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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第五十三話 「地獄、しかし」

煮え(たぎ)る溶岩が地面を満たし、その死の熱気が空間を支配する。


そして、その死をものともせず、その地獄の門の先に鎮座する大きな存在が、


姿を現した。その存在は大きな口を微かに開き、大きな爆音を以って呟く。


「おお、何と、そこにいるのは矮小(わいしょう)な人間ではないか。」


黄金の輝きを携えた大きな双眸がその視線で弓人を射貫く。この世界に来て一月、遂に覚悟を決めるべき相手に出会った。その相手とは.........


(っ、ドラゴンっ。いや、“龍”か。なるほど、この迷宮の主はこいつか。)


そう、目の前に在る者、それは地面から頭まで100メートルは優に越す、巨大な龍であった。全身を強固な紅い鱗で覆い尽くし、背には大きな一対の翼を携え、そしてその口は何本ものギラつく牙を備えていた。


その、絶望が顕現した様な姿を見て、弓人は思う。


(これは、まずいな。逃げる以外に生き残る風景が想像出来ん。ここは、)


ドンッ


突然背後で大きな音がした。この地獄の空間に響いたそれは、扉が閉まる音としてはいささか不自然で、


(!?、扉が無い!どういう事だ!)


弓人は背後を見て愕然とした。黒く輝やき、大きくそびえ立つ様に口を開いていた扉は姿を消し、そこは熱波を出し続ける赤い岩肌となっていた。そして、この不可解な現象とは別に、既に弓人自身にも起こっていた異変に気付く。


(っ!?、というか何時この部屋に入った?扉を開けてから俺は一歩も進んでいないぞ!)


たった今、弓人は退路を断たれた事に危機感を抱いていたが、それ以前に、自分が何故“こんな場所”にいるのかと疑問に思った。


(おいおい、何時だ?え?どうなってんだ?)


そう、初め弓人は扉の外(・・・)から龍を見ていた。しかし、その足は独りでに門の中へと進んで行き、地獄の釜の目の前まで来ていたのである。


珍しくパニック寸前の状態である弓人を見やり、大きな龍は問う。


「貴様は何故ここまで来た。否、一体どうやって来たのだ。」


龍の声が死の空間を満たす。流石の弓人も余裕が無くなり大人しく質問に答える。


「俺はここに素材集めに来た。」


正直に。


「素材?それはお前が殺してきた“生きる者達”の事か。」

「っ、そうだ。」


その龍は疑問ではなく、確認するように弓人に言った。それは怨みではなく、僅かな憐みが籠ったもので、


「貴様も.....“人間”か。........それは(むな)しき事よ。」

「............。」


しかしその声は、決して“強者”のものではなかった。それを疑問に思った弓人はその声の主に尋ねようとして、


「お前「ならば、お前も“人間”として、この立ちはだかる我に.........」なっ!?」


龍は胸を大きく膨らませたかと思うと、


「殺されるがよい!!」


ゴゴォォォォォオオオオオオオオ


弓人に向かって火炎と言うのも生易しい、巨大な熱線を放ってきた。


キィィィィイイイイイイイイインンンン


熱線の当たった岩肌が悲鳴を上げ、その形を大きく崩す。周りに炎が渦巻き、地獄に地獄を上塗りした様な時間がこの空間を支配する。








シュゥゥゥ


熱線と砕かれた岩石の粉じんが晴れた時、



そこに弓人は、



いなかった。



////////////////////////////////////////



「さらばだ、人間。......安心せよ。この山脈も、森も、街も、人も、すぐに終わりを迎える。そして我も、そちらへ逝こう。」


上塗りされた地獄から、元の地獄へとその姿を戻した空間、そこで巨大な龍は、悲しみと安堵と、慈愛の満ちた声で囁いた。それは本来ここにはおらず、たった今自らの炎であの世へ送った者へ宛てたものであったのだが.............


「それは困るな。この辺じゃまだやりたい事が山ほどあんだよ。」

「なっ!?」


その囁きの送り先はあの世ではなかった。まるで“初めからそこにいたかの様に”目の前に姿を現したのは、矮小で小さき者、人間を自称する男、


(あっち)ぇ。」


弓人、その人であった。そして弓人は自分を亡き者にしようとした龍へ悪態をつく。


「ったく、勝手に死んだ事にしやがって。しかも、もう誰もいないかと思って哀愁漂わせながら、なんかよく分かんねぇ事囁きやがったな。」

「..........。」


弓人の容赦のない攻撃に言葉を無くす龍。それは決して人間的な羞恥心からくるものでは無かった。そして弓人はさらに龍の心の奥底を突く。


「成程、分かって来たぞ。お前、ここの守り神だな。」


弓人の言葉に眉間に力の入る龍。それでも弓人の言葉は止まらない。


「本当は人間を守ってきた。長い間、人々が忘れるほどの年月を、同じく人々が忘れてしまった“災厄”から。」


怒りなのか、口角が下がり、胸を膨らせ始めた龍。


「しかしお前は疲れてしまった。そうだろう?だからもう“終わり”なんだ。」


しかし弓人は続けた。少しの悲しみを携えながら。


「でもお前は「黙れぇぇぇえええええっ!!!!」」


ゴゴォォォォォオオオオオオオオ


その言葉と共に吐き出される熱線。しかし弓人はそれを避けようともせず、


ジィィィイイイッ、ジィッ、ジィィイイッ


魔力を纏って、その地獄の向こうの龍を睨む。


「お前は強い、その身も、その心も、」


ズシリ、ズシリと地獄を押し戻し、その双眸で睨み続ける。


「強すぎて、“同じ場所”に誰もいなかった。」


シュゥゥゥ


遂に龍の熱線が止まり、両者の間に完全な視線が通る。しかし、その直後、


バァァァアアアアンッ


その巨体からは全く想像出来ない速度で、竜の尻尾が弓人に迫る。それは空気を叩く音がする程強烈なものであったが、


ガァァアアンッ


「っ!?」


声にならない呻きを上げる龍。それもそのはず、自らがくり出した尻尾は“弓人の右腕一本”で完全に動きを止められていたのだから。


「おお、これは肩にくるな。やはり強い。そして、人間を“人間”としか称せない程、お前はここで守ってたんだ。その心も、やはり強い。」


「ガァァアアアアッ」


キィンッ


龍の口から放たれた火球が弓人の左手で弾かれる。その弾かれた火球は何故か威力を徐々に失っていく。


「強くて、悲しい。俺が人の形を保っていた事に、幸運を感じなくて「ガァァアアアアッ」.......感じなくてはいけないな。」


この地獄を背景に、弓人は語り、竜は躍る。永きに渡り命を守り続けた龍は、今度はその

力で弓人の命を奪わんとする。しかしそれは、その小さく、矮小な存在の力に悉く阻まれ続けた。


「なぜ!?なぜだ!?お前は、」


ドンッ


一つの音が龍の喚きを遮る。それは弓人の足元から発せられた音であった。


「“お前は一体何者なんだ”、なんて言うなよ。せっかくお前は今まで聞いたことの無いタイプの強者なんだ。そこはもっとオリジナリティを持ってもらわんと。」


自分勝手言い分を散々と吐く弓人は、自分の付けた足跡を見る。とても小さい、矮小な足跡である。


「俺は小さい。お前は大きい。でも、俺は強い。お前も強い。俺の物差しじゃぁ絶対に測れないが、





やっと会えたな。お前の“同類”に。」


弓人は最後に諭すよう声で語りかける。しかし龍は、


「貴様っ、貴様っ、貴様ぁぁああ!!!」


バァァァアアアアンッ

バァァァアアアアンッ

「ガァァアアアアッ」

ガァァアアンッ


乱れる様に攻撃を仕掛けてきた。それは怨みや妬みからのものではなく、何故が不思議と楽しそうなリズムを刻んで、


「貴様っ、貴様っ、貴様っ、貴様っ、貴様っ、貴様っ、貴様っ」

「ああ。」


キィンッ


弓人もそれに応える様に攻撃を弾き返す。衝撃で壁が剥がれ、熱で溶け、彼等の力で溶岩の海さえ踊り出す。


「もっと、もっと、“遊ぼう”!!今まで守ってきた、命の分だけ。それを俺に解らせる様に!!」


「ガァアアアッ、ガァアッ、ガァアアアアアアッ」


最早会話ではない。ただ、そこには“意思”が飛び交っていた。


お互いの魂を打ち鳴らし、共鳴し、確かめ合う。


彼等は、その時間の(ことごと)くを楽しんだ。



////////////////////////////////////////




「.......こ........は。」

「はっはっはっは。」

「私.............ますと。」

「誰?」

「こ......世........りさ。」

「吾輩はや...........。」

「..........君だ。」

「興味.........。」








「何故。こんなにも待たせたのだ。」

「待たせたつもりは無い。知らなかったのだから。」

「貴様は本当に........はぁ、なんという奴なのだ。」

「それに関しても俺に言わないで欲しい。俺が聞きたい事の最上位にあるからな、その疑問は。」

「我の“八千年”をどうしてくれる?責任は取ってもらえるのだろうな。」

「責任?なんのことだ。情愛を交わした覚えは無いぞ。」

「ふふん、解っておるくせに。もう絶対に離れんからな。」




「ああ、いいぞ。いつでも大歓迎だ。」








////////////////////////////////////////



あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。弓人と巨大な龍は“高温の溶岩の上に”仰向けになって浮いていた。当然弓人は魔力で体を包んだ状態で。


「そろそろ、教えてくれても良いんだろ?」

「何をだ?」

「おい、ふざけてる訳じゃねぇぞ。」

「ふふん、こういった事をしてみたかったのだ。許せ。」


まるで『ケンカした後ボロボロの状態で友情が芽生えた男子高校生』である。


「でもなんだな。お前を街中へ連れて行く事は出来ん。」


本題を忘れて、弓人が軽口をたたく。しかし、それに答える龍に“喜”の感情は無く、


「否、結局のところ、もう体は保たないんだ。」


そんな悲しい事を口にした。


「もしかして.........俺と戦ったからか?」


弓人にしては珍しい、後悔と悲痛を抱えて尋ねた。


「そうではない。八千年だぞ、八千年。魂は保っても体が保たない様だ。」

「そう、か。」

「でも安心しろ。貴様との死闘、あれで“繋がり”は出来た。どうなるかは判らぬが、ただ消える事はないだろう。」

「ふぅ、良かった。あとな、その繋がりは俺の知ってる言葉で“(きずな)”って言うんだ。(あ、なんかちょっと.........恥ずか...)」

「ほう、良い響きだ。“この大陸には無いな。”」

(あ、良かった。)


二つの意味でホッと胸を撫で下ろす弓人。安心しきった頭と体で、おずおずと龍の腹を登り始める。そして、


「して、本題に戻るが、」


腹の頂きに着き、


「お前はここで、“何と戦っていたんだ?”」


龍を問い詰めた。



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