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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第五十話 「迷宮都市」



「お前みたいのがいるから低層なんかで死人が出たんだっ!!」

「てめぇこそ!あそこで欲張ってなきゃ魔物のトラップに引っかかる事も無かったがなっ!!」

「おい、お前ら。」

「お前こそ!低層だからって気負抜いてなければ最初の攻撃を防げたんだっ!!」

「ああっ!?俺のせいだってか!?」


遠くの方でこんな言い争いが聞こえる。帝都から450 km、草原と穀倉地帯、そして川を越えてやって来たこの場所。弓人は迷宮都市<ジャルド>を目と鼻の先に捉えていた。


(パーティーで潜って、何かあったな。低層か、やはり浅い層でも死人が出易くなってんのか。)


先程の言い争いは迷宮都市の中から聞こえたものである。迷宮で仲間が命を落としてしまった事への悲しみ、怒り、それらをどこかへ逃がすために、責任の所在という、死人にしてみれば既に意味の無い言い争いをしているのだろう。


早くもそんな現状を目の当たりにした弓人。正確には聞いただけだが、それでも迷宮の低層で死人が出る事は確認できた。


(ここなら“一般の強い”冒険者を間近で見られるし、迷宮の中でも戦い方を盗み見れるな。)


弓人は遂に自分の思っていた環境に身を置ける事に期待で胸を膨らませる。帝都では都市内で活動する、高位だがいつもは仕事をしない冒険者や、能力も実績も駆け出しの街中の依頼しかこなす事の出来ない低位の冒険者しか、周りにいなかったのである。


それから弓人がこれからの展望を妄想している内に都市の入り口へと到着した。この門は帝都の正門と同じ様に、中心に大きな門、その両隣に小さな門が備え付けられている。小さな門は帝都と違い、2つずつであったが。今はその小さな門の一つだけが開いており、そこには10人程と馬車2台が並んでいた。


弓人はその列に並び、自分の番を待った。そして、


「何か証明は?..................(これは、やけに低いランクだな。)....ほら、通っていいぞ。....」


組合証を提出し、門番の前を抜ける弓人。当然、門番の小さな呟きは耳が完全に拾っていた。


(まぁ、ランクが低いと迷宮には入れないからな。多分、低ランカーとしてパーティーについて行くか、小間使いとして見られたんだろう。)


そう考えはしたが、特に気にはならなかった弓人は、意気揚々と都市に入った。そこには帝都には劣るが都市の名に恥じない大通りが広がっていたが、


(なんか、思っていたより閑散としてるな。もっと“喧騒”って感じだと思っていたんだが。)


確かに、建物自体は多いが、それに比べて通りを歩く人の数が少ないように感じる。それが話に聞く迷宮の異変の前後で変わったものかは、弓人には判らなかったが。


(店にでも寄って、話でも聞いてみるか。)


取り敢えず、目に着いた店に入る弓人。その店の看板には、こちらの世界でレストランと書かれていて、


チャリンッ...ンッ...


「一昨日来やがれぇっ!!」


ドドンッッ

シュァンッ


(すわっ!? 戦士風のでかい男が飛んできたぞ!?、ん?前にもなかったか?)


それを弓人はすかさず右に避けて左わき腹でキャッチ。体を回転させながら速度を殺し、男の体の正面を向こう側にして半分寝かせて膝立ちになり首を絞める!!


(いや、だからなんでだよ!!)


男を絞め上げてから、ようやく自らの行動の結果を認識する弓人。そんな弓人に、


「あの........君?」

「は、はい?」

「放して........あげたら?」


気が付けば“やはり”男は泡を吹き、気絶していた。


完全にバラルの宿屋と同じ結果である。




////////////////////////////////////////




「いや、君、この度は失礼した。」


そんな軽い感じで謝罪するのはこの店の主人らしき人物。あの後、弓人はカウンターへと案内された。


「僕の名前は<リグ>この宿を切盛りしてる。」


(あれ?レストランでは?........ん?ちょっと待て、バーのマスターっぽい恰好といい、顔といい、似過ぎている!“バラル”に似過ぎている!絶対兄弟だろ!いや、双子の可能性もあるな!)


「ん?僕の顔に何かついているかね?」

(まぁ、話し方は少し違ったか。しかも、こちらの心読んでは........こないみたいだな。)

「いや、あんたに似た人に帝都でお世話になっている。」

「もしかしてバラル?」

「ああ、彼の宿屋に宿泊している。」

「そっか、あいつは元気?」

「怖い位、元気だ。」

「???」


やはり目の前の人物<リグ>はバラルを知っているらしい。それどころか弓人には彼らが極めて近い間柄にしか考えられなかったが。


「二人は兄弟か?」

「ああ、双子の兄弟だよ。」

「そっくりな訳だ。」

「そうだね。昔は兄弟の見分けが付かない事で有名だったから。」


昔を思い出すような目をするリグ、しかしその目線は少しづつ店の入り口の方に移動していき、


「それよりも、あの縄を解いてあげたらどうだい?」

「え?」


弓人が先程絞め落とした男の腕は後ろ側にまわされ、手首は縄できつく縛られていた。


「...............今、解くよ。」


縄をさっさと解いた弓人はカウンターへ戻る。


「とりあえず食事をしたいのだが。」

「夕食は3100カッシュだね。」


(意外に高いな。何が出るかはお楽しみか。あ、今回は人間大砲ぶっ放したお詫びの割引とかは............無いのか。)


3100カッシュをそのまま払う。払った後、一応と思って弓人は聞いてみた。


「なぁ、さっきは何で男が射出されてきたんだ?」


「ああ、僕の料理に文句を言ってきたんだ。たまにいる。そうやって飯代を返せって言ってくる奴が。」


(こっちもそういうタイプか。流石双子だな。.........いや、少し状況は違うか。)


「食事を出すから少しまってくれ。」


そう言ってリグは厨房の方に入って行く。リグを見送った弓人はカウンターから店の中をぐるりと見渡す。


(5人か。4人掛けのテーブルが12台。広い店内なのに、やはり客が少ないな。)


今は夕食時、迷宮からこの門までの入客の分布は知らないが、それでもこの大きさの店を構えられるのなら、今までは多くの客で賑わっていたのだろうと考える弓人。迷宮の異変はこの都市全体に影響しているのだろうか。


(迷宮のための都市なんだから“迷宮都市”、当たり前か。ゲームみたいにやり直しが()くなら、危険でも強い魔物が多く出て実入りの多いところに行くが、ここ(現実)ではそうはいかないからな。異変があるって分かったら、余程困窮しているか、そういったスリルを求める奴等しか潜らないんだろうな。)


これから自分が潜る迷宮である事を忘れ、他人事の様に考える弓人。


20分後。


「お待たせ。どうぞ。」


厨房からリグが戻ってきて、弓人の前に料理を出す。今晩のメニューは白いパン2個と野菜の盛り合わせ、そしてカレー色をするシチューの様な料理、その横にビールである。少々組み合わせに戸惑った弓人は初めにシチューの様な料理にスプーンを入れる。掬い上げると小さめに切られた肉が。それをそのまま口の中に入れる。すると、


(!?とろけた!)


両方の目をカッと開き、驚きと、そして美味しさを主張する弓人。バラルと違い、サイコメトラーの素質が無いリグでも、当然弓人の言わんとしている事が分かったらしく、


「どう?美味しいでしょ。」

「ああ、美味い。」


弓人の表情に満足した様にほほ笑むリグ。この兄弟、やはり料理の腕は天賦の才を持っているらしい。


弓人は無言で、しかし表情豊かに料理を食べ進めた。




////////////////////////////////////////




「御馳走様。」

「御馳走様。」


初対面ながら、お約束としか思えない挨拶を交わす二人。リグが厨房へ食器を置きに行き、帰って来たところで話し始める。


「最近、迷宮に異変が起きているのは本当か?」

「そう、そのとおり。僕は潜った事は無いけど、ここに来る冒険者もそう言ってる。顔を知ってる奴等もどんどん来なくなっているし。」

「そうか。」


その来なくなった冒険者の中には、当然迷宮で命を落とした者も含まれているのだろう。ただの事実だが、聞いてしまった弓人は何とも言えない顔になる。


「まぁ、彼らもそれを承知でこの仕事をしてるんだ。運が悪かったとしか言えないよ。」

「.......そう、だな。................そうだ、聞きたいんだが、今、迷宮で何が起こってると思う?」


かつて迷宮に潜る冒険者が集っていたレストラン。その店主なら何か知っているだろうと考えた故の質問であった。そして今回はその期待に“応え”ある様で、


「分からない、ただ、ここに来ていた魔法使いが“迷宮内の魔力濃度が極端に下がっている”とは言っていた。そいつは、他の魔法使いが“魔力を感知出来る者でもそれに気付かない”って嘆いていたよ。僕には分からない事だけど。あとは、魔物はやはり強くなっているし、危険な場所が多くなっているって。後はもう........いや、」


何かを思い出したのか、一拍置くリグ。そして、


「この都市の教会が閉鎖さらたらしい。明確な理由は不明だけど、数ヶ月前から人員が少なくなっていたそうだ。外から見て分かるなら相当なんだろう。」

「そんな事が。」


(やっぱり守り神とかが居たのか?リーザだって魂に影響する魔法を使うんだから、そういった神聖な者の何かを感じ取る事は出来るだろう。これは、意外に不味くないか?)


美味しい料理の後に、ここへきて口に不味い苦みを感じてしまう弓人。魔法や、魂の存在が当たり前の世界で、守り神の怒りなど(たま)ったものではない。しかし、


「話は変わるが、浅い層までいって帰ってきている者はいるんだよな?」

「低層かい?いるよ。ただ、やはり難しくなったって。」

(それなら、別に潜るだけならいいな。)


少しだけ安心した弓人。あのドリーを震えあがらせたのである。それを思い出した彼は、精確には判らないが、自分が一般の冒険者に比べれば圧倒的に強いという事を理解する。


「わかった、ありがとう。」

「ああ、また来てくれ。」


まるで弓人は迷宮に潜る事を知っているかの様な、別れの挨拶を贈るリグ。流石に聞くだけでバレてはいないだろうと考えた弓人はそのまま店を後にした。


今は逢魔時。太陽が西へ沈み、建物や人の影を地面に伸ばす。


(準備は整ってる。後はこの通りに店を覗きながら、迷宮まで、行くか。)


異変の根源、この都市の根幹、象徴である迷宮は、


目の前である。



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