第十二話 「リスタート」
朝、ムクリと布団を押し上げた弓人ははっきりとした意識でベッドから出る。この体、やはり寝起きが非常に良いらしい。
(昨日は我慢できずに冒険してしまった。失敗してもいい、今日からはテンプレも使って堅実にのし上がるぞ。)
のし上がると言っている時点で野望が滲み出ているのだが堅実さを持ってことに当たればこの特殊な体を持つ弓人には不可能ではない。冒険者がいて、魔物がいるのだ。力あるものが得をする社会の仕組みは多く存在するだろう。それらを含めて情報を集める必要がある。弓人がこの世界でどれだけの力を持っているのか。他の冒険者と比べてはどうか。確認する事は多い。
(とりあえず朝食を摂ろう。)
宿屋の飯がうまいと考えるだけで腹が鳴る。
弓人としてはこの腹の音でさえも一般人より抑制されている気がするのだが。
本当にこの体は何をして生きていたのかと思う。
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「おはよう。」
「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」
そんな一日の始めを代表する会話を交わしながら席に着く。昨日と同じカウンター席だ。
朝食はレタスの上にハムと目玉焼きがのっているもの、その横にスクランブルエッグ、昨日と同じくスライスされたフランスパンとコーンポタージュに何か具材が入ったスープだ。流石に朝から酒は出ない様である。
出てきた食事に再度お腹が鳴り、早速と食べ始めた弓人。その食べている間にも食欲をそそる朝食に舌鼓を打っていると突然バラルの声が掛かる。
「今日はどうしたんだい。なんだが昨日とは打って変わって何か悩んでいるようだが。」
そう、弓人は悩んでいるのだ。冒険者組合に行こうかどうかという事に。バラルは当然のように弓人の感情を読み取っていた。
「実は冒険者組合に興味があるんだ。」
流石に、『いつの間にか異世界に落とされて元の体ではなくなっていた』なんて言えるわけはないが。
「(そうか君は何かと世情に疎かったね。)」
気を利かせたのかバラルが若干小声になる。
「それなら組合に入ったらいいじゃないか。力はあるんだろ?冒険者組合は来るもの拒まぬだし、何よりもいつでも人手不足らしいしね。」
こっちに来てからこの顔を晒し続けているわけだが、フードも無く、別に注目されるわけでも敵意の籠った視線を向けられるわけでもないので問題にしていなかった。あとそれとなく認識阻害(?)の効果で有名でもばれないないと言う正体不明の自信があったりしたのだが。
「人手不足と言ったがそんなに組合員は少ないのか?」
「いや少ないわけではない。むしろ多いよ。ただ討伐や護衛、簡単な手伝いまであらゆる種類の仕事があるんだけど、支部によっても需要と供給に偏りが生じるんだよ。」
(つまり高速な移動手段がないここでは仕事ごとの需要の変化にそれを得意とする人員の数の変化が追い付かないと言う事だろうか。)
弓人の認識の基準は地球のそれである。当然このような世界観を知っている身としては知らない人よりはましな異世界生活が出来るはずだが.......。
「つまり今はどちらかに偏っていると?」
「そう、その通りだ。ここ帝都は南に『魔女の庭』と呼ばれる森がある。その森は人間が入りさえしなければ害は無いんだけど、最近どうも状況が変わったらしい。」
既に『討伐』関係の仕事に偏っていると当たりを付けた弓人は隠しもせずにニヤリと笑う。
「街道に出てくる魔物の討伐の依頼が急激に増えてね、専ら帝都内の仕事が多かった冒険者組合はてんやわんやさ。」
ここで弓人は疑問に思う。
(ん?帝都内には戦闘系の冒険者は少ないのか?)
「帝都の冒険者支部には帝都から特殊な郵便物を運ぶ足の速い者や力仕事、清掃や土木作業に便利な魔法を持つ者が多いんだ。帝都には帝国軍が常駐しているから戦闘の得意な者は戦争準備体制などの御触れが出ないと集まらないんだ。」
(なるほど、それなら納得出来るな。しかし、南の森か.........存分に、暴れてしまったな...。)
早速討伐任務を遂行してしまっている事と考えると何か頭が冷えてくる。
しかし弓人はこの体での成り上がりを夢見ていたものの、十分にこの世界で食べていけることに内心安心していた。以外に小心者である。
「それに帝都内の戦闘の得意な冒険者は誰かしらのパトロンがいて、その依頼を優先で受けている。組合を介した長期契約もあるし、何しろ上位の者はお抱えにもなっているしね。だから戦闘の得意な者でまだ唾のついていない者を冒険者組合は血眼になって探しているらしい。君の身体能力もそこで役に立てると思うよ。」
こちらも初めて入り口から入った時のことだろうか、弓人の身体能力を期待した台詞を放つ。
「自分の強さは知らないが、そこで役立てるのならば顔を出してみるよ。」
「期待しているよ。」
「..........期待しているとは?」
「ん?僕の宿屋をご贔屓下さっている冒険者が有名になれば宿も有名になるだろ?」
そこは言わない方がよいのではないかと弓人は思う。弓人自身こういった遠慮のない気さくさも嫌いではないが。
「あんたの宿屋の売上に貢献出来るように精々がんばるよ。」
食後の会話を終えた弓人は心なしかスッキリした表情で自分の部屋に戻った。
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(やはり始まりは冒険者か。)
主人公が強い転生・転移ものは冒険者組合から物語が楽しくなっていくという考えは、そういうもの好きの弓人の中で常識だ。しかしこの体についての謎が弓人の決断に待ったをかける。
(組合に行ったとして、即お縄、もしくは戦闘にならなければいいが。)
弓人は自分の体が地球にいた頃と比べて強い事は当然理解している。それでも魔法が存在する以上、それを越えてくる者がいることも大いに考えられることも事実であり、それを危惧している。しかし.........
(ここは賭けてみるか?組合に行く時点で賭けの時点でこの物語難しい気がするが。)
弓人はまだ気付いていない。
この大変軟な決意が、弓人が思ったものとは違う物語を進めていくことに




