第三十六話 「弓(?)」
修道女リーザ、支部長ドリー、そして歴史書から魂の在り方を知ってから8日後の朝、弓人の体は武具屋にあった。今日は待ちに待った新しい弓との対面の日である。
カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ
弓人にしては珍しく人に聞こえる足音を出しながら店内を歩く。弓人は何か予感がしたのか迷わず弓がおいてあるエリアへ向かう。すると、
「おお、早い到着なのですな。いらっしゃいなのですな。」
厚めのエプロンとおしゃれなモノクルを付けた弓職人ポードルの姿があった。どうやって弓人が来る前から待機していたのか不明だが、今の彼にとってそんな事は些細な問題であった。
「弓はどこにある?」
「ここなのですな。今出すので少しまって欲しいのですな。」
そう言ってポードルは弓の陳列棚に置いておいたのであろう一つのケースを取り出した。それは細長いスーツケースのようになっていて、弓を入れておくには贅沢に感じるものであった。
カチッ、カチッ、カチャッ、スゥ.........
左右と中央のロックを外して現れたそれは武器を呼ぶには失礼な、正に“芸術”であった。特に豪華な装飾が施してあるわけでは無い。しかしその黒く光る“成り”は見る者全ての心を焚き付け、弦は弾くことを躊躇う程の荘厳さを放っていた。
これを初めて見た弓人を思わす口を開く。
「これが、弓、なのか?」
「はい、なのですな。成長してからも使えるように大きめにしてあるのですな。貴方はとても力を御強く、また魔力もお持ちのようでしたのでしたのですな。」
「え?」
弓人はこの芸術品の心奪われポードルの言を聞き逃してしまった。しかしポードルは気分を悪くすることなく弓人に言う。
「貴方は魔力が多い気がしますのでしたな。しかそれをご自分の体の強化に使っていないようにも感じたのですな。」
「魔力を、感知できるのか?」
「出来ないのですな。」
カクン
こちらに来てまでこの有名な脱力をやることになった弓人。
「私共は職人ではありますが、客商売もやらせて頂いておりますな。近頃流行りの大量生産ならいざ知らず、こういった一品物はお客様一人ひとりの存在が重要なのですな。そこで私は貴方の“存在”を、恐れながら見させて頂いたのですな。」
「それは“職人の勘”と経験が入っていると考えていいのか?」
「有り体に言えばそうなりますな。」
この店で初めての注文品を受け取りに来た弓人であったが、この瞬間、これからもこの店で武具を注文することを固く心に誓ったのであった。
「おっと、これは失礼なのですな。この弓の説明をさせて頂くのですな。」
そう言ってポードルは白い手袋をはめ、ケースから弓を出す。ゆっくりとした動作の筈であるのに、弦が空気を切り裂く音がする。そしてそれは、とても鋭く、優雅な音であった。
「この弓の弦はヒト種には引けない重さになっていますですな。宮廷魔道士級の魔力と近接戦闘の得意な者の身体強化魔法が必要なのですな。尤も、それでも2、3回矢を番えれば上出来なのですな。」
「それは、その、今までそんな弓は.........」
「当然、作ったことは無かったのでありますな。」
「...............。」
この時弓人は無言を貫いたが、その実、とてつもなく興奮していた。“誰も辿りつかなかった恐ろしい強さの武器”というだけで彼の日本語的テンションはMAXである。
「でも安心して欲しいでありますですな。貴方なら使いこなすことができるのは私の“職人”が囁いて下りますのですな。これは貴方にこそ相応しいのですな。」
言い終わったポードルは弓を弓人に渡す。ここで初めてこの一品に指紋が付いた。彼はしばし弓を眺める。持ち手の握以外は少し角張った形状をしていて、あらゆる方向に黒い光を放っている。
「どうですかな。ああ、そうで御座いますな。今魔力を流すことは出来ますかな?」
「多少なら。」
「それでは少しずつ流して欲しいのですな。」
弓人はバラルの宿屋で練習した様に魔力を体の奥底から引きずり出す。言われずとも手のひらにそれを集中させ、弓に流す様にイメージする。すると。
(ギ... ギ..... ギ........ ギ...........)
本当に音がした訳では無い。ただそう表現するのが相応しい様に、弓幹と弦が硬くなっていった。
「なんなんだ、これは。」
「はい、材料は“まだ”申し上げられませんですが、魔力を消費して引きが重くなるようにしてありますな。大人が持つには若干小さい弓もこれならいつまでも使えますですな。」
そう、話すポードル、しかし弓人の視線はその弓を射貫かんばかりに刺していた。そして、
グ.. グ..... グ......... グ......... グ.........
矢は番えず、弦だけを引く弓人。そこであることに気付く、
「これは.........元々、俺が貰った弓よりも強いぞ」
「そうで御座いますな。あれでは全くの役不足と思いましたですな。しかしこれをもそう簡単に引かれますと然しもの私でも少し自信を無くしますですな。」
「それは、すまない。」
「加えて全く魔力を消費していないような顔をしていますのですな。これはこの店のオーナーにも話せないことになりますな。」
「.........すまない。」
「いえいえ、未だ残る自分の未熟さに気付くことが出来て幸運なのですな。........ああ、こんなにも時間を取ってしまったのですな。申し訳ありませんですな。」
規格外品「弓人」が凄腕弓職人ポードルを散々呆れさせたところで今回は御開きとなる様である。ポードルが差し出した手に弓を預け、共にカウンターへ。
「お支払は済んでおりますですな。後は受け取り書に署名と、」
そこでカウンターの裏から3つの箱を取り出す。
「こちらは矢ですな。一つに40本ずつ入っておりますな。こちらを差し上げますな。とても頑丈なため繰り返し使えますかな。いえ、回収しなくとも、いつでもここにいらっしゃって頂かれれば購入できますな。」
「ああ、ありがとう。」
「大きいですので持っていかないようでありましたら向こうの共有ラウンジのロッカーに入れておきましょうな。鍵を持って来ますので少しお待ち頂ければですな。」
「頼む。」
そう言って、カウンター裏の部屋向かうポードル。2分後に両手で運ぶ大きさの装置を持って現れた。
「ふぅ、最近使わないので裏に置いてあったのですな。さて、ここに手を置いて頂ければなのですな。」
魔力に関する何かなのだろうを当たりをつけていた弓人は迷わず窓になっているヶ所に手を置く。コンッという軽い機械音の後に横のスリットからカード型の鍵が出てきた。
「これが鍵なのですな。早速ラウンジへ案内するのですな。」
こうして二人はラウンジへ、扉を開けるとこじんまりとしているが5人掛けソファーが4つとバーカウンター、対面式の椅子とテーブルが数セット、作業台が3台置いてある、とても清潔な部屋があった。
「ここはこの店の高ランク武具を買って頂いた方々が使用して頂けるラウンジなのですな。」
言いつつも一つのロッカーへ向かう。その一つにカード型の鍵を温泉にあるロッカーの様に差すと小さい機械音と共に扉が開いた。
「矢は後ほどここに運んでおきますですな。鍵はこれですのでいつでも使って下さいですな。」
「何から何まで、すまない。」
「いえいえ、前も申し上げましたが、これは“投資”と思って頂いて結構なので御座いますな。何一つ気兼ねなく利用して頂ければ幸いですな。」
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「またの御越しを御待ちしておりますな。」
「ああ、また矢の補給にくる。」
そう言って弓人は武具屋を後にした。貰った弓をロッカーに入れた弓人は背中にある新しい武器を感じる。子供の身長には少し大きいそれは外に出ても太陽の光を鋭く反射している。
(いつまでも使えるように大きくして貰ったんだ、長い付き合いになる。宜しく。)
魂の存在が信じられる程身近な世界、弓人はその武器にもそれが宿ると、そう思いながら新しい相棒に囁く。弓の方もこれからの自分の活躍を想像し、心なしか喜んでいるように弓人には見えた。
(うん、やはり君にも魂はありそうだな。)
自分の気持ちだけの会話は弓人の魂に安らぎを与える。数多の魂をその身に宿した少年は今日も帝都を踏みしめる。
(前金だったが、結構お金を使ってしまったな。さて、この弓を使って今日から稼がなくて........あ、)
良い雰囲気の時は大抵こういう事が起きる。弓人限定でない事を祈りたいが。
(お金.........そうだ、コルバの事をすっかり忘れてた。)
緊急依頼で助け出した、あの商会長コルバの事を完全に忘却していた弓人。しかし、
(まぁ、夜でいいか。忍び込む事になるんだし。)
彼の平常運転により、一旦は弓人物語に浮上したコルバは、
またしてもその水底へと沈んでいったのだった。
―――――榊 弓人―――――
服装:不明
武具:弓×1(NEW)、ナイフ×1
防具:革の軽装(仮称)
装備:矢のホルダー×1、リュック×1
金銭:9,757,850 (依頼の報酬は除く)
持ち物:ロープ、糸、その他使途不明
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表記は今後“多量”に増えます。
表示は変更があった時と、その他区切りの良いところで行います。




