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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第五十七話 「下へ、下へ」



「ヴィルっ!」


弓人が矢を射った事で嵐の去った世界に、その相棒を呼ぶ叫びが響く。その相棒ヴィルは、その巨体に力は入らないのか、体を折る様にして天と地の無い世界を落下していた。


そして、その二つの存在に望まれない者もまた、地の無い空を急速の降下していた。それも、その巨大な龍のすぐ傍を。


「い、けるか?」


弓人は落下している中、体を器用に使い、ヴィルの方に進路を向けた。それは本能が導き出した最短のルートで、


「........やっぱりな。」


少しずつヴィルの体に近づいていく。そして初めから見えていた、ヴィルから“剥がれ去っていくもの”の正体をその目で確かに捉えた。


「鱗......いや、それ以外にも。」


そう、ヴィルは落下しながら、その巨体から体の断片を絶えず空に撒いているのである。


しかし弓人は見た、相棒の顔を、その安らかな顔を。龍の表情は、その堅い皮膚と凶悪な骨格から読み難い。それでも確かな繋がりのある、しかし付き合い短い相棒が満足している事だけは、分かってしまうのだ。


「....................。」


弓人は今も落下を続けている。大きな龍を追いながら。しかし、ここがどこなのか、地面はあるのか、上という概念はあるのか、将又どういう意味の場所なのかさえも分からない。つまり状況は最悪。それでも、ヴィルという顔に大きな満足を浮かべた龍さえいれば、弓人もまた満足なのである。墓標の傍らに立つ、しかし優しい笑みを浮かべている様な、そんな優しい世界がその遠くて小さい、龍と人の間だけには、確かにあった。


............................................ッ.....


しかし、


......ッ........グ、.....ギュ..モ.........


その世界を踏み荒らす者が。


「っ!?」


弓人は息を呑んだ。その怪物が小さな動きを見せた。それもほんの小さな動き、落下している中で風に煽られ、その不定形の体が波打ったと言われても何等不思議には思わない程の、そんな小さな動き。しかしそれは、最早人間とは呼べない五感と、あり得ない程確実な第六感を持つ弓人には、正に“最悪”の状況とも言うべきで、


....グ....ュ.....スゥ.....


グググググググ


それはたった今現実のものとなった。力無く落下する筈だった怪物は、ヴィルのいる方の表面に鋭い針状を形作ったのである。今ヴィルは全くの無防備、強大な龍の面影はあるが、鱗は剥がれ、あらゆる場所がボロボロなのである。


グググググ


考えるより先に弓を引絞っていた弓人。残っていたのはほんの僅かな引きのみ。その手に持つ白銀の弓と矢に全く疑問を持たなかった。


シュンッ、シュンッ、シュンッ、シュンッ


そして弓人は間髪入れずに矢を放った。それは全て怪物の、ヴィルのいる方に向かっていき、


ガンッ、ジュバッ、キッ、キィィィ


“三本目の矢が放たれた後”に伸ばされた触手を一本目の矢が射貫いた。そう、遂に怪物は、拙いながらもヴィルを攻撃し始めたのである。


シュンッ、シュンッ、シュンッ


弓人は絶えず矢を射る。矢のホルダーは持っていない。しかし矢がその手にある以上、ヴィルを守るために使う他なかった。


「...........。」


すぐ傍で熾烈な戦いが繰り返される中、ヴィルは一向に目を覚まさない。今も体の断片は広大な空へと舞い散っている。


「ヴィルぅ......。」


少しずつ、弓人とヴィルの距離が縮まる。未だ落下する体、執着点は見えない。ヴィルに迫る怪物と弓人の戦いは続く。




////////////////////////////////////////




何本の矢を番えただろうか。ホルダーの無い腰に手を当て、矢を左手に持つ弓人。終わらない怪物の攻撃、それを見事全て防ぐ弓術の(みょう)


気が付けば嵐の過ぎ去った空、そこでの彼等の攻防は常に平行線だった。


しかし、もう終着駅に着いてしまう様だ。空の色が一気に変わり、山の様な輪郭の外から光が漏れる。それは常世に見る逢魔時の様で、


ズ…….ズ......ズ、ズ、ズズズ


その光景さへも彼等は上へと置いていき、世界は夜になった。


「ま、ずい。これは、言われなくても分かる、ぞ。“終わり”だ。終わりなんだ。」


星であろうか。弓人は瞬く光をその目に映しながら、その美しい光景とは裏腹に絶望を感じた。ヴィルのとの距離はあと少し、しかし、救う手立てが見つからない。


スゥ..................スゥ.........


すると、自らを顧みず、相棒の事だけを想う弓人に今度こそ奇跡が訪れたのか、否、それは奇跡とは言えないただの現象であり、同時に世界が弓人に与えた“ヒント”でもあった。


「体が透け、て................あれは!?そうか!!ここはそういう場所なんだな!!」


弓人は確かに見た。ヴィルと、そしてあの怪物の姿が透け、その中心に在るものを。


「...........綺麗だ。」


ヴィルの中にある“もの”、光輝くそのものに心奪われる弓人。隣にある暗くくすんだ、ただ図体が大きいだけの汚い“もの”には目もくれない。


そしてそれは、体の感覚と自らの表面を形作る存在が希薄になった瞬間に訪れた。


「..............ト......」



「...........ミ......ト......」



「...........ユミ......ト......」





「ヴィル?.........どこ、うわっ!?、近いな!!」

「ユミヒト!!」


目の前に(くれない)が映った。しかしそれは、弓人にとって“ある唯一”のものにしか見えなかった。


「ヴィル。いや、ヴィルメウス。やっと、やっと追いついた。」

「うむ、よくここまで来たな。褒めてつかわ「ていっ」痛っ!なにをするのだ!」

「ヴィル。」

「ふふふ、そうだな。ありがとう。我の................我なんかのために付いて「ていっ」痛っ!な、なにをするのだ!」

「ヴィル。」

「...............。」


深淵。正にそう表現するのが正しい空間に、二人の柔らかな微笑が咲く。自らも一つの球となった事に不安は感じず、ただ、相棒と共に在る事だけを喜ぶ弓人。


二人は二人。この空間に二人っきり。気付けば、あの薄汚い存在はどこにもいない。


このままこの世界で二人だけで過ごす。そういった終わりを迎える物語もあったかもしれない。


しかし、その綺麗で観た者に少しの寂しさをトッピングした感動を与える物語を、



真っ向から否定する者が。



「よし、帰るぞ。」

「―――このままこの世界でふた.............え?」


感動を誘う様な()めの台詞でも言っていたのだろう。全くもって可愛い生物である。


しかしそれを綺麗にぶっ壊した弓人は、球体(ゆえ)区別のつかない背中で語り出す。


「こんな所にずっといるより外の方がずっと楽しいだろ?ほら、行くぞ。」


然も簡単な事の様に言う。ここがどういった場所かさえも分かっていない“筈”であるのに。


「否、駄目だ。我はここか「ていっ」痛っ!動作が素早くなっておる!?」


最早様式美ともなったツッコミに辛気臭い雰囲気を霧散させられたヴィル。それを見て満足したのか弓人は優しい声で言う。


「安心しろ。俺をなんだと思っている。言っただろう?俺の中には“伝説”が詰まってるんだ。つまりは歩いてる“叙事詩”に等しい。そしてここはどう考えても“魂”に近しい世界だ。つまりは、」


言葉を切った弓人、そして片耳に手をあて、


「さぁ、お前たち、教えてくれ。」


自らが従える魂達に、


尊大な言葉で願った。




////////////////////////////////////////









「......そ............い...。」

「....出............って.....。」

「...........貴方..........り。」

「....偉大な.........さい........。」

「...おっと.......レディ.......行く....。」

「......空の上に..........しいぞ.....。」

「........前かね.............。」








「君だ。」

「“その”名前、気に入った。」

「君が“それ”に成るんだ。」

「その方も一緒だよ。」



「行きたまえ。」

「ここは息苦しい。はよせい。」

()け。」

「さぁ、行くんだ!」










////////////////////////////////////////




スゥゥゥゥゥゥゥ


「よし!」

「うわっ!?」


弓人球がいきなり動き出した事で、ほとんど“くっつく様に”隣にいたヴィル球が跳ねた。


コロコロ...........


「.............なにしてんの。」

「...................。」


跳ねた後、地面らしき平面を寂しく転がるヴィル球を見て弓人が言った。恥ずかしさからか、ヴィルは無言である。


「まぁ、いい。ほら、帰るぞ。」

「.............いや、だめだ。多分、耐えられないんだ。ここから出「知ってるぞ。」.......え?」


ヴィルが目を丸くした。実際には見えないが。


「知ってるぞ。その事は。」

「ああ、我はここから常世に上れば、その存在を保て「いや、そっちでは無く。」........ほぇ?」


キュンッ


ヴィルの声に今度は弓人球が跳ねた。ヴィルの様に転がるのでは無く。背中を見せて「別になんでもないし。」みたいな雰囲気を出して浮いている。


「あ、いや、それも、知ってる。ん、んんっ。魂の存在の方が“確実”なこの空間から離れれば離れる程、それを留める“肉体”がほとんど無いヴィルの魂は霧散していってしまう。ああ、知っているぞ。いや、“知った”。」

「そ、そうなのか。」

「ああ、そして、“お前を常世に連れて行く方法”も俺は知った。」

「..................っ!?」


ヴィルは十分遅れて、弓人の語る“奇跡”に反応した。その奇跡を然も“ただの方法”の様に言う弓人は、


「ヴィル。お前は、俺を心から、魂から信頼してこの繋がりを作った。そして俺はそれに魂から応えた。だから安心しろ。そして信頼しろ。お前をこんな退屈な場所から連れ出す手立ては、既に俺の手の中にある。」


遂にヴィルを、



「.....................うっ、うううぅぅぅぅ。」


泣かせた。




「...........え?」



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