第二十七話 「魂と力」
「あ!、ユミヒトさん。」
「.........。」
最近弓人が組合支部に顔を出すと反応するようになってきた受付嬢。弓人は名前すら知らないのだがなんだか積極性が日に日に増している様に感じる。
(俺が“勘違い野郎”じゃなくて良かったな。)
弓人は自分がそこまで好かれる性格をしているとは思っていない。高校には友人がいたが自分に集まったわけではないし、クラスの中心でもなかった。しかもこちらの世界に来てからその性格は強まったように感じられる。つまりは、
(支部長の指示か?んん、そうであって欲しくはないが、何かあったら後で心に大きな傷を負いそうだ。.........負ったら負ったでこの支部を帝都ごと無茶苦茶にしてやるがな。)
魔法が存在する世界、つまり超常の力が満ち溢れる世界で心を読む者がいないとも限らない。しかしそんな事を知ってか知らずか弓人は支部のど真ん中でそんな物騒な事を考える。
すると、まるで「ここを壊されても敵わん。」と言わんばかりのタイミングで、
「ああ、こっちこっち。」
受付カウンター後ろの階段の上、他の冒険者のいるテーブルのエリアから微妙に見えないそこから、
あのいけ好かないエルフ(♂)がこちらを手招きしていた。
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「やあやあ、近頃頑張っているようだね。よかったよかった。」
(お前のために頑張ってるわけじゃねぇよ。)
冒険者組合支部長ドリーの挨拶に弓人イライラするところから始まった会談。ドリーは気を悪くさせたなどはビタイチも思っていないような顔で続ける。実際思っていない可能性が圧倒的に高い。
「そろそろ君のランクを上げようと思うのだけれど、どうだい調子は?」
「ああ、別に変らない。」
素っ気ない返事をする弓人。相手が男である以前にやはりこちらの真意を見通すのが上手そうな相手は苦手であった。
「それではランクを上げよう。ああ、気にしなくていいよ。君の場合は不自然にならい程に早くランクを上げるようにしているから。」
弓人の反応に気にすることなくランクアップを告げるドリー。加えて弓人が疑問に思っていて、聞かなくてもいいと思っていた事に答えを出してくる。そう、こういったランクの昇格には、一定の依頼を受けてポイントの類を貯めたり、昇格試験などを突破するのが定石である。弓人はそんなファンタジー的知識を持っていたが、ここではそこまで役に立たなそうなのはこの2週間で嫌という程体験している。今回もその類だと弓人も考えていたが.........
(あ、冒険者組合の冊子、読んでない。)
組合に登録してからすぐあの商隊の魔物騒ぎに巻き込まれていったため、そのゴタゴタですっかり冊子の存在を忘れていた弓人。ファンタジーの定石以前にこの支部の常識すら理解していない自分に半ば唖然とする。その顔に出る程の驚きにドリーもまた驚き、
「ん?、何かランクが上がった不都合でもあるのかい?」
「あ、え、いや別にない。今の(顔)は関係ない事だ。」
そう弓人に対して問いかけた。無意味な取り繕いが必要となったしまった弓人。このあまりにも間抜けな失敗にこの時ばかりはドリーも真意を見抜けなかったようである。
図らずもドリーから一本取った弓人はそのドリーに聞きたいことがあった。年齢は知らないがこの帝都で支部長という立場、そしてエルフであることから相当年を食っていると見ていた。
「今、一番聞きたいことがあるんだが。」
「?、なんだい。言ってごらん。」
弓人がいきなり醸し出した珍しく真面目な雰囲気に目を瞠りながらも同時にこちらを刺すような眼差しを向けるドリー。そんなドリーに弓人は言う。
「強さとは、なんだ? どこからくるものなんだ?」
その言葉にドリーは少し表情を軽くする。
「なるほど、うん、なるほど合点がいった。そうか、君は“そこ”が分からなかったのか。」
ドリーは少し表情を戻して弓人を見る。
「それでは教えよう。この世界に生きとし生けるモノの強さというものを。」
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「この世界には魔力が満ち溢れているだろう? それも魂から漏れ出たエネルギーだ。」
(え、満ち溢れているのか?)
「つまりは、あらゆる出来事を思うがままに起こす“力”をその魂は世界に垂れ流しているんだよ。」
(そうなのか?)
「つまりその力の根幹“魂”にも大きな力があるといっても不思議ではないよね。」
(なるほど。)
「そこで今現在は“生き物の力は魂に依存する”というのが考え方の主流なんだよ。」
ここまでの話を聞いて静かに頷く弓人。そんな弓人へドリーは然も常識のように質問をする。
「君は、魂を成長させるにはどうするかを知っているかい?」
(え?わからんぞ。)
「その調子では分からないようだね。うん、説明しよう。」
ドリーは1枚の紙をテーブル上に出す。如何にも高級そうな羽ペンでゴブリンの様な魔物と人間を描く。そこへそれぞれの胸のあたりに大きめの丸を加える。
「この丸はその生き物の魂だ。実際の形は分からないけれどね。君はこの生き物が死んだらこれがどうなるか知っているかい?」
「確か、魔力が漏れ出す.........。」
「そう、その通りだよ。だから力ある者、若い者が死ぬと近くの魔道具が反応する。」
一旦話を区切り、
「そこでだ。この時放出されるのは本当に“魔力だけ”なのか。当時の魔法学者は疑問に思ったのだろうね。」
「.........。」
「彼らはおかしいと思ったのさ。これだけの事象を起こす力の源たる“何か”がそのまま何所へともなく瞬時に姿を消すことに。」
そこでドリーはこの疑問に答えを出す。
「そう、それだけの力の存在が一瞬で消える筈が無い。君も察しが付いたと思うが、人や魔物は他の生き物を殺す事で成長する。つまり、」
弓人はそこでハッとなる。この話から察することが出来ない弓人ではない。
「解き放たれた魂は、解き放った者の下に集まるんだよ。」
つまり弓人のこの力の源は.........
「君の魂は、僕が考えつかない程に多くの魂を喰らってきたようだね。」
弓人の鋼と呼ぶに相応しい心臓が跳ね上がる。
「さぁ、君は一体なんなのだろうね。」
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一気に警戒の色を濃くし、立ち上がる弓人。そんな弓人にドリーは、
「ああ、あ、安心して。君をどうこうする気はない。いや、出来ないんだ。」
体を震わせていた。弓人は自分でも驚く程の威圧をドリーに放っていたらしく。支部長たる彼ですらその威圧に体が耐えられなかった様である。
「き、君の事は信用している。ふ、ふぅ。この短期間にって思うかもしれないけど、僕は長い時間ヒトを視てきたんだ。君が何者である以前に何か常識が欠落していることも当然分かっているし、何より君の目は“何か”が違う。それも分かっている。信じて欲しい。」
「............。」
ドリーにここまで長い弁明をさせてしまった弓人は、怪訝な顔を崩さないものの、肩を竦め申し訳なさ半分、呆れ半分で椅子に座る。
「ふぅ、君は本当に恐ろしいね。いや、僕が会った中で一番だよ。」
「.........そりゃどうも。」
お互いに少し会話の調子を戻す。それを許しと思ったのかドリーが続ける。
「つまり、君は、魂が恐ろしく強いはずなんだ。さっきはあんなこと言ったけど、もしかしたら昔途轍もない強さの魔物を倒したのかもしれないね。いや昔というのも変か。」
そこで暫し考え込むドリー。たっぷり3分間、弓人も落ち着くために静かに待った。
「んー。.........自分の事をあまり知らない様だから言おう。君は早くに自分の強さを正確に測った方がいい。魔法やその他の適正もね。学園、なんかに通えたら最高なんだが。」
「いやそれは........」
弓人はあからさまに拒絶の態度を取る。弓人は特に学校が嫌いではないが、ここは異世界、そして貴族が住まう帝都、ただでさえ面倒事満載な学園に行くのならば、せめて自分の力量と一般人の基準を知っておきたかった。
「そうだ。1つだけ安全で可能性のある場所があったよ。なんで初めに思いつかなかったんだろうね。」
いいアイディアを思いついたとばかりに表情が豊かになるドリー。そのまま彼は答えを言う。
「時間は、あるよね? それでは行こう。自らの魂と最も近づく場所。教会に。」




