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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第五十四話 「底が知れない」



溶岩の上に仰向けに寝る巨大な龍、その腹の頂上で弓人は言う。


「お前はここで、何と戦っていたんだ?」

「それは.......」


龍は瞼を閉じた。自らが歩んできた過去を思い出すかのように。


「あれは、いや“奴”に形など無かった。あの存在は触れるものを、近づくものから、その尽くを奪っていった。砕き、腐らせ、溶かし、燃やす。“奴”はあらゆる形とあらゆる“現象”でこの世に災厄をもたらしたのだ。」


その言葉に目を見開く弓人。未だ想像は出来ないが、その“奴”と呼ばれるものがどれだけ危険で厄介であるかは理解できた。


「それを、お前は、」

「ああ、この地に封印した。“我ら”の、唯一の勝利だ。」


溶岩の地獄にいるのが嘘の様な静けさが二人を包む。


「“我ら”か。」

「.............別に遠慮せずとも聞いてよいぞ。我と我の仲間たちは絶え間ない攻撃と魔法で奴をこの地へ追いやった。そして当時より、ここにあった火山の中に逃げ込んだのだ。」


そう言い、龍は何故か自嘲の笑みを浮かべる。


「初めはこれで終わりかと、これが最初で最後の勝利になると思った。しかし、奴はこの地で進化したのだ。」

「........。」

「否、元より奴にはそれが当たり前なんだろう。ここに逃げ込んだ奴は、この火山の魔力を吸収し始めたのだ。」


龍の叫びにも似た言葉を聞く弓人。しかしそれは嘲笑ってくれと言わんばかりの告解にも聞こえる。


「気付いた時にはもう遅かった。無防備だった奴は、取り込んだ生物の魂をも強制的に魔力に変え、罪なき彼等の命で自らの身を守ったのだ。」


龍の静かな叫びは止まらない。


「存在そのものを魔力に変えられた魂達、そしてその魔力の大きさは凄まじく、いくら我らであっても手の出しようがなかった。」

「それで“封印”をいう選択肢か。」


ようやくここで弓人との会話にもどる。


「そうだ。奴は火山の魔力を吸収し続けた。だからその魔力をこの火山全体に散らし、その一部も奴の封印に使っていたのだ。」

「吸収自体は止まってないのか?」

「強力な魔力の膜で守られている奴に攻撃は出来ない。しかし奴は周りの魔力を吸収する事が出来る。奴の力を抑え、その増大を止めるためには、奴に魔力を吸収されない程に抵抗力を持ち、この火山全体の魔力を制御できる者、つまり」


弓人の喉がゴクリと鳴った。


「我がこの地へ残る事しか、その(すべ)が無かったのだ。」




////////////////////////////////////////




龍の告解を聞いた弓人。そのとんでもない存在の話を聞いて“さらに”とんでもない事を言いだす。


「そいつ、倒そう。」

「.........な!?」


ググググ

「うわぁぁぁあああああ!」

ドッボォンッ


そのとんでもない事を聞いた龍は驚き、巨大な頭を振り回す様に弓人に向け、ようとしたのだが、その時の身動(みじろ)ぎで肝心の弓人を振り落してしまったのである。当然振り落された弓人は熱々の溶岩の中へ。


「あ゛っちぇぇぇええええ!」

「すっ、すまぬっ。」


完全に友人同士の会話である。


溶岩に飛び込む寸前に魔力をその身に纏った弓人は難を逃れ、またいそいそと龍の腹の頂上へ。そして龍には戯言にしか聞こえない、その理想を繰り返す。


「まぁ、なんだ。そいつを倒そうじゃないか。」

「む、無理だ。さっきも言ったが、我には仲間達がいたのだ。そして彼らも......我に.....力を、全て与えて、逝ってしまった。」


ジュゥ


溶岩に液体の落ちた音が聞こえた。弓人の位置からは龍の顔を見ることは出来ないが、その言葉に悲しみを含ませていた事だけは感じる事出来た。しかし、それでも弓人は止まる事は無い。それはある意味最強の根拠を携えたもので、


「その力を与えられたお前に真っ向から挑んで、傷一つ付いていない俺はなんだ?」

「...........。」


聞いた龍は沈黙せざるおえなかった。


「この俺がやるって言ってるんだ。それでも、無理か?」

「だが。」

「ちなみに俺はお前との戦いで本気は出していないぞ。」

「っ!?」


今度は驚愕に声が出なかった。様々な反応をする様になった龍に面白さを感じ始める弓人。


「それでも自信が無いか?」

「...........。」


これでも駄目かと弓人は溜息をつこうとした、その時、


「否、お前と共に戦えるのなら........。」


龍はその重い口を小さく開いた。ようやく説得が成ったと達成感を感じていた弓人であるが、同時に感じた違和感にも意識の大半を持っていかれていた。


(ん?こいつってこんな声だったか?もっとこう、威厳とか厳格がそのまま音に載った様な、そんな声をしてなかったか?)

「やろうではないか!お前と我で!」


その疑問を知る由も無い龍は高らかに宣言した。僅かではあるが、乙女に似た様な声を出しながら。


「そうだな。俺とお前で。」


疑問は消えないが、ここで龍の気持ちを削ぐ程空気の読めない弓人ではなかった。


「よし、決まったはいいがお前は何の魔法が、「ちょっと待て。」」


早速とばかりに作戦会議を始めた龍を遮る弓人。


「なんだ。どうしたのだ?」

「その前に、そろそろ良いだろう。俺の名前はユミヒトだ。」

「ユミヒト.........聞いたことの無い響きだ。」

「それで、お前の名は。」

「我は.........。」


黙り込んでしまった龍、それを訝しげに見る弓人。普通ならあり得ない構図が周囲の溶岩さえも静かにさせる。


20分後。流石に長過ぎると感じたのか、弓人が沈黙を破る。


「もしかして、思い出せないか。」

「..........そう、らしいな。」

「そうか。」


さしもの龍であっても、そのあまりにも永き時の流れにその記憶は薄れていったらしい。しかし、自らの名を忘れる程の環境という事は、


「名を使う機会が無かったのか........。」

「........そう、だ。」


この封印をそれほどの期間維持してきた事に他ならない。


龍は弓人を見て、それを告げた。そしてその時、弓人の全てを慈しむ様な眼差しに、


「うっ..........。」

「どうした?」


心のどこかを撃たれたように身じろいだ。それがどの様な感覚であったかは、この時点で知る由も無い。


「否、なんでもない。それよりもユ、ユミヒト。お前は何か魔法が使えるか?あの魔力を纏う意外に。」

「わからん。」

「!?、どういう事だ?」


至極真っ当な疑問である。


「まだ俺自身の事をよく分かっていなんだ。.....................いや、お前には話しておこう。」


弓人は龍に全てを語った。お互いをつなぐ確かな繋がりと、魂の奥底から感じる信用があった。


「なんと!そうか、ユミヒトはその異世界とやらから来たのか。」

「そうだ。」

「して、気が付いたら多くの魂を従えていたと?」

「感覚的にはな。」

「ん~。しかしそれではユミヒトの魂は凄まじい事になっておるな。」

「......ん?今なんて言った?」


さらっと重要な事言った龍を問い詰める弓人。


「ん?だから、ユミヒトの魂は凄まじい事になっておると。」

「どういう事だ?」


ここへきてフッと湧いて出た自分の情報に食いつかんばかりの弓人。


「文献や、ユミヒト自身の感覚が確かならば、その偉大なる魂を従えるユミヒトの魂もまた、強大でなければ説明がつかん。そうであろう?」

「そう、なのか。」


強くなければ人を引っ張っていけない。それは理解出来る弓人、しかしそれを魂に当てはめて考えても、前世でなかった概念に頭を悩ませるだけであった。


「まぁ、良い。これから我らは長い付き合いになると思う。否、絶対なる!だから、また次の機会に考えればよかろう。」

「そう、だな。(なんだこれ。)」


少しずつ砕けた言葉になっていく龍に、違和感を禁じ得ない弓人。


「まぁ、なんだ。俺の事もそうだが、お前は体がもう保たないって言ってたな。それでも大丈夫なのか?」

「うむ、ユミヒトなら、大丈夫だ。」

「あ、はい。」


何処からくる自信なのか甚だ疑問な弓人。しかしそれを聞いて思う事もあった。


「つまり、どちらにしても封印は解かれ、抑えていたといっても力を増した怪物が出てくる訳だ。」

「そうだな。」

「なら迷う事は無い。俺をお前でそいつを倒すぞ。方法は.......まぁ、無い訳ではない「本当か!?」」


ドッボォォオオンッ

「あ゛っちぇぇぇぇえええええ!!」

「ああ!?すまない!」


龍の突然の動きに、またもや溶岩に叩き落された弓人が叫ぶ。咄嗟に魔力を纏っても熱いものは熱いのだ。


スィ―――


今度ばかりは龍の腹に戻る事はせず。本来入口のあった地面の見える場所に泳いで行く。溶岩を泳いでいる事に疑問を抱いてはいけない。


ズシィィンッ、ズシィィンッ、ズシィィンッ


溶岩の海の底を踏み鳴らし、龍も弓人の方へ近づく。


「ふぅ、これでもう落ちないな。」

「すまないと言っておろうに。」


弓人の言葉に拗ねて見せる龍。少しだけ可愛いと思ってしまう弓人であった。


「まぁ良い。それよりもさっきも言ったが、あの化け物を倒す、いや、殺す手立てがない訳でもないんだ。」

「それを聞かせてくれ!」


期待に満ちた大きな双眸が弓人に迫る。


「(近い近い!)......それは.........出来るかなぁ.........。」


自信なさげに言う弓人。それに龍が疑問を持ったのも束の間、


―――...――――....―――、――.........―――


一定のリズムの中に澱みが含まれる感覚、それに龍は襲われた。


「うっ、なんだ、なんなのだ。.......す、吸われている!?」

「.......そう、だ。」


それを行っている弓人にも余裕は見えない。そう、今現在龍の魔力は弓人に吸われ続けているのである。


――――....――スゥ


「ふぅ。」

「終わった、のか?」


恐る恐る聞く龍。それもその筈、吸われた魔力の量が尋常なものではなかったからである。


「まぁ、こんな感じだ。」

「どんな感じなのだ。」

「俺の魂にでも聞いてくれ。」

「......成程。」


その一言だけで察しがついたのか、追求はしない龍。一瞬だけだが、こんな妻も良いなと思ってしまった弓人であった。


「つまりこれで奴の魔力を吸収するという訳だな。」

「そうなんだが、それだけともいかない。俺だって疲れるんだ。魔力を回復しているのに不思議な話だが。まぁ、他にも使えそうな力はあるようだし、少し訓練してから挑もう。」

「うむ、それが良い。」

「取り敢えず、今の分の魔力は返すよ。」

「そんな事も出来るのか。」


底が知れない弓人に関心する龍。


「お前との戦いで、また一段と魂達の存在を感じる事が出来た。これからもっとやれる事は増えると思う。」

「それは楽しみだ!」


まるで自分の事の様に期待する龍。この可愛い生物に弓人が陥落する日も近いのかもしれない。



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