へと転化されかけた弓人。


「だから、リーザは、大丈夫.....大丈夫、なんだよ。」


良い言葉が見つからなかったのか、そう締めくくった。


「.....ぅ...............」

「ん?(泣くかな?)」

「ユミ、ヒトさん。」

「ああ。(なんとか耐えたな。やっぱり強いじゃないか。)」

「後悔しないで、下さい、ね。」

「(?)しないさ。絶対に。」

「.......ふふ。」


リーザの顔に()の感情が戻る。戻った拍子に溢れているのも、また事実である。


「...すみません。ユミヒトさんはそんな事のために聞いた訳ではないって、分かっていたのですけど。.....」

「全く問題ない。」

「ふふ。」

「それで、嫌な話を蒸し返して悪いが、」

「いえ、どうぞ。」

「魂に肉付けをする事は、可能か?」

「不可能、では無いです。」


リーザの応えは芳しくない。


「その言い方から察するに、とても難しい、と?」

「難しい以前に、その方法を知っている者はほとんどおらず、知っている者でも断片的に方法や道具を知っているだけです。」

「そう、か。」


弓人の溜息まじりの声が部屋の空間を支配した。


「でも、」

「はい?」

「でも、あるんだよな。.......分かった。ありがとう。探してみるよ。」

「お役に立てず、すいません。」

「大丈夫。存在が確認出来ただけでも良かった。それに、リーザが只者ではないと、それも分かったから。」

「っ!?」


最後の一言にリーザは息を飲んだ。


「それじゃ、一旦お暇する。」

「はい。またいつでも。」


見送りを待たず、弓人はすぐに部屋を後にした。


「(ユミヒトさん。貴方は、一体。)」


ドア越しに聞こえる、彼女の呟きを聞きながら。



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