第十四話 「火急の要請」
その男の叫びとも言える報告にギルド内は騒然となった。よく見ると甲冑に身を包んでいる。
「皆さん落ち着いて下さい。そこの貴方、もっと詳しく話して頂けますか?」
目の前の上司風受付嬢が男に尋ねる。こんな時でも至って冷静に。
「あ、.......わ、私は南正門の警備をしている者だ。で、伝令に来た。なんでも今日明け方出発した大きな商隊が森から出てきた魔物に襲われたらしい。商隊から逃げてきたものが正門に来た。ちょうどその頃、街壁の監視塔で遠見の魔法を使える者が襲われている商隊を発見した。」
「なぜ組合伝に連絡しなかったのです!!」
(おお、警備だと分かると急に口調が変わったな。そういった組織に雇われている者同士だからだろうか。)
弓人のどうでもいい考察をしている間にも話は進む。
「わかりません。上からの指示で急に伝令を走らせるように言われたのです。私は下っ端ですので。」
(やはり戦に不慣れなものから伝令を任されるものだ。........ん?今組合伝って言ったか?)
「組合には何か連絡手段があるのか?」
事は急を要すると分かってはいるが、好奇心が勝ってしまった弓人。
「はい。それぞれ全てではありませんが、少なくとも帝都の支部は通信の魔道具を所有しています。ですが.......」
「今回何故か使われていない、と?」
「はい、そのようです。」
不思議なこともあるようだ。と弓人は呑気な事を考えていたが、ここである事を思い出す。
確実ではないが、自分の魔力量が桁違いに多い事を。
(反魔晶が割れたのも、通信障害も全部俺の所為のような気がするぞ.........)
「と、とにかく救援を!!誰でもいい!」
弓人が周りを見渡すと皆乗り気ではないようだ。
「外縁支部には戦闘専門の冒険者がいるはずです。その方たちは?」
「なんでも監視塔の者によると旗色は良くないらしい、です。」
状況は悪い様である。男は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「しかしここは帝都内側の支部です。戦闘向き且つ“自由な”冒険者は限られています。」
伝令の男は顔がみるみる青くなる。
(はぁ、これも......これもテンプレだと思えば......)
弓人は立ちあがった。そして言う。
「俺が行こう。」
周囲の視線が弓人一点に集まる。まるで刺さるように。
「君?......君が行っていくれるのか?」
当然のことながら怪訝な顔をされる。否、悲壮な顔が混じっていて分類の出来ない顔になっているが。
「あぁ、その商隊、助けてやってもいい。」
周囲は驚きの目をする。
「(あのなりであの自信とは、どこぞの貴族のぼんぼんか?いくらお高い金で訓練しても実践は比べものにならないと言うのに。)」
「(いや、高名な魔法使いの弟子かもしれんぞ。もしくは魔法使い本人で実はずっと歳かも......)」
「(あ、かわいい。)」
一部聞きたくない囁きが混じっていたが弓人は気にしない。それよりも伝令の男にはきたいことがあった。
「それにしても何であんたはそんなに必死なんだ?」
仮に真面目な職業軍人とはいえ、別の舞台や組織、冒険者の旗色が悪い事でここまで悲壮な顔するのは不自然だと考えた弓人は言った。それに対して男は、
「それは.......商隊に、俺の妹がいるんだ.........。」
極めて個人的な理由を、言い放った。
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今弓人と警備の男は大通りを外縁の門に向って走っている。当然、男に合わせた速度ではあるが。
「はぁ、はぁ、んぐ、はぁ、はぁ、はぁ」
男の息は荒い。次第に弓人に追いつけなくなっていき.........
「先に行っているぞ。」
「あぁ、は、はい行ってください。妹を、お願い、します!!」
最後だけ気合いの入ったお願いを受けた弓人は大通りを掛ける。一応人間(?)の速度で。
しばらくして気付いたのか、
(正門が見えないな........夜に屋根伝いに走った時は気にならなかったが。)
人外の速度では気にならないが、やはり人類には遠い距離である。しかし、
(いや、魔法があるし、なんだっけ?走るのが早い輸送系の冒険者もいるんだっけ?ならば.......)
タッタッタッ、タッ...............トッ
理由を付けて移動手段を変える事を決めた。特に述べるまでもない。あれだけ多くいる通行人の視線が通らないほんの一瞬の間に屋根に飛び上がる。弓人も自分の体がびっくりする程の高い所に好かれている、と思った。
こうなると弓人にとって帝都は狭い。多くの人の努力で造られたであろう帝都に対する、人外にのみ許された暴言である。
弓人はそのまま正門へと急ぐ。そして、それはすぐに目の前に見えてきた。
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トッ.........
裏路地に静かに着地した結弓人は大通りの方へ、つまり正門に向かう。すぐに高さ7メートルほどの門が見えた。
その横には壁を小さくくり抜くように小さな門が左右に4つずつ開いていた。そこは人通りが激しく、
「はい!次次!商人組合の証明は3番だ!冒険者は1と4番!」
責任者と思しき人物が慌ただしく指揮をとる。弓人は音もなく、群集を巧みに避けてそこに近づき、一言、
「商隊の救出に来た。」
「何?お前がか?」
テンプレ的に当然な反応をされた。当然と言えば当然だが、外の状況は分かっているらしく、“商隊の救出”の一言で理解はされた様である。
「ああ、南内側?の冒険者組合の支部から来た。ここの警備の者が来たのだが?」
「そうか、あいつが?お前を?」
(あいつとはあの商隊に妹がいると言う兄のことか。)
「ああ、商隊に妹がいると言っていた。」
「それならリガードのことだ。ああ、これ以上話している時間はない。組合証はあるんだろうな?」
弓人は黙って差し出す。
「ん~.........何?ランクJだと!?ふざけてんのかっ!?」
当然の反応である。戦闘専門の冒険者が苦戦しているということは一介の冒険者、つまり素人同然の軟弱戦士が敵う相手ではない。そう........ただの素人なら。
「行くだけなら無料だろ?それに俺が死んでもそっちに不都合はない。」
(挑発気味だが大丈夫だろうか.........。)
「っ............分かった組合証がある以上門の通行は出来る。さっさと行け。」
組合証を受け取ってた弓人は無言でその場を立ち去る。そのとき、
「(チッ........くそガキめ.........死ぬなよ。)」
なんとも優しい世界の、囁きが聞こえた。




