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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
26/73

第二十六話 「裏の非常」



「グゥッ」「ギ」「ッ」


魔物の首、臓物、四肢に至るまであらゆるものが散乱する。

人気(ひとけ)の全く無い”ここを命を散らした魔物が汚す。


逢魔が時、夜の訪れを知らせる沈みかけの太陽が森の木々に鋭い影を落とす。

ここは魔女の庭、狼の魔物が住まうとされる帝都に近い森。不干渉を決め込む人間と、森から出ない魔物によって均衡が保たれてきた土地。

しかし、強欲な人間達によってその均衡が崩されてしまった土地。

あらゆる悪意とそれに抗うモノ達が劇的な物語を繰り広げる...............




はずだった土地。


あらゆる悪意を()退()け、その小さな体から大きな“劇的”を生み出す怪物。今は人間の側に立っているように見えるその怪物は、さて、自分がその陣営にいると思っているのだろうか。人間が勝手に思ったのか、魔物は悪であると思っているのか、はたまた全てはただ自身の満足のために繰り返しているのか。




この静かで小さな怪物の“劇的”は止まらない。







////////////////////////////////////////



(150。これくらいでいいか。)


自分の体と一体になったナイフを見やる。もはや弓人にとって日常に感じているこの虐殺は、世間一般の、否この世界では“非常”のはずである。そうでなければ人間か魔物、どちらもが生存している土地が人間の国、それも首都近くに存在するはずがない。その非常を犯す者は変わらない表情で薄暗い森を歩く。ここは魔物達の|国(森)、人間がすまし顔で歩いてよい所ではない。12、3歳に見えるその容姿は見る者に庇護欲を、殺されるモノには疑問を抱かせることだろう。


(今日も浅い所でいいか。いや、この前弓ができるまで行かないと決めたばかりだったな。)


弓職人ポードルは弓が仕上がるまであと10日と言っていた。それを聞いた十分早いと思った弓人であった。しかしそれよりも、


(実際弓ができたところで森の深くまで“行ける”理由になるのか?よく考えれば俺の弓の運用法は“狙撃”なわけだし。新しい防具とかナイフの方が良かったんじゃないか?)


そう、ここはあくまでも森。弓を引絞る十分な空間と弓での戦闘が出来る程には木々の間は広いが、弓人の弓の使い方では特にメリットを感じ無い事も事実である。


(まぁ今のところ隠密してれば見つからないからな。この前は調子に乗って、目の前で小踊りしても気づかれなかったし..........。)


その時は何か悪い事をしているドキドキ感よりも寂しさが勝ってしまった弓人。寂しさに身を任せて(?)その魔物を八つ裂きにしてしまった事は記憶に新しい。その後血の匂いに誘われて来た魔物を姿形が分からない程............したの秘密だ。


そんな純朴(?)な弓人は今日も延べ150の獲物を喰らい、これから帰還の途に着く予定である。魔物が出る森で既にナイフは鞘に納め弓は背中だ。持っていても装備していない時点で丸腰と同じ意味になる戦場と言うべき場所で、なんとも余裕な弓人であった。


このような形で毎晩狩りの対象になっている魔物には酷な話だが、弓人は魔物に対する興味関心よりも気になる事があった。それは自身の強さも然ることながら『この世界における“強さ”』とはどのように決まっているかという疑問である。バラルから聞いた魔法にまつわる話、“魔法とは自らの魂から漏れ出た生命力を常世の事象を変えるために使用した結果”から、魂なるものが実在するならばその強さが魔法の強さに関係するかもしれないと考えることができる。つまりこの場合の強さの根幹は“魂”である。

魔法に関わらず人外の強さを持つ者が自分以外にいないとは思えない弓人さらに考える。冒険者組合のランクがあそこまで細分化されている事。高位の冒険者をお抱えにするくらいの事が起こること。そして、


(ポードルの店で最初に引いた弓、この体になってからでも分かる、前の世界からしたら常識はずれの弦の強さだった。)


そう、あの店の弓は恐ろしく重かった。人体に張り巡らされている筋繊維では説明にならないくらいの力が無ければあの弓は引くことが出来ない。魔法で体を強化する者の話を聞いた弓人であったが、専門職でも100人に1人が魔法を使用して生計を立てられるくらいだとも聞いている。あの店の弓を全て引いたわけではないが弓人が引かされた弓がヒトでは絶対に引けない重さであったことは考えにくい。それをしていたら客は一人もとれなくなってしまうし、なにしろ今回製作している弓がさらに重いのだ。それを作る技術が既にある時点であの弓が人外用、もしくは客に対するネタである可能性は低い。


つまりこの世界には単純な筋力、技能で説明できない“強さ“があるはずである。


(それが分かれば俺が何者であるかということも少しは分かってくると、思いたい。)


この体になって2週間と経っていない。全ての機能が人外のこの体を授かったことはこの世界では幸運であっただろう。それでも正体不明に強さをいうものは本人にしてみても怖いものである。


危険な森での考察を終えた頃、森の外縁が見えてきた。正確には弓人は外縁の位置をはっきりと認識していたが、そこは人間情緒、本当に近くになると安心するものである。それを人外に当てはめていいかは甚だ疑問ではあるが。




弓人は今日も、裏の非常を終える。





やはりこの“非常”は、この世界のものである。決して弓人に適用されるものではない。これは後世、歴史書で語られる一幕であるだろう。



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