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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第五十八話 「甘い、嵐の中で」


「.....................うっ、うっ、え゛っう、うぅ。」

「少しは落ち着いたか?」


未だ嗚咽をもよおすヴィルを何とか宥める弓人。そんな優しさもヴィルを泣かせる原因の一つである事に気が付かない。


「だ、大丈夫か?何か悪い事言ったか?」


やはり流石は“自称”絶対鈍感な主人公では無い平民の弓人である。


「う、うぅ。」

「..............。」


ヴィルと初めて対峙した時も、覚悟すらしたが、ここまであたふたしなかった。もしかしたら、ヴィルの涙は弓人さえも震えさせる世界最強の兵器かもしれない。


しかしそれは、言ってしまえば世界一温かく、可愛い暗器でもあるのだが。


「ヴィル。ほら、帰るぞ。俺だって遊び足りないんだ。お前と、.......永遠に足りるか分からんが。」


「うぇっ、うぅ、え、永遠?う゛、」

「え゛」




「う゛え゛え゛ええぇぇぇぇぇぇぇぇん。」

「うわああぁぁぁぁぁぁ。」


あたふたからてんやわんやに進化した弓人は、ヴィルと同じく叫び出す。正確にはヴィルは叫ぶ様に泣いていた。


なんど長々二百(200)分後。


「う、ふぅ。ふぅ。」

「ようやく落ち着いたか。」


ヴィルの嗚咽もなんとか収まり、弓人もホッと息をつく。


「大丈夫か?」

「あ、ああ。」


ホッと息をついて、そのまま何も言わなければ良かったものの、


「ええ、と、あれか?」

「???」


今の、否、“これからの”ヴィルにとって、


「俺と......」

「?」


とてつもなく、余計な事を、


「俺と、“永遠”のところが嫌だったか?」


言ってしまった。


「何、を、」

「そうか、その、悪「言っておるのかぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!」」


ドォォォォォォオオオオオオオン


ぴゅ―――――


何者かの圧倒的な攻撃によって、弓人球が宙を舞った、否、飛翔した。当然何者かはヴィルであるが。


「.........このまま何処へでも行けそうな」


ガシィッ


「無理でした。」

「つ、か、ま、え、たぁぁぁ!!!」


何所をどう掴んでいるかは両者不明であったが、確かにヴィル球に捕獲された哀れな弓人球。


しかし、この“哀れな”という表現、全くの筋違いの様で、


「ユミヒト!!「は、はいっ!」お前は何を言っておるのだ!!「え、は、はい!!」我がユミヒトと共に在る事を、あまつさえ“悲しんだ”だとう!???心外だ!!実に心外だ!!」


弓人は、ただただ、ヴィルという存在に、


「出会ってたったの数日、分かっている、分かっているとも!!それでも!確かな繋がりが在るのだ!!ユミヒトは向こうの言葉で絆と言ったな!!!それは我らの間に確かにある!!!」


愛されている幸せ者だったようである。


「だから!!ユミヒトと永久(とわ)に在る事は、悲しみでは無い!!それこそ!!我の至上だ!!!!!!」


「..........そ、ははっ、そうか。」


「ああ、そうだ。........そうなんだ。」


ヴィルの告白に照れくささが隠せない弓人。それを見てヴィルも安心した様である。


「我の気持ちは分かったな!では、」

「ああ、」


言わずとも分かる。二つの魂が近づいていき、そして、


「ここから連れ出してくれ!!!」

「ここから連れ出してやる!!!」


ドォォォォォォォン


弓人の膨大な魔力が地面を叩き、


遠く、未だ見えぬ大空へと、飛んだ。




////////////////////////////////////////




「どうだ?」

「うむ、心地が良い。ふふ、ユミヒトに包まれる感覚。これからも味わう事が出来るとは............ふふ。永遠に、ふふ。」


二つの魂はものすごい勢いで空へと昇る。つまり同時に魂の存在が不安定になっていく。弓人はヴィルの魂を常人ならば見るだけで死んでしまう様な強烈で凶悪な密度、そして膨大な魔力で守っていた。


「この方法考えた奴、ありがとよ。ふぅ。さて、やはり、この世界の奥底では、魂に対する圧力?的なものが極めて高いんだろうな。ん~、潜水艇にカップ麺のカップを付けて潜ったら、密度が増して小さくなった、みたいに考えればいいか。.........いや、何か違うな。ある系内の気体の体積と圧力の関係でいっか。」

「なにをぶつぶつ言っておるのだ?」


弓人の拙い考察聞き、それに興味を持つヴィル。その尋ねる声も、とても幸せそうなものであった。


「ん?ああ、前の世界の話だ。今度じっくり教えてやる。」

「ふふ、楽しみだ。」


形の無い笑顔が暗闇に咲く。それは全てを照らす様に咲き誇り、まるで、それが引き起こした事の様に、


パァァァァァァ


「おお。」

「こんな風景であったのか。」


暗い深淵が終わりを告げた。


今彼等は、暗闇に入る直前の薄暗い夕方の様な空、逢魔時を飛んでいた。そしてそれさえもすぐさま終わりが近づき、


ヒュー........ヒュ.....ピュゥ......................ヒュ―――.................


次の瞬間、


ビュオオオオオオオオオオオオ


「うわ!?」

「ふぅ、ここまで来たか。」


全てが嵐に包まれた。


「なんだ!?なんなのだ!」

「あ~、なんだ。多分この世とあの世の境界線なんだろう。あ、今は順番が逆か。」


興味半分驚き半分のヴィルと達成感二割と“ヴィル可愛い”が二百割と“ヴィルにほっこり”二百割な弓人。流石超人外、持てる感情も常人の約四百割増しである。


「それよりも、お前、大丈夫か?」

「うむ、最高の気分だ。まるで体中を弓人にまさぐ「それ以上はいけない。」」


ヴィルが変な事言いそうになったところに華麗なインターセプトを決めた弓人はさらに速度を上げる。当然ヴィルの事を第一に考えながら。


「ふふ、いじらしい奴だ。ふふ、ふふ。」

「............。」


今にも溶け合いそうな“二つ”は嵐の事など完全に忘れ、甘くて温かい空間の中、空へと昇っていった。




////////////////////////////////////////




ビュオオオオオオオオオオオオ


「戻ったらどうなるんだろうな。俺、気付いたら体在ったわ。」

「戻ったらどうなるのであろう。我、結局今でも体が無いわ。」


この嵐を進んでいる途中だったのか、逢魔時を飛んでいた時だったのだろうか、気が付けば弓人の体は戻っていた。しかし、ヴィルの体はそこには無く、


「球のままだな。」

「うむ、球のままであるな。」


魂の状態と思しき、球の状態のまま弓人の手の中に大事に包まれていた。しかし、気付いたのはそれだけでは無く、


「なんか、小さく......いや、色が濃く......もしかして密度、上がった?」


もしかして髪型変えた?みたいに言う弓人。その者の存在そのものを定義づけるのであろう尊き物体に対して、あまりにも、あんまりな問いかけであった。それに対して、ビー玉より少し大きい程のサイズになったヴィル球は答える。


「む~、特に生命力が低下したとは.........ん?おお、それどころか強くなっておるぞ!!」

「え、マジで。」

「ええと、まじ?であるぞ!」


既に自分の魂よりも弓人がもたらした新しい言語に心奪われるヴィル。魂は強大であるのに対して、弓人限定で心は乙女である。


「そうか、マジか。」

「そうだ、まじだ。」


ビュオオオオオオオオオオオオ


こんな会話をしている彼等であるが、やはりここは嵐の真っただ中なのである。しかし、ヴィルに吹き(すさ)ぶ風があるようなら、それは弓人の一睨みによって完全に霧散させられていたが。


「お前の体、元に戻るというよりは..........」

「ん?なんだ?」

「い、いや。」


弓人が言い澱む、それはヴィルならば喜んで、否、狂喜乱舞して賛成する事であったが、未だ確実では無いため、それこそ言えなかった。


「まぁ、今度じっくり話そう。」

「そうか。うむ、時間は長く、永遠にあるのだからな。」


ヴィルが最後につけた言葉に口角が上がる。


彼等の間に嵐なんて無い。



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