第四十七話 「防具は違った」
(戻ったか?)
先程の剣職人から無事|(?)に短剣を購入した弓人。ちなみにあの後名前を聞いて「はっ!?」となった彼は名を<ソルト>と言うらしい。ソードと若干惜しいと、弓人は思ってはいない。絶対ない。
(しかし、あの目から放たれる熱視線はやばかった。体質改善しなければ。)
それが健康に関する事ではないと知っていながらも、男の職人から好かれる体質を疑わざる負えない弓人であった。
そんな弓人は今、同じ店内の防具のエリアに来ている。武器は小さい体でこれ以上“装備”は出来ないが、防具は必要である。仮に戦車の装甲よりも強固な皮膚をしていても、である。
(ここから探すのか?数多いが、俺に合う防具はあるのだろうか?)
弓人の目の前には兵舎の武具置場といっても遜色ない程の防具が並んでいた。他のエリアは御洒落に、まるで宝飾品を並べる様に武具を陳列していたが。ここはただでさえ広いスペースに棚に差し込む形で防具が並んでいた。
(一個一個取り出すか?流石に着心地まで音では判断出来ないぞ。.................出来ないよな?)
などと考える弓人。実際に地面を軽く蹴った音の反響を聞いたが、しっくりくるものは無かった。よって仕方なく防具を取る事にしたのだが、
スッ ←|(防具を抜き取る音)
(あれ?)
スッ←|(やはり防具を抜き取る音)
今弓人が棚から抜き出したのは金属製の防具である。形状はそれなりに複雑で、当然ぶつかった際の音が出る筈なのだが、
(ここへ来て、新たなスキルが判明か。毎回驚いていたら埒が明かないな。もうこれは俺のスキルだ。考えない様にしよう。)
自分の体について、“仕方がない”と割り切った弓人、そんな彼の下に一つの影が、
コンッ、コンッ、コンッ、コンッ、
今までの店員よりも明らかに重い足音が響く。それも弓人の方へ近づいている様である。新たな店員の登場に少し身構える。そして遂にその者は目の前に姿を現し、
「オレの防具を見てるってぇのはお前か?」
「っ!?、ああ、そうだが。」
火を使うからだろう分厚いズボンと、胸の辺りが大きく押し上げられた分厚いエプロン。目の前に現れたのは、筋肉は付いていてもその外見からすぐに判る様な、
スポーツ系巨乳美女だった。
(わぁあい。)
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「こんななりで冒険者とは、頭が下がるねぇ。しかも、ここでいくつも買い物が出来る位稼いでるんだろう?すげぇな!おっと、そんな冒険者様には名前を覚えて貰わねぇと、オレは<マータ>っていうんだ。一応防具を作ってる。宜しくな!」
「冒険者<ユミヒト>、こちらこそ宜しく。」
ガシッ
ブンッ、ブンッ
弓人が伸びて来た手に対して反射的にこちらも手を伸ばすと、一般人なら引き抜かれる程に激しい握手を交わした。否、交わされた。
この<マータ>という女性は鍛冶職人と同じ様な恰好をしているが、エプロンの下はタンクトップの様なものを着用しており、謎の色気を出していた。
(俺はグッとくるけどな!)
弓人が邪念と囚われている事も知らず、防具職人マータは楽しそうに話す。
「いや~、それにしても一体全体何して稼いでんだ?ポードルやソルトから武具を買うとなると金の問題だけじゃないんだけどな。」
「まぁ、ぼちぼちやってる。」
「ふ~ん。まぁいいや。取り敢えず防具を選びたいんだろ?コイツ等を作ったオレが選んでやる。」
「......そうだな。それが良いだろう。」
「よし!ちょっと待ってな。」
そう言って陳列棚を漁るマータ。弓人はそれを黙って見ている。特にどの部位に注目している訳ではない。マータの体の動きにほんの僅か遅れて揺れる何かではない。性別で付いている者と付いていない者がいる何かではない。子供が生まれた後、その生育に必要になる何かではない。街中を歩く時は極少数の者を除けば皆が衣服で隠している何かである。あ、ない。
「............ト。.........ミ....ト。.........ユミヒト!」
「おうわっ!」
目の前で聞こえた女性の声に我に返る弓人。その女性とは当然マータであるのだが、
「どうしたんだ一体。立ったまま動かなくなって、反応も無いから驚いたぞ。」
「すまない。」
マータの一部分に注目いていたとは口が裂けても言えない弓人。しかし、
「(見たいなら、見たいって言えばいいのにな。凄腕の冒険者みたいで、それ以前にこいつすっげえ好みだし。)」
マータが何かを呟く様に言う。しかし、
「ん?何か言ったか?ああ、いや、悪かったの俺だ。心配をかけた。」
そう言って頭を下げる弓人。修道女リーザの時もそうだが、自分は絶対に鈍感系主人公とは無縁の存在だと疑っていない為、今回の呟きも何故聞こえなかったのかと不思議に思っていた。それだけだった。
「ん、んん。そ・れ・よ・り・も、ほら、お前に合った防具だ。着てみろ。」
マータが弓人に防具を放る。こちらに見えないように顔を背けながら投げてきた事に若干の疑問を覚えつつも大人しくそれ受け取る弓人。今装着している革製と思われる防具を外し、新しいものを着ける。その防具は暗い色の金属で胸部と背中上部、そして太腿の脇を守り、腹部と脇腹を柔軟性のある素材で覆ったものであった。しかし全体としては他の甲冑などの防具より断然薄く、小さな弓人の体をコンパクトに守っていた。
「似合ってるじゃん。」
「そうだな。いくらだ。」
「え、........こう、なんかないのか?『いい防具だ』とか『この作品は素晴らしい』とか。」
「ああ、『いい防具だ』。」
「完全に言わされてるだろ!オレの事おちょくってんのか?」
「全然。」
結果、マータを完全におちょくっている弓人。
「テンメェ。」
「冗談だ。すまない。採寸もしていないのに、よくこんなぴったりのものを選べたな。そしてすごく着心地が良い。」
「お!?、そ、そうか?それは、良かった。」
今回は“自覚あり”の行動であったため取り返しがついたらしい。しかしマータが顔を赤くしたため怒っているのか、と思い身構える弓人でもあったが。
「それで、本当の所いくらだ?」
「あ?ああ、2,000,000カッシュだ。」
「以外に......」
「安いか?まぁ小さいサイズだしな。元々貴族様の子供用だ。」
「そうか。」
「お前は違うみたいだけどな。」
「どうして判る?」
「気品さもあるし、傍若無人で、筋がぴっと通ってる。たしかに本当のいいとこの坊ちゃんかとも思ったが、何より、」
そこで話を切られた弓人。つまり、
(おいおい、これは始めの露店か、ドリーのパターンじゃねぇか!)
一旦は弛緩した筋肉を再度緊張させる弓人。今回は本気だ。
しかし突然、マータの鋭い雰囲気は霧と消え、
「まぁ、なんだ、勘だな。勘。」
「え。」
「貴族様にしておくにはもったいねぇ荒々しい魂「っ!?」を持ってる雰囲気があったしな。...........どうした?」
いきなり“魂”の単語が出た事に驚いてしまった弓人。最近感情の発露が激しくなっている事は自覚している。
「いや、そうか、俺の魂か。」
「ああ、良いのを持ってると思うぜ。」
「ありがとう。」
「っ!?」
弓人が感謝を述べてから止まってしまった会話。犯人弓人は仕方なく財布代わりの巾着袋を出し、
「代金だ、受け取ってくれ。」
「ああ。」
普通会計はカウンターで行うものである。しかし、理由は全くの不明であるが上気していたマータはそのまま受け取った。
「あと、その古いの処分でもしておいてくれ。」
「っ!?わ、わかった。オ、オレが処分しておく。」
殊更自分が処分する事を強調するマータ。
「?、まぁ、それでは。」
「また、来てくれ。」
「ああ、また見に来る。」
マータの誘いを“防具をまた買いに来て欲しい”と解釈した弓人は『当然』と店を後にする。
店内に残ったのは女性にしては筋肉質な肉体を持つ、その大きな体に似合わない膨れっ面をしたマータだけであった。




