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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
32/73

第三十二話 「伝承」


......ッ......ッ......ッ......ッ......ッ......ッ


弓人の静かな足音が図書館の中を進む。意図して静かにあるいているわけではない。


ここは図書館の中心、書籍が本棚に所狭しと並べられ(きた)る読者を今か今かと待ち望んでいる。そんな本達を尻目に弓人は自身の目的の本を探す。


(歴史、伝承、そんなところか。さて、どこにあるのやら。)


このフロアは弓人が思っていたより広い。こういった科学の発展が前の世界と比べて遅れている異世界では、紙など書籍は比較的貴重で数が少ないと思っていた。そのせいで必要な情報が少ないのも困る弓人ではあったが、多くても探すのに時間がかかるのである。


......ッ......ッ......ッ......ッ......ッ......ッ


暗い館内を迷いなく進んで行く弓人。目の暗視装置を十全に使用し、昼間と同じ歩調で足を進める。


(ん~、虱潰しでいくしかないか.........いや、こういう時は、)


そう言ってなにかを探す弓人。少しずつ本棚のエリアを抜け、


(あった、これがカウンターかな。ここに目録があるはずだ。)


弓人はどうすれば簡単に本が探せるか考え、そして図書館にならあるであろう本の目録を思い出した。


カウンターを飛び越え、その後ろの引き出しを物色する。


(あった、これは分類目録か?ここから歴史、いや、伝承の方を探そう。)


弓人はガサゴソと物色する小さな音を出すが、それすらも何か優雅で繊細なものを感じさせる。


一通り探し終えた弓人は全ての目録を覚え、カウンターを後にする。


......ッ......ッ......ッ......ッ......ッ......ッ


本棚が集まる中心部に戻り、そこから壁際を目指す。そこにお目当ての品があるからである。


(ここか。思ってたよりも少ないな。)


そう、これだけの首都を抱えているのだから歴史も長くあってよいだろうと思っていた弓人であったが、歴史や伝承に関する書籍は何故か少なかった。それを疑問に思いつつも本を探す。


........スッ....... スッ............タンッ... スルッ........


上にある本も跳躍して取る弓人。ひとまず一番“自分に関して”書いてありそうな本を10冊程取った。


本を手の上の高く積み上げた弓人はカウンターとは反対の方へ。そちらの椅子と机エリアがあるためである。


(さて、一体“あなた(わたし)”は何者なんですか?)


いつもと違う、誰かに言い聞かせるようなそんな口調で本と向き合う弓人。そのまま厚い表紙を開く。


暗い館内に弓人が歴史を紐解く、小さき音が響く。



////////////////////////////////////////



パタンッ............


ひとまず持ってきた本を読み終える。疲れてはいないが目頭を指でつまむ。


(ふぅ、予想以上だな...........情報の、少なさが。.........しかし、)


そう、歴史書や伝承に(まつ)わる本を見ても自分があの時見た過去の記憶というべきイメージの物が出てこない。否、それに近しい者の事は極端に記述が少ないのである。それも何者かの意思が介在したかのように。


しかし、ヒントはいくつか見つけた弓人。それを頭の中で呟きながら整理する。


(まずは魔道士<アルバート・グェライブ>、この読みにくい名前の御仁はやはり国に仕えていたらしく、それも筆頭魔道士。魔力操作のセンスは当時大陸では右にでる者はいなく、彼こそ戦争の抑止力、とまで言われていらしい。


次が、大技術者<ニコラウス・テンペスト>、彼は国のお抱えの技術者というわけではなく、それどころか技術大臣という地位にいたらしい。巨大なプロジェクトを何度も成功させ、自身も根っからの技術者であったそうだ。


最後、これが曲者だ。大盗賊<ロベルト・スコンティーニ>、彼は当時大陸で知らぬ者はいない程の大犯罪者であり、以前迷宮で冒険者を執拗に襲っていたらしい。しかも名前はいつ付いたか、誰が付けたのかすら分からないものだという。後は、)


ここで一旦呟きを止める弓人。それもそのはず、この続きがもしかしたら自分の強さの根幹に纏わる話になるからである。


(彼は、死にかけの人の体を集めることに執着していたと。)


手のひらを自分の額に当てる弓人。


(人の信ずる魂の存在、死と共に放出される魂、魔力、はぁ、これが正解なのか?)


心に一時の物悲しい静寂が訪れる。


(この体になってまだ2週間程、はぁ、こういって途轍もない重要な真実は最短でも1年は経ってから知るものだろうに。)


静かな図書館がさらに静けさを増す錯覚を覚える。しかし、これは未だ推論の域を出るものではない。では何故弓人はこれを真実としてみているのか。


(ここまで本を読んできたが。まさかここまで“これだ”と思う文章があるとは。)


そう、弓人が本を読み進めていると、ある特定の文章で“まるで自分の事を書いている”と錯覚する場面に遭遇することがあったのである。否、錯覚どころか目がその文章から離れず、それが示す場面が記憶から蘇ってくるようで、


(恐らく、人物としては正解だ。でもな、)


ここで弓人は思い返す。これらの情報は本のどんな文章から得たものかを、


(本文というよりは本の最後の“参考”程度の場所にしかないとは。仕えてた国の名前すら無い。これじゃ本当に“伝説”じゃないか。)


本としての不確実さと自身の確実な信用の間で思い悩む弓人。しかしこれ以上の収穫は無いと踏んだのか立ち上がり本を自分の手の上に積み上げる。そのまま元の本棚へ。


本を返す道すがら弓人は考える。


(大盗賊、成程、言い得て妙だな。その人の魂まで盗み、喰らうとは。)


弓人は既に自分の正体の大部分はこの大盗賊だと当たりを付けていた。そうでなくてはこの多くの、そして偉大な魂達の存在を説明できないからである。


........スッ....... スッ............タンッ... スルッ........


本棚に着いた弓人は取った時を同じように元ある場所に本を返す。未だ頭の中ではぐるぐると考えが渦巻いていたが。


(うん、まぁいいか..........。俺が最強であることには変わりない。いや、最強どころか、)


ここで一旦切る。


(“これからも”最強を目指していけるんじゃないか?)


薄い微笑が周囲の温度を下げる。心なしか本棚が弓人から遠ざかった錯覚を覚える。


そう、弓人は自身の中に眠る“罪深き魂”の存在に悩んでいたのではない。それどころか“こんなにも便利で最強の魂”の存在に喜び、打ち震えていたのである。


(俺の“射的の魂”もここに組み込まれる筈だったのかね。)


弓人は見える筈の無い空を見上げる。


(悪いがここからは俺がやらせてもらう。いや、本当に悪いな。)


自分の中にいるであろう人物に謝り、弓人は行く。


(また、やることが増えたな。)



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